いつからだろう…?
いつからわたしは自分の気持ちに嘘をついてきたのだろう…?
7年前…?
そう、ちょうどあの冬の日…。
わたしはわたしを心の中に押しこんだ…。
「名雪。あなた最近元気無いわね」
休み時間。
顔を机に伏せているわたしに香里が話しかけてきた。
「そうかな…?」
わたしは顔を上げて香里に言った。
香里は首を縦に振ってそれに答えた。
「どうしたの?悩んでることがあるなら相談にのるわよ」
悩み事か…。
あるにはあるけど…。
「その顔は悩んでるけど人には言えないって顔ね」
「えっ…」
「まぁ、無理に聞く気も無いし良いんだけどね」
「別にそんなんじゃないけど…」
わたしはそう言ってまた机に顔をうずめる。
そんなわたしを見ながら、香里はため息を一つついて言った。
「名雪らしくないわよ。まぁ、あたしで良かったらいつでも相談にのってあげるから」
香里はそう言って自分の机に戻っていった。
らしくない…か。
部活を終えて家に帰る。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
「おかえりー」
家の中からは二つ返事が返ってきた。
わたしは自分の部屋に戻り、制服を脱いで普段着に着替えた。
下に降りるとすでに夕食の準備がしてあった。
「今日はなんか元気無かったみたいだけど大丈夫か?」
席につくと祐一が話しかけてきた。
わたしは無言で頷く。
「調子が悪いんだったら部屋で寝てなさい」
お母さんが言う。
「ん…。大丈夫だから。ほら、早く食べないとご飯冷めちゃうよ」
わたしはそう言って目の前に置かれたご飯に手を伸ばす。
「名雪、お前いただきますって言ったっけ?」
「あっ…言ってないよ…。ごめん…」
「いや、別に謝らなくても良いけどさ」
そう言った祐一を見た瞬間……。
ドクン…!
まただ…。
最近良く来るこの感覚。
それも決まって祐一を見た後…。
「おい。ほんとに大丈夫なのか?」
「ごめん…。ちょっと今日食欲無いみたい。わたしもう寝るね」
わたしはごちそうさまも言わずに、自分の部屋に駆け戻った。
胸が苦しい…。
心が痛い…。
理由はなんとなくわかってる。
わたしが無理に忘れた感情。
わたしがわたしの中に押しこめた感情。
『あたしで良かったらいつでも相談にのってあげるから』
気が付くとわたしは香里に電話をかけていた。
「もしもし…香里?」
「名雪?」
「うん……やっぱり香里に相談にのってもらうよ」
「どうしたの?」
「このままじゃわたし、壊れちゃいそうだから……」
「壊れるって……」
「わたしね…祐一のことが好きみたい」
「……やっぱりそれで悩んでたのね」
「香里…気付いてたの?」
「気付くわよ。だってあなたの相沢君を見る目が、いつもと違っていたもの」
「どうしたら良いかな?わたし……」
「そうね…。とりあえず明日ゆっくり話し合いましょうよ」
「うん…わかった」
「それじゃあね」
「おやすみ…」
電話を置いてベッドに横になる。
ゆっくりと目を閉じてみる。
ドクン…!
駄目だよ…。
祐一の顔しか思い浮かばないよ…。
窓の外にめをやってみる…。
白い景色。
あの時と同じ冬の日…。
わたしの中のわたしが…。
隠してきた気持ちが…。
押さえていた感情が…。
わたしの中で凍っていたなにかを溶かしていった……。