甘枝りりHPカウント7000記念企画

甘枝歌集・後書き特選

第3作目の歌集「満月前夜」を読んで父はこう言った。

「お父さんは最後の文章が一番いいと思ったよ。あれも短歌なのか?」

父よ

それは短歌ではない。それは後書きと言うのです。

娘思いだがちょっとピンぼけ気味の父はともかくとして、後書きの評判が高いのは事実である。

短歌とは別の次元で、あなたにも何か響くだろうか?

1作目「秘密結社」より

はじめまして。甘枝りりです。
 緑風に誘われるままに、ふらふら短歌の道へ迷い込んでしまったわたくし二十三才、春。
 ドラムのできない私でも、短歌のリズムは上々です。地味なラッパー、それがわたくし。
 こころにピンときたことを、私のことばで詠んでます。閉ざされた世界を抜け出して、手に届く場所にこの歌集はあります。

煩雑な日々の一瞬を、あなたの時間を止めてみたく。     

                        一九九九年 四月

2作目「呼吸の仕方」より

歩くのが好きか、と聞かれる。
わからない。
性にあっている、とは思う。
家を出て最初のうちは
まだ歩き方がぎこちない。
そこで考える。いつも考える。
正しい歩き方。
正しさの定義はなんだろう。
身体に聞いてみる。

「呼吸をするように歩くことかな。」

なるほど。
歩く。
歩く。
ふと思いつく。
正しい呼吸の仕方について。
身体に聞いてみる。

「歩くように呼吸をしたら。」

なるほど。と言えなくなってくる。

いつまでたっても
あたりまえのようなことに心が留まる。
昼下がり、ひどく穏やかな顔つきで
それでもけっこう忙しく私は歩いている。
         
        1999.7. 甘枝りり

3作目「ナンヨウビ」より

何曜日でも   何時でも

どんな場所でも どんな状況でも

どんな相手でも どんな自分でも

偽りでも    真実でも

あなたが選んだものが あなたになる

あなたはそれを 知っている

あなたはそれに 気がついている

4作目「満月前夜」より

月は思う。
明日はやっと満月になれる。
三日月だったあの頃のトゲトゲしさも
誰にも見てもらえない半月の日の淋しさも
みんなみんな忘れて丸くなれる。
絶対的な優しさで世界を照らすことができる。
そんなふうに月は思っている。

満月前夜のこと。

           1999. 甘枝りり

5作目「ドロップスキップ」より

冴えない地球にドロップキック

それから

そのまま遥かな火星へスキップ

今ならドロップスキップに

もれなく愉快な鼻歌と

鋭い勇気がついてきます。

           甘枝りり

6作目「クワイエット」より

サイレント映画を観ると自然に口が開く
そこには声があるのに そこから声は届かない
身体はそれに慣れていないから
喉を強めて自らの言葉を試してみたくなる

バスター・キートンをOの口で観るのは
つまりそういうわけだ

言葉を持つ者に サイレントは訪れない
言葉は沈黙においてすら やかましい

だから 
クワイエット 膨れた言葉よ ビー クワイエット

シー      シー      シー

そしたら
そこには何が残る? そこから何が聴こえる?

最後の言葉は やがて最初の言葉へと

饒舌のキャパシティーをくぐり抜け
あなたとそこに辿りつけたら

クワイエット

         November.2000 甘枝りり 

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