Locus 00-01 "obsecratio"





「もし願いが一つだけ叶うのなら、俺は何を望むのだろうか?」





 紫の世界。
 気付けば紫の世界。
 優しく、あるいは冷たく。
 静謐な空間。
 ああ。俺も逝ってしまったのか?
 あっけないものだな。
 苦笑したとき、あの”声”が響いた。
『『何を、望むのですか?』』
 俺は振り返った。
 彼女達はそこにいた。
 紫金の髪。碧い瞳。金色の羽根を広げた聖なる存在と。
 青銀の髪。紅い瞳。銀色の羽根を広げた魔なる存在が。
 彼女達は再び聞いてきた。
『『何を、望むのですか?』』
 俺は即答していた。 
「力を」
『『力?』』
「運命を変える力を。みんなが笑える未来を作り出せる力を」
『『それが、あなたの願い?』』
「ああ」
『・・・過去に戻り、原因となった事を消すことが必要ですね』
「つまり・・・歴史を変える」
『そうです。でも』
『どのように変わるかはあなた次第・・・』
「俺の行動次第、と言う訳か」
『そうです。解ってるのでしょう?どこに問題があったのか』
『どうすればみんな笑っている”今”を作り出すことが出来るか』
「ああ」
『でも・・・代償が求められます』
「・・・どんな?」
『最悪の場合、あなたが存在したという事実が消えます』
「俺の存在自体が、消える?」
『あなたは最初から存在しなかったことになります』
 俺が、消える?
『そして、みなさんはあなたを必要としない”今”を紡ぎ出します』
『あなたではなく、ほかの誰かが隣にいる”今”を』
「でも、そうすれば。やり直したら、あいつらは笑ってられるんだろ?」
『『はい』』
「なら・・・何も問題はない」
 彼女たちは頷いた。
「でも、何で俺に力を貸してくれるんだ?」
『それが<彼>の意志だからです』
『<彼>が貴方に力を貸すことを望んだから。それだけです』
 やけに冷たい。
 何だ、俺に惚れた訳じゃないんだ。
『『違います』』
 ぐあ、何で解る?でも・・・
「ならなんで・・・こうなる前に力を貸してくれなかったんだ?こうなる前に力を貸してくれてたら・・・」
『私たちはあくまでも精神のみの存在です』
『私たちを接触するには貴方が精神体となる必要があったんです』
 ちっ。
   「訳にたたねぇの」
『失礼ですね』
『失礼です』
「俺の思考を読むな!」
『口に・・・』
『出てましたよ』
 ぐあ、またか?またなのか?
「っていうか俺、死んでもこれかい!」
 悔しがる俺を2人は楽しそうに見ている。
 くそ、何か恥ずかしいぞ。
「と、とにかく・・・頼む。力を貸してくれ。あいつらが笑ってられる世界に作り直す力を」
『わかりました。でも・・・』
『本当に宜しいのですね?』
 彼女たちはその時、哀しそうな眼をしていた。しかし、俺は彼女たちの瞳を見据えて、告げた。
「いいに決まってるじゃないか!」
 そのときの俺は微笑っていたと思う。
 そして彼女たちは翼を広げ、空へと駆け上がる。
 おれはそれを本当に綺麗だと思った。
 刹那、金と銀の羽根がこの街を覆い――世界は巻き戻された。
 そして過去の世界で、俺は――やるべき事をする。





「さぁ。世界を創り直そう。君が笑っていられるように」






―continuitus―

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