praeteritum 00 "salve,ex cavus in clivis"





「ああ・・・よく、憶えてるさ」





「ねぇねぇ祐一。今まで聞いてなかったんだけどさ」
 煎餅に手を伸ばしつつ、千早。
「幸耶さんとか更紗って、祐一と逢ったのって子供の頃だったよね。
 どうやって知り合ったのかなー、って思って」
 そして煎餅を一口。
 祐一は少しきょとんとした表情。呑気な声でこう答えた。
「どうやっても何も・・・普通に出会ったんだけどな」
 予想外。というか、突き抜けた返答に、千早は凄い勢いで煎餅を振りつつ言った。
「だーかーらー、幸耶さんは元々妖狐だったんだし、更紗に至っては現役で竜じゃない?
 どこに接点があったのかってこと。どれだけ突き抜けたことしたら出会えるのかな?」
「あ。それ、私も聞きたいです。
 祐一さん、どんな奇妙な行動を取ったんですか?」
 煎餅を飲み込んで、静希。
 更紗も湯飲みにお茶を注ぎつつ。
「・・・祐一があの華音に来た時のことは憶えていますよ。でも、私が知っているのは、祐一が私の家に来てからですから」
 そしてどうぞ、と祐一に差し出す。
「あの世界で、祐一と最初に話をしたのは幸耶でしたからね。
 私もその時のことは伝え聞いただけですから・・・よく知らないので。
 でもそうですね、普通は来ることが出来ない世界ですから・・・・
 ――祐一。答えて下さい。どんな怪しいことしたんですか?」
「奇妙な行動って決めてかかられてるのが不本意だが・・・そういや話してなかったなぁ」
 煎茶を一口。
「あれは今思い出してもなかなかスペクタクルだった・・・」
 懐かしそうに、祐一は語り出した。



 そもそもの始まりは何となく丘に登ったことだった。
 あそこから街を見下ろしたらどんなだろうか?
 そんな、好奇心。
 それに突き動かされて丘を登り、祐一は出会った。
 一匹の子狐に。
 その子狐は、ものみの丘で蝶々など追いかけて遊んでいた。
 試しに来い来いと言ってみたら寄ってきて、何か用?といった風情で祐一を見上げたのを良く覚えている。
 その次に子狐は、『遊べ!』と言わんばかりにきゅんきゅん鳴いた。
 何気なく遊んで欲しいのか、と訊いてみたならば、狐は凄い勢いでじゃれついた。
『解ってるじゃない!ほら遊べさあ遊べすぐ遊べ!』
 と、身体全体で表現して。
 そして、一人と一匹はすぐに仲良くなって――それ以来、祐一はその丘に来るのが日課になっていた。
 その丘――つまり、ものみの丘。
 そこにまつわる伝承を、祐一は後日知ることになるのだが、それはまた別の話である。
 さて、話を戻そう。
 その子狐は人間の言葉が解っているかのような素振りを見せていた。
 どこか楽しそうに祐一の話を聞いていたり、祐一の問いに頷いたり首を振ったりで答えたり。
 どこか、不思議な子狐だった。
 そんな子狐と遊ぶため、祐一は今日もものみの丘を登っていた。
 買い物帰りだったため、手元には油揚げ3枚にだし用昆布お買い得パック。子狐のお土産に買った煮干しが一袋。
 おまけみたいにポテチが一袋。
 他に手元にあるものと言えば、花火セット。
 途中で急いでいる男とすれ違ったが、祐一にとってはそれは大事なことではなかった。
「忙しそうだな」
 呟き、丘を登っていって――丘の頂上近く、祐一はそれを見付けた。
 何処までも深く、底が見えない穴。
 実はその穴だが、祐一はたびたび見かけていた。
 場所は決まっておらず、大きさも不特定。いつの間にか現れ、いつの間にか消えているという点のみ共通していた、その穴。
 普段は無理矢理無視していたものの、今日という今日は好奇心を抑えきることが出来なかった。
「なんだこりゃ?」
 近付き、覗き込む。
 穴の周囲は滲んでおり、それが本当に穴なのかどうか自信が持てない。
「・・・謎だ」
 呟くと同時に、慌てたような声。
「うっわー、閉じ忘れてた閉じ忘れてた!」
 顔だけ声の方向に向ける。
 走っているのは、つい先ほどすれ違った男。
 凄い勢いで走ってきた男は石に躓いたのだろう、転んで――祐一に頭突き。
 祐一をその穴に突き落とした。
「こら待てぇぇぇ!?」
 その声は男には届かないだろう。
 何故なら男は気絶していたから。





「俺がいったい何をしたー!?」





―continuitus―

solvo praeteritum 01 "petere petere petere!!!"