ダーティ・レディ2



その日、鷲士は風邪で寝込んでいた。
2〜3日前から、なぜか彼の周辺で風邪が大流行していて、キッチリうつされたのである。体温は39℃を越え、かなり意識も朦朧としていた。
美沙も心配してはいたが、試験の真っ最中のため、鷲士が無理やり学校に行かせたのだ。
かくして部屋には鷲士一人となったのである。誰もいない部屋は寂しかった。熱も高いので、動く気もおきない。
(ごはん、どうしようかなあ)
と、ぼーっとした頭で考えていると、それはやってきた。
「シュージ、お見舞いに来たわよ〜」
 ノイエさんである。前回(ダーティ・レディ参照)の騒ぎはおくびにもださずに、さも心配そうに、鷲士の様子をうかがう。
「熱も高いみたいね。ちょっとまっててね、なにか消化のいいものつくってあげるわ。いろいろ買ってきたから・・・」
 と台所でごそごそと準備し始めた。
(ああ、ありがたいなあ、やっぱりもつべきものは友達だなあ〜)
 ポケポケ青年らしく、朦朧とした頭で鷲士はのんきに考えていた。これが前回以上の惨劇の始まりになろうとは、予想だにしていなかったのである・・・

「ハイシュージ、できたわよ〜」
 いいにおいがする。どうやらおかゆをつくってくれたらしい。 
「ありがとう、ノイエ。やっぱり熱があるとなにもつくる気がおきなくて・・・・・!?」
 起き上がりながら、ノイエのほうをみた鷲士は固まった。
「・・・ノ、ノイエ・・・そのカッコ・・・なに・・・?」
「あら、知らないのシュージ?裸エプロンっていうらしいわよ、コレ。」


 『裸エプロン』

  世の男達の願望の一つ。これをナイスバディの美女が行うと、たいがいの男は野獣と化す。

  ゆえにこの衣装をまとう時は、ここぞという勝負どころに限ったほうがよいだろう。

                      (民明書房刊「男と女の羅武戯江夢(ラブゲーム)」より」)


「病人の看護にはこのカッコが一番いいんだって♪ さ、おかゆ食べましょ♪・・・それとも・・・わたしからタ・べ・ル?」 
 輝くような笑顔であった。正常な判断力が失われた鷲士には、ノイエの顔が女神さまに見えた・・・かもしれない。まあ確実にいえることは、抗いがたい魅力がそこにはあった、ということだけだ。
 ふらふら〜と鷲士の手がノイエのほうにのびていく。
(ふっ、こんどこそ勝ったわっ!)
 ノイエが勝利を確信したまさにそのときっ!
「そ・う・は・させるかーっ!!!!!!」
 もの凄まじい気配とともに、そうっ、今回もやってきたぞ、われらが麻当美貴嬢だっ!
「あそこから抜け出してきたのっ!?象でも動けなくなる筋弛緩剤入りの紅茶を飲ませて、零下20度の冷凍車に叩き込んだのに・・・・ゴキブリどころか、ゴジラ並みの生命力ね、あなたはっ!」
ちっ、と舌打ちしながら鷲士の傍から飛び退るノイエ!
「ふっ、筋弛緩剤からはすぐに回復したけど、冷凍車から脱出するのに手間どってね。まあ、ギリギリ間に合ったみたいだからよしとするわっ!」
 と不敵な笑みを浮かべる美貴。・・・どっちも怖いぞ、アンタら・・・。
 またあの罵詈雑言の嵐が吹き荒れるのか・・・鷲士は戦慄を覚えた・・・が。今回は違った。
「今回はどちらがシュージを満足させられるか・・・それで勝負よ!」
「望むところだ!私と彼の絆の強さを見せてあげるよ、ふっふっふ」
「はっ、返り討ちにしてあげるわっ!」
 二人の間に殺気が凝縮されていく。息苦しさを覚えるほどだ。そして・・・
「シュージ♪」
「しゅーじ♪」
 一転して、満面の笑顔となった二人が鷲士ににじり寄っていく。その笑顔が鷲士には血に飢えた夜叉に見えたとゆう・・・・・
「うう・・・だれか・・・だれか、たすけてくれ〜っ!!!!!!」
 青年の悲鳴は、むなしくこだまするだけであった・・・・・。
 
 学校から帰ってきた美沙が見たものは、真っ白に燃え尽きた鷲士の姿であった。
さらにひどくなった風邪のため、かれは緊急入院することになったが・・・・それはまた別の話。


ノイエ・シュライヒャー。一介の女子大生でありながら、草刈鷲士と出会ったことにより、無敵の恋する乙女となってしまう恐るべき女性!
人は彼女のことを手段を選ばない女・・・ダーティ・レディと呼ぶ!