劇場の明かりが落ちる瞬間に世界を一度諦める 何故?
ミルクティー冷めてしまった童謡を思い出せない月曜遅く
「僕なんかどうだっていい願うのはいつもお前の」「降伏なのね」
青リンゴガムの当たりを捨てられぬまま君と暮らし始めた二十
海けぶり たどるあなたの足跡をケンケンパーで壊したくなる
ビタミンのタブレット噛み砕いても涙が出たらそれでおしまい
欠点を十個あげたら反動で「でも」「でも」「でも」のデモ行進が
カーテンを巻きつけながらガレージの気配に耳を澄ます雪の日
病院の待ち合い室の天窓に飛行船よぎる火曜の鎮静
「大人はさ子供の進化形だからくじら雲には充分間に合う」
八月のめまいのようなまどろみに黄色い花が揺れて 残像
うたた寝の罰に文庫の赤紐を君の小指に結んで 沖へ
しまいには洗濯されるレシートのために神様 手乗り小ヤギを
さくら貝あなたの分の片割れを残したままで振り向かず行く
糸電話君とつながるこの糸が何故白いのかそれが不思議で
水曜日エレベーターは今日もまた宇宙まであと一歩届かず
「それじゃあ」が「それじゃあまた」に変わる夜 ほら見てラッキーセブン(イレブン)
そっけない君のメールは何文字の削除を超えてやってきたのか
ほどかれた髪からのぼる花の香がきみをやさしく麻痺させるまで
クワイエット 罪深き愛 クワイエット 雪の音すら聴こえる夜明け
二十九時の恋人達のその朝は触れたそばから酸化してゆき
星ひとつはさんだ駅でわたしたち呼び合っている千夜一夜に
水槽の2cmウォーターレタスから酸素もらってつなぐ木曜
「美術館の地下に通じる階段はファラオの墓の匂いがしない?」
ゴキブリをつかまえに出た君はいまライ麦パンにつかまえられて
デタラメな「イパネマの娘」たちまちに換気扇へと回収されて
おごそかに土鍋のふたを開く時 猫の耳たぶマイナス6℃
折り紙のカエルぴょんぴょん2ぴょこぴょこ ぼくらは風邪に悪いことしてる
神様は時計の中に住んでいた ホウホウ鳥の鳴く朝のこと
僕たちは試す疑うひねくれる そして金曜またゼロになる
「憑き物が落ちたみたいよ」「そうだろね僕の両肩いま重いもの」
軽口の応酬やまぬ電話口 切らない切って切る切る切れ切れ
言い過ぎた夜をかき消すはずだったシャワーいよいよ「いけしゃあしゃあ」と
失敗を帰納法で導けば気圧のせいか占いのせい
ザッザッとフェンスに指を遊ばせて呼吸の仕方考えている
土曜日のゆるい世界をかき混ぜるトマトジュースのくすんだ赤で
「8割がここで心をダメにした」冷凍食品売り場のカルテ
果てしなく遠くへ行きたい気分ならバグダッドカフェで今夜七時に
白線を飛び飛びに行く ギャロップをできぬ二人はやぶれかぶれに
流星を数えてぼくら冬の子供 チ・ヨ・コ・レ・イ・トでのぼりきる坂
言葉より今夜はすこし沈黙を あなたの爪をひとつずつ切る
遺伝子のひとつに胸のつまるような雨の匂いを残すのもいい
慎重にジェンガを積んでおおげさな崩壊を待つイエローサンディ
「ダイエットコーラと普通のコーラはね違うよ全然違うの」「おいで」
だんまりを決め込む腰のまんなかに輪ゴム鉄砲乱れ撃ちして
雨音のシンクロニシティー 45RPM 回想は罠
言い出せずコップみつめてこの中に金魚がいたらとそんなことばかり
学習と忘却に目をまわしつつバケツリレーで火星を目指す
福音を 36500回ゴングのベルが鳴る朝々に
劇場の明かりがついた瞬間に「あー」「うー」「んー」で始まる世界
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