"Guilty or not guilty"





「というわけでやってきました江ノ島海岸!」
「嘘ついてんじゃない!メリダ島の砂浜じゃないの!」
「まぁまぁ、軽いアメリカンジョークってことで。怒るとしわ」
 マオがメスを握った!
「美しいそのお顔が台無しですよ、曹長殿」
 にっこりとクルツ。しかしその顔は固まっている。
「しかしクルツ、マオ。その様な格好でどんな訓練をするというのだ?」
 宗介の姿はいつもの通り。
 野戦服にザックを担いだ姿。
「砂浜は訓練に丁度よい。おまえ達の分も用意してあるぞ」
(じょーだんじゃねぇ!んな事できっかよ!)
 と叫びそうになるのをクルツはこらえた。
「気持ちは分かるが宗介。気力の充実も大切な訓練だぞ」
 こういっても聞くはずはないが。
「いや、しかし・・・・・・」
「んじゃこうしたら?あんたら二人がこのザック担いであの木まで往復!もちろん全力疾走」
 さらりとマオが提案する。
「うむ、それは良い考えだ」
 宗介は満足そうだが、クルツは不満そうである。
「え〜?俺嫌だよ。疲れるし」
 その嫌そうな顔も一瞬で変わる。
「やるわね?」
 マオの握ったメスが放つ光を眼にして。
「はいもちろんですともやらせていただきます!」
(うう、何で俺がこんな目に・・・・・・)と涙を流しつつも、
「なぁなぁ、でもそれだけじゃ俺気合い入らないよ」
 なにやら思いつき、
「負けたら勝った方の言うことを一つだけ聞かなきゃいけない、っていう特典がないとなー」
 と提案するあたりはさすがである。
「・・・・・・仕方無いわねー。宗介、あんたは?」
 マオは1秒で了承。後は宗介の意志次第だが。
「俺は別にかまわんぞ」
 宗介もあっさりと受け入れた。
「んじゃ、決定ね!」
「ふっふっふ、負けないぜ、宗介!」
「それは俺の台詞だ」
 二人の目が光り−交差する。
 そして闘志を抱きウォーミングアップに励む二人であった、が・・・・・・
「おーい、クルツ〜ちょっと」
 不意に、クルツがマオに呼ばれた。
「うわっ!ひでぇ!」
「バカ!あんたは・・・・・・」
 なにやらクルツがマオに怒鳴られているが、いつものことだ。
 気にせずにストレッチを続ける宗介だった。
「あの、サガラさん」
 そんな宗介にテッサが声をかけた。
「無理はしないで下さいね」
 心から心配するような声。
「は。了解しました」
 心が、揺らぐ。
「それでは−って、きゃぁ!」
「大佐殿!」
 転びかけたテッサを抱き止める宗介。
 二人の鼓動が早まる。
「あの、ありがとうございます・・・・・・」
「い、いえ・・・・・・」
「おーい宗介、早くしろよ〜!」
 クルツの声に二人は我に返った。
 妙に気恥ずかしい。
「うむ・・・解った」
 と答える声もどこかうろたえている。
 宗介は慌ててクルツの方に駆けていく。
 それを見つめるテッサの目はどこか罪悪感とそして−期待に満ちていた。
 クルツは既に準備万端のようで、余裕さえ見せている。
(ぬぅ。やはりただの軽薄な男ではない、ということか・・・・・・?)
 今更ながら宗介は自分の相棒を見直した。
 −彼らの仕掛けた罠に気付くこともなく。


「容赦はしないぜ、宗介!」
「クルツ・・・・・・本気だな!」
(負けるんじゃないわよ、クルツ!せっかくお膳立てしたげたんだからね!)
 マオの目が燃えている。
(負けは許しませんよ、ウェーバーさん!)
 テッサの目も燃えている。
(遊びたい泳ぎたいビール飲みたい暑い暑い暑い暑い暑い)
(一緒に泳ぎたいんです遊んだりしたいんです)
 しかし宗介は気付いていなかった。
 彼が目を離した隙にマオがクルツのザックを空っぽのそれにすり替えていたことに。
 その隙をテッサが作ったことに。
 そう、それが宗介に対する裏切りであったとしても、誰が彼女たちを責められようか?
「んじゃ、Ready−Go!!」
 マオのかけ声と共に、望まぬ死闘(「だって疲れるし」:クルツ談)は幕を上げ−そして当然クルツの勝利によって幕を閉じた。そして−


「んじゃ、一つだけ言うこと聞いてもらおうか?」
 クルツがにやにやしながら宗介を見ている。
「くっ!」
 宗介はただクルツを睨むことしかできなかった。
「何にしようかなぁ〜カナメちゃんのあ〜んな写真やこ〜んな写真っていうのもいいな〜」
(これは・・・・・・よくない。非常によくないことが起ころうとしている)
「おし!決めた!」
 妙に喜々としているクルツ。その表情に良からぬものを感じたマオは張り倒そうとしたが−続く台詞を耳にして拳を止めた。
「今日一日、テッサちゃんの周囲1mから離れないこと!」
 それを拒絶する術を宗介は持たず、ただ唸るだけだった。
 それを聞いたテッサはおろおろしながらも顔を赤らめた。
 そしてマオは二人を優しい眼で見つめ−クルツに缶ビールを放った。



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