Quo vadis Locus 00-02 "regressus"
『世界は組み替えられる。あなたの意志に従って――』
−某名士宅にて−
祐一はバットを片手に、その窓に向けて狙いを付けた。
ボールをトスし――バットを振り抜く。
そして、がちゃん、と言う音。
程なく出てくる男性。顔が怖い。
「誰だ!」
「俺だ」
祐一は平然としている。
「・・・ずいぶん度胸がいいな」
それが気に入ったのか、男性の顔は少しだけ和らいだ。
「照れるな」
本当に照れた顔で、祐一。
そんな祐一に男性はすっかり毒気を抜かれていた。
「・・・変な子供だな。それよりも、だ。どういうつもりだ?一弥が怪我をするところだったぞ」
「・・・それは悪いことをした。会えるかな?」
「どういう事だ?」
「直接謝りたいんだ。でないと寝覚めが悪い」
「つくづく変な子供だな」
苦笑。そして、
「仕方ない。良いだろう」
祐一は倉田家に上げられた。
彼の真意がどこにあったのかは分からない。
同年代の者が側にいることで落ち着いてくれたら、と思っていたのかも知れない。
とにかく――祐一は倉田邸に入ることに成功した。
「さて。あのお嬢様を何とかしてやらなきゃだな」
呟き、彼の部屋に向かう。
そこにはベッドに寝ている子供と、その姉らしき子供がいた。
「あなたね?一弥が怪我したらどうするの!」
きっ、と睨み付けるその眼。
あまりにもきつい。
それから彼女が弟を大切に思っていることが伺われた。
「だから謝りに来たんじゃないか」
「謝ったら帰って下さい。一弥はこの後勉強しなきゃいけないんですから」
「・・・厳しすぎるんじゃないか?」
「私はお姉ちゃんだから、一弥を正しい方向に向かわせなければならないんです」
・・・説得力がない。
そんな辛そうな顔していっても説得力がない。
だから祐一は、
「アホか、お前は」
と言いつつチョップ。
「痛いじゃないですか!」
頭を押さえている彼女に祐一はきっぱりと言った。
「どうあるべき、もいいんだけどな。お前は本当はどうしたいんだ?」
「一緒に・・・遊びたいです」
「ならそうすりゃいいじゃないか」
「でも・・・」
「じゃぁこいつに決めさせる。お前は・・・お姉ちゃんと一緒に遊びたいか?」
一瞬の逡巡。
そして、こくんとうなずいた。
「お姉ちゃんのこと、好きか?」
こくん。
そして祐一は佐佑理の方に向かい、
「ほら。簡単な事じゃないか」
と。
笑った。
それからは――早かった。
これまでを取り戻す様に二人は話し合い、3人は笑い合った。
楽しいとき。それはすぐに過ぎていく。
時計の短針は5を指し示している。
「じゃぁ俺はそろそろ帰る」
と祐一。
「今度、いつ来るの?」
と佐祐理が訊き、
「また、きてくれるよね?」
と一弥が訊いた。
祐一はただ笑い、答えた。
「今度の日曜、俺の友達連れてくるから。楽しみにしててな」
部屋を出る。
と、待っていたのは彼らの父親。
彼はただ笑って一言。
「ありがとう」
とだけ、告げた。
−麦畑にて−
「よう」
祐一は軽く手を挙げながら、近づいていく。
「・・・祐一。帰ってきてくれた」
舞は涙を浮かべて祐一を迎えた。
「ああ。2年ぶり、かな?」
「・・・魔物を、退治しよう」
その眼はあくまでも真剣だ。
祐一は首を振った。
「・・・舞。気付いてるんだろ?魔物なんかいない」
「・・・いる。魔物は、いる」
それが自分がここにいる理由だ、と言う様に、舞。
魔物がいるから祐一はここに帰ってきた、といわんばかりの顔だ。
「眼を逸らすな。あれはお前の力だ。お前自身を否定するな」
「・・・でも、魔物がいないと、祐一もいてくれない」
「馬鹿。そんな訳あるか」
軽く舞の頭を叩きながら、祐一。
「本当に?」
舞は祐一に叩かれたところを両手で庇っている。
「本当だ。魔物とかは関係ない。俺はな、舞」
眼をじっと見つめて。
「お前と居たいんだよ」
「・・・・・・」
途端に舞は赤くなった。
それは祐一も同じ事だったが。
しかし――
消えるかも知れない――いや、存在したという事実さえ消えるかも知れない。
そのことは祐一も解っていたが、それでも言うわけには行かなかった。
残酷な事実の代わりに口に出したのは、優しい嘘。
「俺、やっぱり親父たちに付いて行かなきゃいけないんだ」
「・・・・・・」
「でもな、俺は帰ってくるから」
「・・・」
「舞が待っているなら、いつか、必ず帰ってくる。約束だ」
「・・・・・・うん」
「ああもぅ泣くなって・・・」
舞は流れる涙を拭おうとせず、手を差し出した。
「約束・・・指切り・・・」
祐一はその小指に自分の小指を絡め、約束の言葉を口に。
「「指切りげんまん嘘吐いたら針千本のます、指切った!」」
舞は指切りをしたばかりの小指をじっと見つめていた。
「でな。今度の日曜だけど、ちょっと一緒に行って欲しいところがあるんだ。来て、くれるか?」
「解った」
「・・・どこに行くかも聞いてないのに来てくれるのか?」
「私は祐一を信じたから」
「・・・そっか」
そう言いながら祐一が頭を撫でれば、舞は猫の様に眼を細めた。
(すまないな・・・舞)
−ものみの丘にて−
「なぁ」
「?」
「俺、今週末に家に帰らなきゃいけない」
「?」
よく解らない、と言った顔で子狐が祐一を見上げた。
「でもな、約束する。俺は必ず帰ってくる。そしたらまた一緒に遊ぼう、な?」
「♪」
解ったのか解らないのか、子狐は祐一に頭をすり寄せた。
「で、こいつをお前にやる。まぁ、帰ってくるまでの俺の代わりだな」
祐一は呟きながら子狐の首に鈴を着けた。
ちりん。
涼やかな音が鳴った。
「♪」
子狐はそれが気に入ったのか、はね回っている。
そして立ち止まり、祐一を見上げた。
「・・・」
約束だよ、と言うように。
祐一は子狐を抱き上げ、頭を撫でながら・・・
住宅地に向かって歩き出した。
−住宅地にて−
祐一はある人物を捜して住宅地を歩いていた。
「はて。どうしたものか」
気付けば見知らぬ場所。
迷ったらしい。
「・・・人を捜しに来て迷ってどうするんだ、俺?」
腕の中の子狐が顔を上げる。
「心配するな。絶対帰れるって。・・・そのうちな」
前を見ても右を見ても左を見ても人影はない。
「・・・・・・本気で困ってきたぞ」
どこかで電話借りるかなぁ、と祐一が思ったとき、救いの手は差し伸べられた。
「どうかなさいましたか?」
「ああ!これぞまさしく天の助け!」
振り向いた祐一、硬直。
「何ですか?」
「ぐあ、昔からこの口調か・・・」
「失礼な人ですね」
そこにいたのは恐らく幼い頃の天野美汐。
(・・・あいつら、だな)
祐一は納得して、一言。
「まぁ、とにかく人がいてよかった」
「誤魔化そうとしておられませんか?」
「・・・ははは」
小学生にしてはきつい突っ込みに祐一はただ乾いた笑いを上げるしかなかった。
「まぁ良いです。どうかなさったのですか?」
気を取り直した少女の問いに、祐一は答えた。
「道に迷った」
「は?」
「だから、道に迷った」
淡々と事実を告げる祐一。
「・・・その割にはずいぶん落ち着いておられますね」
「会えたからな」
「は?」
何でもない、と手を振りながら、
「とりあえず・・・道案内してもらえるか?」
少女は仕方ないですね、と変わらない表情で告げた。
「助かる。俺は相沢祐一だ。んで、こいつは真琴」
「・・・・・・天野美汐です」
「ぐあ、やはりか」
周囲に人がいないこと。
たまたまいたのが美汐だったこと。
あまりにも出来すぎている。
(やはり、あいつらか・・・)
祐一は金と銀の少女たちを思い浮かべていた。
(至れり尽くせりだなぁ・・・)
考え込んだ祐一を不審に思ったのだろう、美汐の眼は少し厳しいものとなった。
「・・・何か引っかかりますね」
「・・・まぁ気にするな。それよりも、だ。すまないけど、俺が帰ってくるまでこいつのこと、頼めないか?」
子狐――真琴の首をつまんでほい、と差し出す。
その眼は美汐をじっと見つめている。しかし。
「・・・お断りします」
帰ってきたのは、冷たい答え。
「なんでだ?」
「この子・・・ものみの丘の・・・」
「そこまで知ってるなら話が早いな。でも、な。俺はしばらくこいつの側にいてやれそうもないから」
淡々と、事実を――少しだけねじ曲げて、伝えていく。
「どんなことがあったのか、大体想像はつく。でもな」
祐一は美汐の目を見据えて、言葉をつないだ。
「自分を責めるのは止めた方がいい。それに何より、俺はお前の助けを求めているし、こいつもお前のことが気に入ったみたいだ」
真琴は嬉しそうな眼で美汐を見つめている。黙ったままの美汐を。
「・・・・・・」
「解っている。俺が身勝手だって事は十分解っている。でも、俺はこいつのこと、大事に思っている。出来るなら連れて行ってやりたいけど、そうも行かないんだ。これだけはどうしようもないんだ。だから、お前に頼んでるんだ。こいつが何であるか知っている、お前に」
「・・・なぜ、私なのですか?」
「何となくだ。こいつと良い友達になれそうだったからな」
「酷い話ですね」
そう言いながら、美汐は真琴の頭に手をやった。
「悪いな。俺は自分勝手なんだ」
「全くです」
言いながら、優しく撫でていく。
「済まないな」
「そう思うなら必ず帰ってきて下さいね」
そして。
「・・・善処は、する」
「でも、心配はいりませんよ。あなたの言うとおり、この子とはいい友達になれそうです」
真琴を優しく抱き取り、祐一を見つめた。
「そっか。なら、頼むな。で、だ。ついでと言っちゃ何だけどな・・・」
一息吐く
「今度の日曜は暇か?」
「暇と言えば暇ですけど・・・何ですか?」
「えーとな。こいつと一緒に来て欲しいところがあるんだ」
真琴の頭を軽く叩きながら、祐一。
「?」
眼を細めている真琴を見ながら、祐一は言葉を続けた。
「まぁ、お前にも、こいつにももっと友達がいた方がいいだろうと思ってな」
「お前にもっていう所が少し引っかかりますけど・・・。仕方ありませんね。良いですよ」
「悪いな」
言いながらも祐一の口調は悪いとは微塵とも思っていないのが聞いてとれる。
「悪いというならあまり無茶は言わないでくださいね」
「まぁ、当分無茶言うことはないけどな」
そう言いながら苦笑。――いや、自嘲か。
(当分、というより無茶を言うこと自体無くなるかも知れないけどな)
その言葉は音になることはない。
祐一は黙って美汐の顔を見つめた。
「・・・何ですか」
「いや、もっと笑えばいいのにと思って」
じっと、見つめたまま。真面目な顔で。
「お前、笑ったらかなり可愛いと思うぞ」
その言葉に美汐は顔を赤らめた。
それを見て、祐一は話しかけた。
(もしも――消えることなく)
「俺が帰ってきたなら」
叶わないだろう、願い。
「笑った顔、見せてくれよ」
願いを込めて、笑った。
「・・・善処します」
そう答えた美汐は確かに――
微かだが、確かに笑っていた。
−とある大きな木の下にて−
祐一はあゆと樹を見ていた。
「うぐぅ。祐一君、見てたら登れないよ」
あゆは恥ずかしそうに抗議するが、
「いやだ。見ててやるぞ」
祐一はにべもない。
「うぐぅ〜意地悪〜!」
ほっぺたを膨らませて怒っているが、迫力はない。
愛嬌だけが増していた。
祐一は笑いながら、
「まぁそう言うな。鯛焼きおごってやるから機嫌を直せ」
と機嫌をとれば、あゆの顔は一気に綻んだ。
「鯛焼き、鯛焼き♪」
「・・・踊るほど喜ばなくてもいいんだけどな」
「だって嬉しいんだもん」
「鯛焼きがか?」
「祐一くんが一緒に食べてくれることが、だよ」
「・・・そっか」
「うん!」
あゆの顔は無邪気だ。
祐一は
「で、俺は家に帰らなきゃいけないんだけどな」
「うぐぅ・・・祐一くん、いなくなっちゃうの?」
「そんな顔するな。いつか帰ってくるって」
しかしあゆの顔は沈んだままだ。
「でな。お前も友達が俺だけってのも困るだろ?だから、今度の日曜、来て欲しいところがあるんだ」
涙で瞳を濡らしたあゆが顔を上げた。
「まぁ、俺の友達なんだけどな。きっと仲良くなれるぞ」
「・・・・・・」
「大丈夫だって。心配するな。な?」
頭をぽんぽん、と軽く叩きながら祐一。
「うぐぅ・・・ボク、頑張って仲良くなるよ!」
「じゃぁ、待ってるからな」
(あいつらがいれば大丈夫だよな?俺が――居なくなっても)
あゆを見送る祐一の目はどこか悲しく、どこまでも優しかった。
水瀬家にて
「名雪、今度の日曜は暇か?」
「うん、大丈夫だけど」
「ならちょっと一緒に来て欲しいところがあるんだけど、来てくれるか?」
「どうしたの?」
「えーとな。友達になって欲しい奴らがいるんだ」
「もちろん大丈夫だよ」
「さんきゅ」
思いを巡らせる。
この従姉妹と過ごした日々を。
いつも支えてくれた。
いつも励ましてくれた。
そんな彼女を残して。
確実に。
消える。
その事実。
しかし、言えない。
(本当、お前の言ったとおり極悪だな、俺は)
名雪はただ笑っている。
新しい友達が増える、という期待に。
それが――その笑顔が、祐一には痛かった。
「悪いな・・・」
いつの間にか言葉にしていたのだろう。
名雪はきょとんとした顔で祐一を見つめている。
「どうしたの、祐一?」
疑いもせず。
「いや・・・いつもありがとうな。名雪」
「それは私の台詞だよ」
その言葉が祐一には辛かった。だから。
「じゃぁ、日曜日・・・頼むな」
それだけ言い残して、祐一は家を出た。
公園にて
祐一は美坂姉妹を捜して街を彷徨っていた。
「居ないな。困ったぞ、これは」
参ったなぁ、と呟きながらも探し続けようとしたとき、届いた。
「何よ、栞は関係ないでしょ!」
「えぅー、お姉ちゃ〜ん」
「・・・間違いないな。しかし何やってんだか」
駆け出す。
二人を助けるために。
「今の俺にはそれだけの力があるし、な」
呟いて。
ただ、疾走。
行く先は公園。
それが解るのは――
「さんきゅ。お前らだろ?」
金と銀の導きか。
祐一は道を惑うことなく、公園へと辿り着いた。
そして。
「なに馬鹿なことしてるんだ?」
そこで繰り広げられていたのは5対2という構図。
5人は男、2人が女。
「邪魔しないでくれないか?僕に逆らうことの意味を教えてあげなければならないのでね」
その口調が祐一には引っかかった。
「その嫌みな喋り方!俺様な態度!お前、ひょっとしなくても久瀬だろ?」
何となく言ってみただけだったのだが、
「見ない顔だが僕を知っているとはね」
正解であった様だ。
「・・・・・・うわ、マジかよ。全く・・・ガキの頃からこうか、こいつは」
頭を思わず抱える。
はぁ、と溜息。
その後は宣戦布告。
「とりあえずな。そういうのって無茶苦茶格好悪いぜ?」
「まさか君も僕に逆らうつもりかい?」
久瀬の目は剣呑な輝きを帯びている。
祐一は肩をすくめながら答えた。
「逆らう?とんでもない。逆らおうなんて思ってないよ」
香里と栞は顔をこわばらせた。
久瀬たちは安堵の顔を見せた。
祐一は次なる言葉を口にした。
「思い知らせてやるだけさ」
にや、と笑う。
「覚悟しときな。俺は結構残酷だぜ?」
狙いはただ一人。
思い切り地面を蹴り、瞬時に間合いを詰める。
(筋力は高校生、体重は小学生、か)
「ある程度予想はしてたけどえらく都合がいいな」
サービスかな、と呟いた後、集中。
目の前で驚愕の表情を浮かべている久瀬に一言告げた。
「チェックメイト」
拳を振るう。ただし、それなりに手加減はして。
「わあ、久瀬くん!」
「久瀬くんがやられちゃった!」
悪ガキたちは散っていった。
久瀬は祐一の足下で恍惚とした顔で痙攣している。
「・・・うわ、気持ちよさそうな顔してるし」
言いながら久瀬を引きずってジャングルジムへ。
「まぁ、二度とこんな事が出来ない様にしなきゃな」
呟きながらにやりと笑う。そして久瀬を剥き、縛り付けた。
「うむ、凄まじく有害な格好だ」
腕を組みながら呟く祐一を、
「あなたがやったくせに」
香里は半眼で見つめ、
「うわ。凄い格好です」
その横で栞はまじまじと久瀬を見ている。
「栞!見ちゃ駄目!」
香里はとりあえず栞の頭を叩いた。
「えう〜!お姉ちゃん、酷いです〜!」
「・・・とりあえずここから離れるか」
苦笑を浮かべながら、祐一。
「むふ〜ん・・」
「とその前に」
祐一は久瀬に近づき、顎を掠めるジャブを一発。
覚醒しつつあった久瀬の意識を再び闇に沈めた。
「おっけ。行こうか」
「・・・極悪ね」
僅かな恐怖を滲ませて香里が呟く。
「敵にはな」
しかし祐一はあっけらかんとしたものだ。
「さっさと逃げようぜ。人に見られたらシャレにならん」
「そうね」
「わかりました」
その後、多くの同級生にその姿を目撃された久瀬が『裸王(ラオウ)』の徒名を授けられ、その権威は失墜したことは言うまでもない。
そしてそのトラウマにより傲慢だった性格はねじ曲げられ、妙に人好きのするそれに変わったのは――恐らく、彼にとって良いことだったのだろう。
「しかしあなた・・・凄いことするわね」
「褒めるなよ。照れるじゃないか」
「褒めてないんだけど・・・とりあえず、礼を言っておくわ。ありがとう」
「ありがとうございました」
「そう改まって礼を言われるとかなり照れるものがあるな・・・」
頭の後ろを掻きながら、祐一は照れていた。
それを見て安心したのだろう。
『この男の子は理由無しに悪いことはしない』
『この男の子は信じられる』
姉妹はそう結論付けていた。
3人が仲良くなるにはそう時間はかからなかった。
香里と栞は元々仲が良かったし、祐一も彼女たちを助けたと言うこともあったからだろう。
祐一も気付けば色々な話をしていた。
ものみの丘の子狐のこと。
名雪のこと。
あゆのこと。
舞のこと。
そして、美汐のこと。
佐祐理のこと。
一弥のこと。
「ふふっ。そんなに面白い人たちなら会ってみたいです」
「そうね。面白そうね」
栞も香里も無邪気に笑った。
「なら、話は早いな。実はな、頼みがあるんだ」
「頼み?何ですか?」
「変な事じゃなかったらいいわよ」
香里のその言葉を聞いて祐一は苦笑。
「・・・変な事じゃない。まぁ、簡単に言えばあいつらと友達になって欲しいんだ」
「どういう事?」
香里のその疑問は当然だったろう。
「俺・・・この街から離れるんだ。でもな、心配な奴らがいてな」
照れた様に言葉を続ける祐一。
「同い年くらいの友達とかがいたら、寂しくないだろうって思ってな」
その眼はどこまでも優しい。
気付けば香里も栞もその眼に見惚れていた。
「・・・頼めるか?無茶な頼みだってのは解ってるんだけど」
声の響きは真剣なものだった。
だから彼女たちは。
「あたしは構わないけど・・・栞は?」
「私もいいですよ」
祐一の申し出を引き受けた。
「おし!そうしたらな、今度の日曜日・・・」
「さて。仕込みは上々、ってね」
祐一は空を見上げて微笑った。
「日曜日が正念場だな。下準備、しとかなきゃな」
言いながら、父親から無理を言って借りたお金を握りしめて、とある店に入っていった。
残される彼女たちのために。
『――あなたは何故・・・微笑っていられるのですか?』
―continuitus―
solvo Locus 00-03 "bellicum cano cantatio"
moveo Locus 00-01 "obsecratio"