「んっ……。ここはどこ?」

　見なれた天井だけど一瞬、どこか分からず考えてしまった。そっか、あの後すぐに気絶
しちゃったんだ。勝負して弟さんとひよのさんの策略に完全に敗北した。

「目覚めたか?」
「えっ?　あっ、こーすけ君」

　ベッドの隣にある椅子に座っているこーすけ君。その手には網目模様のメロンがあった。

「そのメロンどうしたの?」
「ああ……。ラザフォードの奴が昨日は持って来なかったから、だから怒ってるんじゃな
　いかと思って持ってきたと言ってた」
「ふーん。弟さんとひよのさんは?」
「帰った」
「えっ?」
「ラザフォードが交渉したと言うか。どう言えば納得出来る?」
「全部教えて」
「後悔するなよ」
「しないよ。絶対に」
　
　大抵の事なら後悔しない自信がある。けれど、こーすけ君の口からその自信を揺るがす
言葉を聞く羽目になった。

「カノンの奴がハンターとして来日する。下手をすると全員殺される」
「まさか、そんな。カノン君が!?」
「俺も信じたくはなかったけどな」
「アイズ君はどう言ってたの?」
「絶対に止めてみせる。そう言ってどっかに行っちまった」
「そう……そうなんだ」
「あいつのことだから心配は無いと思うけどな」
「うん。でも……」

　アイズ君は優しすぎる。だから、きっと止められない。そう思う。

「それじゃ、また来るからな」
「うん。またね」

　こーすけ君が帰った後の病室で私は考える。どうすれば、今の自分でもアイズ君を助け
られるか。そんな事はどだい無理だと分かってても考えるしかない。

　数日後。控えめなノックに返事をするとアイズ君が入ってきた。

「リオ、元気か」

　いつものように無表情だけど心配してくれているのは分かる。

「アイズ君」
「話は聞いたようだな」
「うん」
「そう心配そうな顔をするな。俺は大丈夫だ」
「嘘つき」
「……。凄く悲しい顔をしている」
「やはり、分かるか」
「……」
「カノンは確かに親友だが、このまま朽ち果てる為だけに死ぬつもりは無い。だから……
　あいつを止めに行く」
「……」

　何か言いたいけど言葉が出ない。それがもどかしすぎて、自分が自分じゃないみたいに
思えてくる。

「リオ、泣いてるのか?」
「えっ?」

　そう言われて頬に手を当ててみると確かに私は泣いていた。どうして?

「泣くな。リオが泣いている所を俺はあまり見たくない」
「でも……でも」

　私が次の言葉を言う前にアイズ君は頭を抱きかかえて撫でてくれていた。
　私が、泣いているとアイズ君も辛いのかな。

「ああ、リオが泣いていると俺も辛い」
「けど、アイズ君が居なくなりそうで怖いよ」

　やってくるのは沈黙で。傍から見てもアイズ君は元気がない。いつも、無表情で殆ど
の感情はあまり出さないけど。今のアイズ君は迷ってるのが伝わってくる。

「アイズ君。目を瞑ってくれる？」
「?　構わないが」

　素直に目を瞑ってくれる。それを見て自分の唇をアイズ君の唇に重ねた。

「んっ!?　り、リオ、今何を……」
「元気が出るおまじない。少しは元気になった?」
「……。そうだな」
「今のは私のファーストキスですよ」
「責任はとる」
「じゃあ、ちゃんとカノン君を止めて無事に帰ってきて」
「分かった。約束しよう」
「ありがとうね。アイズ君」
「礼を言うのはこっちだ。お陰で強くなれそうだ」
「どういう意味？」
「キヨタカが言った言葉を思い出した」
「どんな言葉だったの?」
「秘密だ」
「じゃあ、無事に帰ったら教えてね?」
「そうだな。そうするか」
「ありがと」

　この約束は無茶だとは分かってる。けれど約束をしてくれた事が凄く嬉しい。

「今日はずっと傍にいてやる」
「あたしが眠っても?」
「ああ」
「嬉しいよ。ありがとう」

　アイズ君と色々な話をしていたけど、睡魔が襲ってきて私は眠りについてしまう。
　朝起きた時、アイズ君は居ないんだろうね……そう思いながら寝てしまった。

「眠ったか」

　キヨタカの言葉。人は守るべきものがあれば、どこまでも強くなれる。その人を本当に
守りたいと思うならどこまでも強くなれる。

「夜が明けたら行くか」

　今日は、一緒にいると約束したからな。今は傍にいても構わないだろう。神は世の中に
はいない。だが、もしいるならばベットで眠る少女の幸せをただただ願う。
　やがて夜が明ける。カノン、お前を止める。