アスナに結婚を申し込んで承諾された翌日。
 俺達は二人揃ってグランザムにある血盟騎士団の本部を訪れ団長のヒースクリフにクラ
ウディールとの一件及び一時的な脱退をする事を報告。それと、結婚をした事を伝えた。

「なるほど、事情は理解した。しかし、アスナ君が結婚か」
「文句でもあるのかよ」
「まさか。ただ、副団長が結婚となると色々と騒ぎ立てそうな者は居そうだが」

 そうだろうな。アスナは人気者だし……数少ない女性プレイヤーの一人だし。結婚とな
ると大騒ぎになるだろうな。

「そう言ったところで事実が覆るわけではないし、私が言えることは一つしかない。おめ
 でとう、二人とも」
「ありがとうございます、団長」
「ところで……二人とも式は挙げないのか?」
「「えっ?」」

 いきなり式という単語を出されて俺とアスナは戸惑う。いや、式と言われて連想できる
のは一つしかないけど。

「し、式? 式ってあの……」
「知らないのかと言ったところで無理もないか。SAOでは小規模の結婚式を行う事も可能
 だと聞いてる。噂によれば数組ほどそれを利用したと聞いた事もある」
「しかし、いきなり言われても……」
「再現度は高いとは聞いた。詳しく調べてみないと分からないのも事実だが」
「んー、でもなぁ。アスナは……アスナ?」

 ふと、隣を見ると……アスナはどことなく遠い目をしている。何となくだが考えている
事は想像ついてしまう。

「します。式を挙げます。良いよね!? キリト君」
「いや、お、俺は」
「良いよね!?」
「は、はい」
「諦めたまえキリト君。例えゲームの中とはいえ、結婚式は女性にとって永遠の憧れなの
 だろうからな」

 詳しく調べてから連絡するとの事なので、俺達は一旦二十二層のホームに戻る事にした。

「ただいまー」
「ただいまっと」

 装備を外し身軽になって一息をついた頃に、アスナは少しだが真面目な顔をして話しか
けきた。

「キリト君。ちょっと強引に決めたけど本当は嫌だったかな? 私と式挙げるの」
「そんな事はないさ。出来るならしたいかな。ただ……」
「ただ?」
「本当に出来るのかなって。ヒースクリフも詳しくは知らないようだし。出来るとしても
 誰を呼ぶかだな」
「そうね……小規模みたいだし、呼ぶ人は限定しないとね」
「下手に呼ぶと面倒な事になるからな」

 その時、ヒースクリフからのメールが届く。結婚式に関する情報が事細かに載っている。

「場所は……凄く辺鄙な場所ある教会で……へぇ、一部はプレイヤーも参加可能な式ね。
 新婦の父親役と神父の役みたいだけど」
「それ、やりたがる奴居るのか……」
「日にちのも指定も可能って書いてあるね。ねぇキリト君。いつにしようか?」
「日程を決めるのも大事だが誰を呼ぶかだな。アスナは呼びたい人はいる?」
「そうね。私は友達を呼ぼうかな……キリト君は誰を呼ぶ?」
「クラインとエギルは呼びたいかな。世話になってるし」
「そうね。その二人なら呼んでも問題はないでしょうね」

 いずれは知られるかもしれないが。アスナと結婚したという事実は正直あまり多くの人
には知られたくはない。
 知られた瞬間に間違いなくこの平穏な生活が破られてしまいそうだから。

「結婚式ねぇ」
「いや、まさか。美人の色香に惑わされたと思っていたらそこまで行ったか!!」

 NPCが運営するレストランの一室にてエギルには知られているが、クラインに式の事を
言ったら背中を凄い勢いでバンバン叩かれるわ、驕りだとか言って食べきれない量の料理
を頼むわ……祝福してくれてるのは分かるが限度は考えてくれ。

「ありがと。それとこの事は」

 二人とも頷く。こちらの意図は分かってくれてるらしい。

「ただでさえ有名人の二人だ……さらに火種を放り込むような真似はできん」
「知られたら、逆恨みで襲い掛かってくる奴もいるだろうしな……。流石にそれは洒落に
 なってねぇ」
「だよな……」
「式を挙げる事自体は、聞く限りアスナさんはノリノリのようだし
 素直に諦めな。それともげろ」
「まったくだな、もげろ」
「ノリノリは今は私語だぞ……それと後半はごめんこうむる」

 それから数日が経ち、式の当日。新郎側の控え室。

「ぎゃはははははっ、似合ってるぜキリト」
「笑うなよ、クライン。こっちは落ち着かないんだからさ」

 イベント専用と思われる黒のタキシードを装着している俺の姿を見て噴き出すクライン。
あぁ、恥ずかしい……。

「それはそうと誰か新婦役なんだろ」
「無難に考えればヒースクリフだろ。多分だけどな」

 神父姿の彼を想像してみる。確かに似合ってる……のか? まぁ、悪くはないと思うが。

「ぁー、確かに。となると、エギルが新婦の父親役?」
「わかんねぇなぁ。まっ、俺は参加者の一人としてギルドの奴らと一緒に見させてもらう
 とするぜ。キリトの晴れの舞台をな」
「ああ、ありがと」

 クラインが控え室から出ていき部屋には俺一人。式の開始までの時間が目の前に表示さ
れる。ちなみに、表示されてる時間が0になると同時に教会内に新郎は転送されるという
仕組みらしい。
 ご丁寧に新婦側は父親役に手を引かれて入り口から入場するのを考えると、泥雲の差が
あると考えていた時に扉が開かれる。

「やほー、キリト。緊張してる?」
「さっきも来ただろリズ」
「やっぱ気になるじゃない。緊張してるキリトが見れるなんてレアな光景だと思うし」
「お前は俺をそんな目で見てたのか」

 昨日、アスナが親友に会わせるとの事なので、着いて行った先は見覚えがある場所で、
顔を合わせた瞬間にお互い驚き、びっくりしつつもリズは俺達を祝福してくれた。

「しかし、アスナの相手がキリトだったなんてねぇ」
「何回目だよその言葉」
「あはは、気にしない気にしない」

 その笑顔に少しだけ緊張がほぐれる。どうやっても完全に緊張が解ける事はないなと思
いつつ。気になる事を一つ聞いておく。

「アスナの方は?」
「ふーん、気になるんだ」
「当然だろう。それにアスナの方も見てくるって一回出たのはリズだし」
「あちらも緊張はしてたよ。似合ってるかどうかはキリトが確認するのが一番だよ。そろ
 そろ始まるみたいだから、また後でね」
「ああ……そろそろか」

 凄く緊張する。ゲームの中とはいえ結婚式だ。ほとんどがオートで進行するとはいえ、
今まで経験した事がない緊張を味わっている。

「これより結婚式を開始します」

 アナウンスと同時に俺の身体は浮遊感に包まれ、教会内へと転送された。

「ふむ。では、行こうか」
「は、はい……団長」
「緊張しているのかね」
「それは勿論、結婚式なんて初めてですし。そういえば、ありがとうございます。調べて
 くださって」
「礼には及ばない。ゲームの中とはいえ、このシステムがあるのをたまたま聞いて興味が
 沸いただけだ」
「でも、こうして式を挙げれるのは団長のお陰です。本当にありがとうございます」
「そう言って貰えれば作った人間としては何よりだな」

 その言葉を最後まで聞き終わる前に強い風が吹いた。良く聞き取
れなかったけど今なんて……。

「さあ、行こう。あまりキリト君を待たせるのも悪いだろう」
「は、はい」

 私は団長に手を引かれて教会へと歩き出す。良く聞こえなかった言葉が少し気になった
けど、その思いを振り払って。

「……。お、お前が神父かよ(ひそひそ)」
「言うな。この役回りはKoBの団長さんに回ると思ったんだが俺になった(ひそひそ)」

 少し離れた場所に神父の服を着たエギルが立ってた。となると、ヒースクリフは新婦の
父親役で今から手を引いてくるのか……。
 背後の方で扉が開く音がし、やがて俺の隣にウェディングドレスを身に纏ったアスナが
立つ。横目でチラッとだけ見たが、いつもよりずっと綺麗だ。

「キリトよ、汝はアスナを妻とし、この世界で……命ある限り愛し続ける事をここに誓い
 ますか?」

 後で聞いた話だが、ある程度台詞は決められているらしく、やたら仰々しくもどこか合
ってるなと思うこの台詞を聞くまでもなく俺の答えは決まっていた。

「誓います」
「アスナよ、、汝はキリトを夫とし時には支え、時には尽くし、命ある限りこの世界で共
 に生きていく事をここに誓いますか?」
「誓います」
「では、誓いのキスを」

 ヴェールを上げると、アスナの顔が良く見える。き、綺麗過ぎる。と、そうではなく。
顔を赤くしつつ、俺が行動に移るのを待ってる。

(アスナ)
(キリト君)

 目で合図を交わしてそのままキスをする。短いキスだが今ここで俺達は誓いのキスを交
わした。

「今一組の夫婦が誕生しました。二人に神の祝福があらん事を。アーメン」

 この後は、皆が気を利かせてくれてある程度のところで解散。俺達はホームに転移した。

「終わったな」
「うん。終わったね。でも、これで本当の意味での夫婦かな?」
「そうだな。式もしちゃったしな」
「うん……」

 どちらからともなく見つめあいそのままキスをする。軽いキスを
何度も何度も交わし、やがて互いの服に手をかけ……


「キリト君、私幸せだよ……」
「俺もだよ」
「この世界から脱出できても……この気持ちは変わらないから」
「ああ、今は少し前線を離れてるけど……二人で前に進んで、それでちゃんとこのゲーム
 をクリアしよう」
「うん。それで現実世界で会って、デートしたり、時には喧嘩もしちゃうだろうけど」
「一緒に歩いていこう」
「うん」

 裸のアスナを自分の方に抱き寄せ頭を撫でる。気持ちよさそうにしてる彼女の顔を見な
がら、絶対に守って見せる。
 この後、俺達はこの出来事を含めた約二週間の休息を過ごした後、最後の戦いへと身を
投じる事になるが、その事を俺達は知らない。





後書き

 エロの詳細は省く。そして、SAOに結婚式が実装されてたらという妄想の元書いてみた
お話。
 これを書いてた時は一巻と二巻のみを読んだ上で書いてたりするので、外伝からはリズ
のみ。ニシダやシリカは面倒なので出さず。
 新婦の父親役はニシダで良かったかなと書き終わって思うorz 雰囲気的にはやはり団
長さんなんだがな。いやはや……思ったよりは難産。清き悩みの方が早く書けたのは言う
までもあるまい(汗)

追記

電撃Magazin見たら、4コマの方にちゃっかり式を挙げた描写が描いてあるしw 地味に凹
んだorz
 後、色々と修正。一列80文字にしてみたがどうだろう(修正後)