『朝〜、朝だよ〜』
『朝ご飯食べて学校行くよ〜』
朝の訪れを告げる、いつもの目覚まし。
名雪の声。
その声を聞いて俺は体を起こす。
下に降りていくと名雪の姿は無かった。
「おはようございます。秋子さん。あのー…名雪は…?」
「おはようございます。名雪は今日は熱があるので学校には行かせません」
「あっ…そうですか…」
熱…か。
今日言いたいことあったんだけど…な。
仕方ないか。
俺は朝食を食べて学校へ向かった。
休み時間、俺は香里のところへ行った。
「香里…俺、わかったよ」
俺が言うと香里は少し笑みを浮かべて言った。
「…ほんと…鈍感なんだから」
「ほんとだよな」
学校から帰って、俺は名雪の部屋へ入った。
名雪は苦しそうにベッドの上で寝ている。
名雪……。
俺はそんな名雪の手をそっと握る。
あったかかった…。
外から帰ってきて、かじかんだ俺の手…。
「名雪…ごめんな…」
「ほんとに鈍感で…」
「ほんとに馬鹿で…」
「大切なことに気が付かなくて…」
「近くにいすぎてわからなかったのかな」
「はは…言い訳だよな」
「でもさ…俺…やっと気が付いたんだ」
「俺は名雪のことが気になってるってこと」
「俺は…名雪のことが好きだ」
どのくらい時間が経過したのだろう?
俺の握る手に力が入った。
そして名雪が目を開ける。
「ゆ、祐一!?」
少し慌てる名雪。
「目…覚めたか」
「うん…」
しばらくの間を置いて、俺は言おうとしてたことを一気に言う。
「ごめん」
「えっ?」
「俺…最低な男だったみたいだ。名雪の気持ちにも気付いてあげられなかったし、自分の気持ちにも気が付かなかった…。ほんとに…馬鹿だよな…」
「祐一…」
そして、名雪も口を開く。
「祐一、わたしね…祐一のこと、今でも好きだよ」
「最近なんだよ。ほんとに最近」
「祐一のことまだ好きなんだなって気が付いたのって…」
「7年前のことにこだわってるわけじゃないよ」
「わたしは…今、祐一のことが好きなんだよ」
「身近すぎてわからなかったのかもしれないね」
「自分の気持ちをわざと隠してたのかもしれないね」
「でもね…」
「わかったんだ…」
「わたしが求めていたものは…」
「その大きな手で…」
「その聞きなれた声で…」
「その見慣れた笑顔で…」
「別に多くを望むつもりはないんだ」
「わたしが祐一のことを愛したいだけだから」
「それだけでわたしは幸せだから」
「時間がどんなに流れても…ね」
「わたしは祐一を愛していけるよ」
「祐一がここにいる…」
「それだけでわたしは幸せだから」
気が付くと俺は、名雪を力いっぱい抱きしめていた。
「俺も…名雪が側にいるだけで幸せだよ」
俺の体に冷たいものが感じられた。
「また…雪うさぎ作って良いかな?」
その問いかけに俺は短く答える。
「ああ」
心のすれ違い…。
考えのすれ違い…。
色んなすれ違いがあって、やっと結ばれた二人。
俺は今、これ以上の幸せを注文しない。
俺の側に名雪がいてくれる。
それだけで幸せだと感じられるから。
ただ一つ望むなら……。
これからの二人の時間が、とても貴重なものになって欲しい…。
名雪を想い続ける時間が、貴重なものになって欲しい…。
ずっと一緒にいような、名雪。