4つの別れ、3つの邂逅(斉藤ストーリー)最終章


少しは心を開きやすくなっただろうか。
北川、水瀬さん、美坂さん、美汐。
これだけの人に囲まれている日常。
そんな俺に、次の邂逅が訪れる。

それは3学期が始まってすぐ。
担任の石橋が話をした。
「えー、今日は新入生を紹介する。」
瞬間的に、周りから「おおっ!」とか言う声が上がる。
そこに石橋の一言。
「ただし、男だ。」
静まり返る。
良く思うことだが、うちのクラスの奴はわかりやすい。(特に北川)
そして、男が一人入ってくる。
その時思ったこと。
こいつとは、相当気が合いそうだな。
そして、こいつは多分、1ヶ月後くらいには昔の俺のようになってるだろうな。
何故そう思ったかは分からない。
もしかしたら、祐一というそいつも狐と何らかの関係があるのか。

帰り際、俺は美汐にその話をした。
美汐ははっきりと言い張った。
「その人も、妖狐に関係しています。」
果たして、1ヶ月後、そこには俺と美汐が思った通りの男がそこにいた。

祐一も、妖狐に関して何かを調べていた。
美汐も俺も、これ以上妖狐のことで人を悲しませてはいけないと思った。
但しそれは、今は胸の中に押し込めている自分の傷に触れることになる。
それで俺は、きちんとした行動が取れなかった。
ここで俺が思ったこと。
美汐は強い人間だということ。
自分から妖狐の話をするだけでも辛いはずなのに、
あいつにしては親身に、祐一の話に答えている。
俺はというと、美汐の裏方に回っているだけだった。
俺が調べていたこと、それは妖狐を生きているままにしておく方法。

それまでに分かったこと。
やはり一度、狐は死んでしまうこと。
こればかりは、どう抗っても無理らしい。
とにかく探すことに専念する。1つくらい狐を復活させる方法があるはずだ。
とにかく本という本を読み漁る。
そして、見つけた。
「その狐が死ぬ前に、『生きた証』を見つけること。」
これを教えようとする俺を、美汐は制止した。
「この答えだけは、自分で見つけないといけないんです。
『生きた証』を、誰かからもらうことはできます。
でも生きた証を与えるのは、きっとその人じゃないといけないんです。」
俺たちにできることは、見守ることだけだった。

「生きた証」。それは決して物だけとは限らない。
時には言葉、そして行為も「生きた証」になる。

そして祐一は、自力でその証を与えることができた。
その結果・・・妖狐「真琴」は「人間」として復活した。

祐一の顔に、最初の頃の笑顔が戻る。
すぐに憎まれ口をたたくようになり、俺は安心した。
仲間が増える。
幼なじみの北川と、高校に入ってからの友人である水瀬さん、美坂さんと、
親友となり得た祐一と、その恋人の真琴。
そして、恋人の美汐と。
さらにもう一人・・・。



その日、俺は街を歩いていた。
するとそこに、見慣れた顔があった。
それもそのはずだ。その顔は俺が生まれたときからそばにいた顔。
そして、俺が別れを二度体験した顔。
まさか、その人も復活していたなんて。
「父さん?」
するとその人は、俺の方を見て、にっこり笑って、
「おお、武士か。元気にやってたか?」
と言った。
俺は父さんに抱き着いて泣いた。
しかしそれは今までとは違う。
悲しみの涙ではなく、本当に久しぶりに流した嬉し涙。
俺は人目もはばからず、夕日が傾く頃まで泣きつづけた。

「生きた証」は、何も物だけとは限らない。
時には「言葉」や「行為」も「生きた証」になる。
俺は「父さん」の死に直面し、それに目を背けずに、しっかりと「別れ」を告げた。
この「別れを告げること」も、俺と「父さん」にとって見れば「生きた証」。
今まで何故復活する狐が少なかったか。
それは、死に直面した人が、「別れ」を告げられなかったから。
そして「別れ」と言ういきた証をえた「父さん」は、
この世に人間として復活することができた。
これからは、また一緒に暮らすことができる。

俺は、奇跡を起こしてくれた人に感謝した。
あの時奇跡が起きていたら、こんな事は起きなかっただろう。
自分の命を犠牲にしてまで、俺に奇跡を残しておいてくれた人。
昔の恋人が微笑んでいるような気がした。
・・・有り難う。俺、父さんや美汐と、絶対幸せになるから。
俺はその時、感謝の気持ちでいっぱいだった。





1年後。
俺は学校を卒業した。
腐れ縁なのか、北川とは同じ大学、しかも同じ学部だった。
ほかの友人とはバラバラになってしまったが。
横には、笑顔を取り戻した美汐もいた。
どうやら美汐の家にも、弟が戻ってきたらしい。
笑顔を取り戻した美汐は、本当に可愛かった。
「おーい、写真取るからそこにならべー。」
父さんの声。隣には模範囚として異例の速さで出所できた母さんもいる。
全員が並んで取った写真。
俺の親友、恋人、そして親友の家族、自分の家族・・・。
皆の顔は、一様に晴れ晴れとしていた。



そして今。
俺は大学3年のとき、美汐と結婚した。
そして新生活が始まる。
本当にくらい時期を送ってきたからこそできる、明るい家庭がそこにある。
卒業したときの写真を見て俺は思う。
この時の笑顔が、いつまでも続きますように。


初夏の朝、写真を片手に、空を見上げながら、そう俺は願った。

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いかがでしたか?
かなりまとまりの無い文章になってしまいました。
やはり自分には長編は無理なのかも知れませんが、
この小説に共感してくれる人が一人でもいたらいいな、と思います。
ではまた、次の作品でお会いしましょう。

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