また聞こえる・・・。
妖狐の死の間際の声が。
また感じる・・・。
その命の鼓動が小さくなっていくのを。
また見える・・・。
最後の力を振り絞っていきつづける妖狐達が、
そして彼らが倒れ行く瞬間が・・・。
私はこの街にいる。
何処に行くでもない。
・・・いや、行く事が出来ないといった方が正しいだろう。
この街からは、たった一歩でも出る事を許されない・・・。
私の体は、呪われているから。
そして私は、死ぬ事が許されない。
私にあるのは、呪われた魂だけだから。
その肉体が衰え、朽ち果てると、すぐさま次の体が形成される。
そうして、もう何百年も、何千年も生き続けてきた。
今日も散り行く、妖狐の魂。
すぐ側に、私はいつも立っている。
心配しないで・・・こっちにおいで・・・。
大丈夫・・・。安らぎは、ここにある。
星のように瞬く、幾多の魂が私の周りを回る。
そして、私はそれをすべて吸収する。
そして、それ以外にも私は奔走しつづける。
警告。
そう、妖狐と一緒に住む人に、その狐の死を警告する。
そんな役回りだと、いつも思っているが、
それもすべて・・・私の役目。
そして、今日もまた、一人の男の人に、狐の死を警告した。
相沢祐一という名のその人には、沢渡真琴という狐がいた。
まずは最初に、真琴が狐である事を話す。
いつもの事だけれど、その事実を信じようとする人は少ない。
そしてその後、質問をする。
「一度、その方が熱を出した事はありませんか?」
そして、その答えによっては、すぐに死の宣告をする事になる。
「次に熱を出した時が、最後だと思って下さい。」
いつもながら、この言葉を言う時が一番つらい。
しかし、他に言ってくれる人はいないのだ・・・私が言わないと。
そして、その魂も、いつかは私のもとに現れる。
例外として復活を果たすその魂は、
しかし、大抵は私の中で静かな眠りにつく。
私は天野。
この町に住む、妖狐の母。
狐にとっての出発点にして、回帰点でもある存在。
狐にとっての揺りかご、そして棺。
今日も妖狐の死を見つめ、街を暗躍しつづける。