Locus 0-0 "excessus et lustratio"





「起こるから奇跡って言うのにな・・・」





 奇跡は、起こらなかった。
 秋子さんは帰らず。
 真琴は消え。
 舞は自分の力と差し違えて。
 栞は失意の中逝き。
 あゆは意識が戻らないまま逝ってしまった。

 名雪は秋子さんが事故にあったのと同じ場所で車に撥ねられた。
 即死だったという。
 天野はものみの丘で眠るように逝った。
 佐佑理さんは傷が深く、この世を去った。
 香里は自分を責めたあげく、手首を切った。
 そして俺はただ、泣いた。 
 悔しかった。
 何も出来なかった自分が。
 誰も支えられなかった自分が。

 そのころから聞こえていた。
『『何を望みますか?』』
 そんな声が。
 その声に誘われる様に、俺は始まりの場所を彷徨った。
 学校。
 駅。
 商店街。
 ものみの丘。
 そして、大樹の切り株。
 ただ、歩くことしかできなかった。
 自暴自棄になっていたのかもしれない。
 昼は思い出の残るあの家で眠り、夜は街を彷徨うという生活になってどれくらい経っていたのだろうか。
 ある満月の夜。俺はビルの屋上にいた。
 少しでも彼女たちに近い場所に行きたかったのかもしれない。
 給水塔によじ登り、空を見上げた。
 銀色の月が圧倒的な存在感を持ってそこにいた。
 俺はその月に手を伸ばそうとした。
 そのとき。
 不意に。
 風が吹いた。
 あ。
 と思う間もなかった。
 俺は。
 ビルから。
 落ちていた。
 銀の月を見据えながら。
 銀の月に手を伸ばしながら。
 届け、と。
 願った。
 そして。
 衝撃。
 衝撃という言葉すら生ぬるい暴虐の衝撃の中。
 俺は。
 銀の光に包まれた。





「それでも        また
                側に                   こんな
          俺は                   奇跡なら
                               現実を        いるって
  俺が               奇跡を
               守れなかったのか?            俺は
      約束                   信じて
           認めない!                         したのに
    起こしてやる!                    いたかった」







『『何を望みますか?』』







―continuitus―



solvo Locus 00-01 "obsecratio"