昼休みの学校の屋上。いつものように昼飯を食べているとひよのが近寄ってきた。

「元気がないようですけど、どうかしたんですか?」
「別に、そんな事はないぞ」
「悩みがあるんだったら、恋人であるひよのちゃんで良ければ聞きますよ」
「本当に何でも無いんだ。悪いけど今は一人にしてくれ」
「そうですか。仕方ありませんね」

 そう言って去るひよのの後ろ姿を見ながらった悪い事をしたとは思うが、この悩みだけ
は本人には言えない。

「俺はあいつを幸せ出来るのか?」

 考えていても答えが出るはずはない。そんなものは神様かあるいは遠い未来でなければ
分からない事だ。前に軽い気持ちで聞いた時にひよのはこう言い切った。

「鳴海さんと一緒なら、どんな不幸にだって耐えられますよ」

 淀みなくそう答えた。今同じ事を聞いても間違いなくこう答えてくれただろう。だから
こそ、その信頼にきちんと答えられるかと悩む。

「で、何の用だ?」
「話があるから誘ったのだが悪かったか」
「いや、そんな事はない……一応な」

 放課後、学校が終わり校門を出たところで、目の前にいる男、アイズ・ラザフォードは
待ち伏せをしていたらしく、俺を即効で捕まえ、今居る部屋、浅月の部屋らしいがそこに
連行された。少し居候させてもらっていると言っていたが、私物が大量にある所を見ると
少しどころじゃないだろこれは。

「で、話は何だ? 俺はこの後買い物があるんだが」
「そう時間を取らせる予定はない。コーヒーと紅茶どちらが好みだ?」
「コーヒーで頼む」
「分かった」」

 少しして、ラザフォードの奴はコーヒーを俺の前に差し出した。飲んでみるとなかなか
美味い。

「さて、ここに連れて来た理由は他でもない」
「何だよ」
「もともと話は口実だったが。暗い顔をしていたからな。気になった」
「口実かよ……用がないなら帰るぞ」
「何をそんなにいらついている? ヒヨノに関する事か?」
「……」
「図星のようだな」
「ああ」
「何を思い悩んでいるかは知らないが。そんな調子だと彼女を悲しませるだけだ」
「分かっている」
「分かっているなら……いや、あえて多くは言わない方が良いのかこの場合」
「少し話を聞いて貰えると助かる」
「ほう……どういうつもりだ?」
「一人で悩むにはちょっと馬鹿らしい悩みだが、お前の意見も聞きたいって所だ」
「良いだろう」

 こいつ相手に相談というのも変だが、笑わずに聞いてくれそうなのでさっさと話す。

「なるほど……。幸せか」
「ああ」
「その悩みの原因の一つはキヨタカか」
「っ!?」
「お前はお前。キヨタカはキヨタカ。それで良いのではないのか?」
「そ、そうなんだが」
「お前は少なくとも自分の恋人を放っておくような事はしないだろう。今日のは特別とは
 思うが、普段はきちんと顔を合わせているのだろう?」
「ああ……」
「お前が彼女を幸せに出来るかは現時点では分からない。不幸になる可能性も否定する事
 も出来ないだろう。だが幸せなのかどうかは一人で選ぶ事ではない。二人で決める事と
 キヨタカに教えられた」
「二人で……か。そうだったな。幸せなんて俺だけで決める事じゃないな」

 確かに一人で悩んでいても仕方はない。ひよのには悪い事をしたと反省はするが……。
こいつはどういった経緯で兄貴に教えられたんだ。

「似たような事で悩んでいたのでな」
「もしかして、竹内の事か」
「……。否定はしない」
「そうか」
「俺から言える事はそれだけだ。彼女のところに行ってやれ」
「ああ、そうさせてもらう」

 部屋を出ようと立ち上がった時、ドアが開き陽気な声が響き渡った。

「アイズ君、いる〜?」
「リオか」
「あれ、何でここに弟さんがいるの?」
「ちょっと拉致して話をしていただけだ。もう帰るところだがな」
「ああ、お邪魔したな。じゃあな」
「弟さんまたね」

 マンションを出てひよのが居るであろう、新聞部の部室に向かう。夕日が大分落ち始め
て居るがまだ間に合うだろう。

「居た……」
「な、鳴海さんっ!? ど、どうしたんですか。そんな汗だらけで」
「ちょっと走ってきたからな。今日は悪かった」
「えーと……良いんですよ。鳴海さんだってたまには一人で居たい時もあるでしょうし」
「それはそうなんだが。今日はちょっとな……話しようか」
「ええ、構いませんよ」

 昼間悩んでいた事と、アイズとのやり取りを含めて全て話しておく。ひよのは最初少し
驚いたものの、すぐに真剣な顔をして最後まで聞いてくれた。

「そうなんですね」
「すまない」
「でも、嬉しかったですよ。鳴海さんがきちんと考えていてくれるが分かりましたし」
「言うな。どうして、こんな簡単な事に気づかなかったのかと思う」
「そうですね。それが当たり前だからじゃないですか?」
「当たり前の事か。そうだな……」
「ええ。だから幸せを見落としがちになるんじゃないかと」
「ああ、そうだな」
「さてと。それじゃあ帰りましょうか」
「ああ、だけど、その前に」
「えっ?」

 ひよのがこちらを向いた直後ににその唇を奪う。一瞬驚くが素直に受け入れてくれる、
触れ合うだけのキス。

「不意打ちは酷いですよ」
「悪い。でも、どうしてもな」
「じゃあ今度は私からです」

 恋人同士の幸せなキスを夜を照らす月だけが見守っていた。


あとがき

 ばっさり切ったり、付け加えたり。テーマがテーマなので書きにくいorz 時間も考えて最後は夜に。