夢に見るあの日の出来事。きっと忘れる事はできない記憶。

「これであらかた片付いたね」
「うん。そうだね……」
 あの頃のわたし達はハンターに命を狙われ続けていて戦いを続け
いた。

「カノン君、ここ最近変だけど大丈夫?」
「え、そう? そんな事はない……いや、あるかな」
「えっ、大丈夫なの?」
「ここ最近してないから。欲求不満なのかもね。向こうさんに今回
  は女性いないし」
「し、してないって……な、何を?」

 思わず後ずさってしまう。今のカノン君は危険だと、本能が警鐘
を鳴らす。

「くす。そんな顔をしてどうしたのかな?」
「め、目が怖いよ? カノン君」

 カノン君がわたしを見る目は限りなく欲望を秘めている。逃げよ
うとしても身体が動かない。ハンターと戦っている時でもこんな事
は絶対になかったのに。

「そこまでだ、カノン」
「あ、アイズ君!!」
「おや、アイズ。邪魔をするのかい?」
「相手がハンターなら邪魔するつもりはない。が、味方に手を出す
 つもりならば全力で止めるしかないだろう?」

 銃口をカノン君に向けながらアイズ君は平然とそう告げる。それ
を聞いてカノン君は手を上げて降参のポーズをとる。

「半分は冗談だったんだけどなぁ」
「つまり半分は本気だったと言う事だな?」

 絶対本気だったよあたしに向けたあの目。

「はいはい、分かったから。とりあえず撤退しようか」
「ああ、そうだな。行こうリオ」
「う、うん」

 その後は特にカノン君に襲われる事もなく、ハンター達の襲撃も
撃破していったけど。あの時の目は未だに忘れる事は出来ない。
 もしもあの時にアイズ君が来てくれなかったら、わたしはきっと。

「……」
「……」

 三十分ほど前、わたしの足は無意識の内にアイズ君の居る所へと
向いていた。会う約束なんてしていなかったけど、何も言わず黙っ
てわたしを入れてくれた。

「……」
「……」

 アイズ君は何も聞かない。わたしが話すのを待ってくれているの
だと思うけれど、話すタイミングがなかなか掴めない。

「……。リオ」
「えっ、な、何? アイズ君」
「酷い顔をしている。昨日は良く寝たのか?」
「んーん。夢見が酷くて……ちょっとね」
「なら、寝ろ」
「えっ?」
「聞きたい事はあるが、言いにくい事なのだろう?」
「う、うん」
「なら少しでも良いから寝ろ。もし話せるなら話はそれから聞く。
 ここには俺以外誰も居ない。特にお前を傷つける人間はな」
「あ、ありがとう……」

 その言葉を聞いた瞬間、わたしの意識が遠のいていく。ひょっと
したらアイズ君は……気付いたのかな。

「眠ったか」

 あの時のリオも怯えた目で夜を過ごしていた。撤退した後カノン
にちょっとした罰を与えた夜にリオは俺の所に来た。何をする訳で
もなく今みたいに寝かしつけてずっと頭を撫でていた事を思い出す。

「忘れようとしても忘れられないか」

 忌まわしき血によって運命を狂わされた俺達。一人の男が犠牲に
なる事で希望の道を示そうとしている。
 だが、呪われた血に勝てずに途中で脱落する者が殆どであり俺や
リオを含めても、残りは数名。

「……。アイズ君」
「起きて……いや、寝言か」

 あの時の夜と同じように頭を撫でてやる。今度は悪い夢を見てい
ないのか、安らかな寝顔だ。

「アイズ君……好きだよ」
「っ!?」

 思わず声を出しそうになりそれを我慢する。心臓の鼓動が激しく
なる。落ち着け……こういう時こそ落ち着け。

「……」

 その想いを起きている時に伝えられたとしても、応える事は出来
ない。だからリオは夢の中でだけ伝えたのかもしれない。寝た振り
をしている可能はあえて考えない事にした。

「もし、この血の運命を乗り越えられたらその時は……」

 その時は、その想いにきちんと返事をしよう、そして悪夢を乗り
超えていこう。その決意を固めつつ、リオが夢の中で幸せであるよ
うにと頭を撫で続けた。




あとがき

 本当は歩×理緒でした。が、やはり理緒の相手はアイズだろうと
急遽切り替え。ついでに後半部分の大筋を決めたのは8/23と超ぎり
ぎり(死)
 原作の最終話から少し年月が流れているけど、二人はちょっとだ
け寄り添いながら道を進んでるお話。
 18禁にしようかと悩んで蛇足になりそうなのでこんな形に。少な
くとも大筋に関わった4人は乗り越えれると思うがなと夢想しつつ、
これにて。
 あぁ、カノンに理緒を襲わせるかは本気で考えたけどやめた。
 とりあえず欲求不満だと、仲間でも多分襲っちゃうかなと。
 自分で書いててひでぇと思ったのはここだけの話。