身体の調子が悪いと思ったのは学校に行く途中。ひよのも心配そうに様子を伺っていた
が結局は登校したけれど、昼休みに早引きする事になってしまった。
 何とか歩いて帰ってはきたが、意識は朦朧としふらついてしまう。

「もう限界だ」

 ベッドに倒れこんだところで俺の意識は途絶えた。
 目が覚めた。時計を見ると時刻は夕方。結構な時間寝てたらしい。ふと、確認すると俺
の身体はきちんとベッドに寝かせられている
 誰がと確認しようにも身体を起こす気にもなれない。と、その時聞きなれた声が響いた。

「あっ、歩さん。目が覚めましたね」
「ひ、ひよの? どうしてここに」
「学校を早引きしたと聞いたので、授業をちゃんと終えてから来ました」
「いや、鍵は?」
「ちょっとここの管理人さんを脅して…」
「おい……」
「冗談ですよ。 前に合鍵くれたじゃないですか」
「ああ、そう言えばそうだったな」

 ひよのと初めて結ばれた次の日の朝に合鍵を渡した事を思い出す。信頼の意味を込めて
渡しておいたがそれが早速役に立ったらしい。

「ところでだ」
「何でしょう?」
「いつの間に俺の服を脱がせてパジャマにした」

 そう、俺の格好は良く見るとパジャマである。寝ている時に変えたのは分かるんだが、
寝てる人間の服を変えるとなると苦労するんだが。

「もちろん苦労しましたよ」
「そりゃ、そうだろうな」
「下着もばっちり替えておきましたから」
「……」

 そう言う事を堂々と言われるのは複雑以外の何者でもない。散々見られてはいるのだか
ら何を今更とは思うだろうが、俺が同じ事をしたら確実に弱みとして握られる、もしくは
ある事無い事を言いふらされるに決まっている

「失礼ですね。そんな事したりしませんよ」
「何故分かった?」
「やっぱり、そんな事を考えてたんですか」
「はぁ……」
「溜息をつきたいのはこっちです。恋人の弱みを握ろうとは考えてはいませんよ」
「その方が助かる」
「ふふっ、大丈夫ですよ。歩さんの弱みなんて沢山知ってますから」
「おい」
「さてと、お粥でも作ってあげますね」
「作れるのか?」
「失礼ですね。これでも、料理は出来ますよ」
「前に聞いた時は秘密とか言ってた記憶があるんだが」
「あの時はあの時です。じゃあ、少し待っててくださいね」

 少しして出来上がったお粥は確かにまともで味も期待出来そうではある。

「歩さん、食べさせてあげましょうか? はい、あーん」
「いや、良いって」
「ああ、もう。人が食べさせてあげると言うのに。ノリが悪いですね。もしかして、私の
 身体に飽きちゃったんですね。ああ、そんな」
「人聞きの悪い事を言うな……分かった。食べさせてくれ」
「はい。それでは、あーん」
「……」
「歩さん、やっぱりノリが悪いです。ちゃんとあーんと言って下さい」
「……。あーん」
「少しぎこちないですけど。まぁ、良いでしょう」

 恥ずかしいんだ俺は。声に出して言いたいのを堪えながら付き合ってやる。こういうの
もたまには悪くはないので、病人らしく素直になる事をした
 お粥を食べ終わった後。何気なくひよのの手を見ると結構な数の絆創膏が張られている。
そういえば、こいつここ最近はあまり手を見せようとしてなかったな。

「なぁ、ひよの。その手の絆創膏は?」
「あっ、見られちゃいましたか」
「聞いちゃまずかったか?」
「いえ。そんな事はないですよ」
「何をやってたらそんなに」

 先ほどの言葉を思い出す。前にひよのは料理に関しては秘密と言っていたが、さっきは
出来ると言い切った。つまりそこから導き出される事は一つ

「なるほど。料理の練習をしたのか」
「そ、そんな所ですよ。歩さんの手料理も美味しいですけど、やっぱり好きな人には自分
 の手料理を味わって欲しいじゃないですか。」

 そう言うひよのの顔は真っ赤である。ひよののいじらしい気持ちが嬉しくて抱きしめる。

「あ、歩さん…」
「ありがとう、ひよの。風邪が治ったらまた遊びに行こう」
「はい。歩さんと一緒ならどこだって良いですから遊びに行きましょうね」

 この後はまだ熱があるので結局無理矢理寝かしつけられた。姉さんは今日は帰ってくる
のかどうか知らない。が。ひよの曰く。

「今日はずっと傍にいますから」

 この声を聞いた後、俺は再びベッドに倒れこむように眠りについた。
 傍にはひよのがいる。二人でどこかへと遊びに行く。何故かそこには、兄貴も姉さんも
いて幸せな日常がそこにはある。

「今のは夢……か?

 目が覚めた…。この前とは対照的な夢。望んでいない訳ではないが。兄貴がいる場所に
行く夢は少し複雑な気分だ。
 時計を見ると既に深夜だった。重みを感じてそこを見るとひよのがベットにもたれかか
るようにして寝ていた。

「本当にずっと居たんだな」

 いつの間にか俺のパジャマ着ているし。となると、姉さんは帰って来てないのか。

「このままだとひよのが風邪を引くな……。ったく」

 身を起こしてベッドから降りようとするが何かがそれをさえぎる。良く見ると、ひよの
の手がパジャマの裾を掴んで離さない。何とか手を離しやり身体を抱き上げる。俗に言う、
お姫様抱っこだ。

「軽いな」
「失礼ですね。私は重くありませんよ」
「いつから起きてた?」
「とりあえず、歩さんが起きた時には」
「起きてたなら言ってくれ」
「言おうとしたら抱きかかえられたんですよ。ふふっ、嬉しいですけどね」

 そういうひよのの顔は真っ赤で俺の顔も真っ赤なのだろう。

「とりあえず。どうするつもりだったんですか?」
「決まってるだろ。ひよのをベットにいれて俺はソファで寝ようかなと」
「そんなの駄目ですよ。余計に風邪が酷くなります」
「看病のお陰でだいぶ良くなったけどな」
「だからって駄目です」
「けどな。ひよのに風邪ひかれると責任を感じるぞ俺は」
「じゃあ、一緒に寝ませんか」
「はっ?」
「だから、一緒のベッドで寝ましょう。今更照れる仲でもないんですし」
「風邪がうつっても知らないぞ」
「その時はちゃんと看病してくれますよね?」
「ああ、それは勿論」

 苦笑しつつ、そう答える。結局、二人で同じベッドで寝る事に決定し、さっさと入ると
ひよのは看病疲れもあってかすぐに寝てしまった。

「ありがとな」

 ひよのの髪を撫でつつ、感謝の言葉を言っておく。

「さて、もう少し寝るか」

 翌朝。鳴海まどか昨晩、仕事が忙しく、家に帰る事が出来なかった。家に電話をしたら
ひよのがいたので歩の事を聞き、看病をすると言われたので悪いとは思いつつも任せざる
を得なかった。

「ただいまっと。歩の風邪は良くなったのかしら」

 そう呟きながら、まずは確認するために歩の部屋を覗く。

「あら……。二人とも幸せそうな顔で寝てるわね」

 目の前の光景。二人とも幸せそうな顔で少しでも近くにと寄り添うように眠っている。
ほんの束の間の安らぎ。

「こうしてみると、歩もまだまだ子供ね」

 そう言いながら、どこかで成長している弟を見守り続ける事を改めて誓うまどかだった。

 後日。この時にまどかが二人の寝ているところを写真に取ったらしく、ひよのの手には
その写真が何故か渡っていた。これが、後に二人で買ったアルバムに収められる事になる
のだが、それはまた別のお話。

後書き

 やっぱ読みにくいだろうJK……。そういえば、このアルバムの話書いたっけ?(汗)
 後の作品の修正作業の際にでもきちんと確認して書いてなければ書こう。うん。