運営担当の独り言

具体的に平和にどう近づくか?
− グローバルな圧力にはグローバルな連帯を −



 全く個人的な話ですが、私は元々、平和運動の方に関心があり、そちらに携わっていた時期もあります。別に平和運動がイヤになったからではないのですが、個別具体的な活動を行なうアムネスティ・インターナショナルに魅力を感じて、仕事のために帰広した後はそちらの活動を主にするようになりました。

 アムネスティの活動の基本は手紙書きです。良心の囚人の釈放や難民の強制送還のストップ、拷問・死刑の廃止、家屋破壊の停止など、近年のアピール内容は私の入会当初と比べて多岐に渡っています。ただ、手紙書きなら自宅にいてもできますし、今はインターネットが普及しているので当局宛にメールを送ったり、アムネスティのウェブアクションの呼びかけに応じることで簡単にアピールができます。もっともこちらが手を抜けば相手も手を抜いてくる訳で、やはり手紙が一番アピール力があるようです。最近は各国政府当局も自動返信のシステムを構築しているので、どんなに厳しいアピールをしても「どうも有難うございました」のような画一的な自動返信が来る場合が少なくありません。

 またアムネスティの別の重要な活動としてはロビイングがあります。これは末端の会員にはおいそれとできないことですが、スタッフが各国政府の当局者や議員、あるいは国連などに働きかけて重要な国際人権条約の成立、批准、遵守に貢献しています。日本政府もついに先日、国際刑事裁判所(集団殺害犯罪、戦争犯罪などを裁く所でオランダのハーグにある)を定めたローマ規程に批准することを決定しましたが、これも日本支部の職員たちのロビイング活動の貢献が大きいものでした。

 「戦争反対」と叫んでもそう簡単に戦争はなくなるものではありませんし、軍縮についても道のりは険しいものです。広島ではどうしても核兵器廃絶の声が中心になりますが、一方で小銃などの小型の武器で毎年約50万人が世界で殺されている現実があります。小型武器取引を規制するための国連条約を実現するための活動もアムネスティは他のNGOと共に続けてきました。また地雷については対人地雷禁止条約が1999年に発効したのですけれども、クラスター爆弾や劣化ウラン弾などの兵器についてはまだ国際的な規制がかかっていないが実状です。

 また、国連で死刑廃止条約や拷問等禁止条約、国際刑事裁判所のローマ規程などが成立する過程で、アムネスティのロビイング活動は貢献してきました。地球温暖化防止のための京都議定書ができた背景にはグリーンピースのロビイングの力もあったと言われています。このように国際NGOの影響力は大きなものになってきています。

 一方で日本国内の市民団体、NPOの状況を垣間見ると国際的とは言いがたいのが実状のようです。もちろん海外へ出て活動している団体は数多あるのですけれども、グローバルな連携や世界の将来を見据えた戦略という点では弱いと言わざるをえません。現在、アムネスティが取り組んでいる問題の1つに、9.11以降、世界を席巻している「『テロ』との戦い」があるのですが、これなどは一国単位で対処できる問題ではありません。その名目の下に、世界各国で人権侵害を呼ぶ治安立法ができ、また「テロ」容疑者はキューバにある米軍のグアンタナモ基地のような所に収容され過酷な処遇(映画『グアンタナモ、僕達が見た真実』でその一端を垣間見ることができます)を受けています。世界各国で起きている外国人排除のような排外主義的動きも、大きな文脈の中で同居しています。石原都政下での外国人排除の状況は知られていますが、広島のような地方都市でも2006年、歓楽街のバーに入国管理局職員がなだれこみ、日本人と外国人を分けて取り調べを行なうという事件が連続して発生しました。さらに日本は先進国の中でもダントツで難民鎖国と言ってよく、近年受け入れた難民の数の桁数は欧米諸国よりも2つ、3つ少ないのが実状です。「日本人さえ良ければ」という考え方では世界平和など望むべくもありません。

 近年、取りざたされるようになったグローバリゼーションの問題も重要です。この言葉はいろんな意味で用いられますが、言わば一国単位でものを考える時代はとっくに終焉したことを表していると言えます。アフリカの鉱山で採掘されたダイヤモンドが血みどろの内戦の資金源として売買される一方、それを末端で買っている日本人もいるであろうこと。過酷な児童労働で採取されたカカオ豆からできたチョコレートを私たちが口にしているかもしれないこと。石油産出国でありながら、その恩恵を受けることなく大多数の人々が貧困にあえいでいるアフリカの国々。急速な経済成長を支えるための石油資源獲得の手段として中国やロシアが武器を大量にアフリカに流入させている問題。世界的な自由貿易の波の中で国内農業がたちゆかなくなっている国々が出てきていることや、世界のあちこちで経済合理性の名前の下に環境破壊、人権侵害が行なわれている現実があります。アムネスティが取り扱ってきた人権侵害のケースでも環境保護活動家、人権活動家に関するものが少なくありません。日本企業が建設したダムに反対し、殺害されたフィリピンの農民もいます。

 世界的にいろんな形で連鎖しながら起きている問題に対して処していくためには、こちらも世界的な連帯で立ち向かうしかありません。また、世界で戦争が起きる背景にはいろんな事柄が横たわっています。植民地時代からの歴史的背景、民族的・宗教的背景、資源争奪などなど…。そして戦争が起きる所では必ずと言っていいほど、人権侵害が発生しています。事前に戦争を予防するためにもいろんな努力が必要です。起きてしまった戦争を止めるよりも、発生前に止める方がはるかに犠牲は少なくてすみます。

 アムネスティ・インターナショナルは人権団体ですが、紛争予防の活動も行なっているといっても過言ではないでしょう。国際刑事裁判所の管轄権が拡がっていけば、如何に戦争の代償が高くつくかを各国政府に思い知らせることができるでしょうし、国際的な企業への圧力も強まれば紛争原因を呼ぶような行為にも規制をかけていくこともできるでしょう。そして、紛争の芽となる世界各国での人権侵害を1つ1つ潰していくということ。そのためには国際的な情報交換、連携、連帯が不可欠です。アムネスティは数ある国際NGOの1つに過ぎませんが、これを読んだ貴方も参加し、ささやかでも具体的な何かを始めてもらえれば嬉しいです。ただ戦争がない状態を平和と呼ぶのではなく、貧困、環境破壊、人権侵害などがなくなっていくことが平和だと呼ぶのであれば、ただスローガンを叫ぶのではなく、きちんと戦略を立てた上で1つ1つ具体的成果を積み重ねていく地道な努力が大事になっています。決して自己満足に終わるものであってはならないのです。

前号「アフリカは入っているか?」はこちら

前々号「モルデハイ・バヌヌさんに会えました!」はこちら

前々々号「イスラエルにとっての厄介者」はこちら





ここで述べられたことは、アムネスティの方針や目標を必ずしも反映したものではありません



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