praeteritum 01 "petere petere petere!!!"





「・・・ほわっつはっぷん!?」





 気付けば、ものみの丘。
 あの穴があった辺りで祐一は目覚めた。
 右を見る。
 左を見る。
 空を見て、そして見下ろす。
「・・・どこだここ?」
 丘から見下ろせば、見慣れた街並みはない。
 そこにあるのは街と言うより村と言った方が相応しい光景だった。
 夢かと思い、頭を殴ってみる。
「痛ぇ!」
 夢じゃなかった。
 普通の人間は狼狽える。
 だが、相沢祐一という男は普通ではなかった。
「タイムスリップ!?次元移動でも可!」
 うむうむ、と頷きつつ自分の取るべき行動を考えてみる。
「まぁ・・・行くしかないか」
 俺どうなるんだろう、と呟きつつ人が居るだろう場所へ向けて、祐一は足を踏み出した。



 丘を降りた麓の雑木林。
「・・・見かけない顔だね。どこの郷から来たの?」
 幼い声がした。
 そちらを向く。
 金色の髪の、祐一と同じくらいの年齢の子供がそこにいた。
 狐の耳に、尻尾。
 あんなのどこに売ってるんだろう、と考えつつ祐一は返答した。
「どこって・・・華音に決まってるじゃないか。変なことを聞く奴だな」
 と、その子供の気配が変わった。
 剣呑な表情で、問う。
「まさかとは思うけど・・・人間?」
「いかにも人間だぞ」
 ――驚愕。
 焦りを含んだ声で、誰何する。
「・・・何で人間がここにいる!?」
「人間がって・・・お前も人間だろうが」
 苦笑混じりに言えば、その子供は――嗤った。
「人間・・・?誰が?」
 金色の、獣の瞳での嗤い。
 そしてその姿が滲んで変わった。
「をを、化けた!?」
「さぁ、人間は人間の世界に還れ。
 それとも我が血肉となるか・・・?」
 その姿は――
「金毛白面九尾の狐!そうかお前が白面の者か!」
 まさしく人に徒なす妖狐。しかし祐一は動じていない。
 うわー凄いもの見たと喜んでさえいる。
「・・・なんで怖がらないの?」
 獣が問い質す。
 理解出来ない、といった風に。
 祐一はあっけらかんと答えた。
「いや、だって小さいし」
 そう、その獣は小さかった。
 柴犬くらいの大きさの九尾の狐。
 威厳がないことこの上ない。
「はう」
 獣は悔しげに呻きつつ、その身を変えた。
 半人・半妖。
 狐の耳に狐の尻尾。
 顔を真っ赤にして祐一を指差して、
「お、大人しく帰れば怪我をしなくてもすんだだろうに、少し痛い目を見なきゃ駄目な様だねっ!」
 真っ赤になりつつ狐火を呼び出したのだが。
「ドナ○ドマジックか!?」
 更に大喜びしている。
 その妖――妖狐もさすがにこれには不安になった。
 はて目の前にいるこいつは本当に人間なのだろうか?
 よもやどこぞの街の妖が、自分をからかっているのではないだろうか?と。
 その怪訝な目に気付き、問う。
「ん?どうした?」
「本当に人間?」
「失礼な。どこをどう見ても人間だろう?」
「言動が人間ぽくない」
 きっぱりと、妖狐が言うと。
「がーん!祐ちゃん大ショック!」
 祐一はよよと崩れ落ち、地面にのの字を書き始めた。
 その姿は儚く、今にも消えてしまいそうで。
「あの、えーと、大丈夫?」
 妖狐はつい心配そうに声をかけた。
「・・・・・・」
 返事はない。
「・・・・・・」
「おーい?」
「とまぁ落ち込むのはこれくらいにしといて、だ。お前、狐だろ?」
 復活。
 妙に自信たっぷりに、祐一は問い掛けた。
「・・・妖狐も狐も言えなくはないから・・・そうなんだろうけど」
 最早疲れた表情と声で妖狐が答えると、祐一は買い物袋から油揚げを一枚取り出して、前に放ってこう言った。
「さあどうした?まだ正体がばれただけだぞ、かかってこい!!
 狐火を出せ!!体を変化させろ!!もっと面白いものに化けて立ち上がれ!!
 油揚げを取って変身しろ!!
 さあ芸はこれからだ!!お楽しみはこれからだ!!
 早く(ハリー)!
 早く早く(ハリーハリー)!!
 早く早く早く(ハリーハリーハリー)!!!」
 妖狐はそれを分捕って、
「あんたはどこぞの吸血鬼かっ!」
 祐一の顔に思い切りぶつけた。
「何しやがる!」
 反論するが、
「何しやがる、じゃないっ!」
 怒りは妖狐の方が大きい。
 いや怒っていることを知りながらも、祐一はその態度を変えない。
 照れくさそうに、言ってみる。
「いや、喜ぶかなーと」
「喜ぶかっ!」
 獣の目を金色に輝かせつつ、ぜぇぜぇと。
 それを見て祐一は妖狐の肩を軽く叩き、哀れむように言ってのけた。
「まぁ落ち着け。あまり怒りすぎると体に悪いぞ」
「だれが怒らせてると思ってるのっ!」
 その声に、暫し思案。
 手をぽんと打ち、心外そうな顔を見せ、
「もしかして俺だったのか?」
「他に誰がいるのさっ!」
「ははは、そんな気がしないでもなかったんだが」
 祐一は煮干しの袋を開けて、
「まぁ食え。怒りっぽいのはカルシウムが足らないからだぞ」
 にっこり笑ってほいと差し出した。
「え・・・あ・・・うん・・・」
 毒気を抜かれ、つい受け取る妖狐。
 そして祐一と妖狐は並んで座り、一緒に煮干しを囓りだした。
 まるで旧来の友人のように。





「うう、何だか調子が狂うよぅ・・・」





―continuitus―

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