チビ(雑種・オス)

先代の犬、ロックが死んでから数年が経った。 にゃお一家は、それまで身をよせていた
伯父夫婦の家を出て、目と鼻の先に建てた新しい家に引っ越していた。 



にゃおが小学4年生くらいの夏の近い日のことだった。
庭に止めた車の下に一匹の犬が寝そべっていた。 首輪はない。 どうやら野良犬で
どこからか流れて来たようだった。 時々、車の下から出てきてはエサを求めて歩く姿は
すさんでいて、母などは危ないから近づかないようにと言っていた。
犬はどういう心境だか、常に車が止めてある時はその下にいるようになった。 すぐそばに
中学校があり、中学生が学校からの帰り道に、パンを食べたりお菓子を食べたりする所へ
ちゃっかりとしっぽを振って近づき、お相伴にあずかっていた。 犬にとってはそこに
いれば食べるものに困らないと判断したのだろう。 そのうちに人慣れしてきた犬は
にゃおが外にいる時も、しっぽを振って近寄ってるようになった。
母もいつしか、残り物をさりげなく与えたりしていたようで、犬はだんだんと目にも
落ち着きとやさしさのこもった光を宿すようになってきたのだった。


夏休みに入る頃、犬はすっかり、にゃおたちに懐いた。 相変わらず車の下に
いることが多かったけど、勝手口にやってきては、エサをねだったり、なでてほしいなどと
愛を欲しがった。 にゃおは、いつしか、その犬が大好きになっていた。
母に、その犬を飼ってもよいかと聞いた時、母は父が許すようならいいだろうと言った。
(この頃、まだ父と母は離婚していなかったので)
父は、にゃおのお願いに渋い顔をした。 それは、その犬の姿のせいだったのだ。

『ウェルシュコーギー』なんていう犬種の犬がいるらしい。 耳が大きな三角で
ダックスフンドみたいに足が短いのが特徴だ。 その犬はまさに、姿がその
『ウェルシュコーギー』にソックリだったのだ。 ただし、かなり前足がガニ股だったけど。
時は1970年代。 その頃にすでに日本に『ウェルシュコーギー』がいたかどうかは
知らないけれど、少なくとも、にゃおたち田舎に住むものにとっては、その犬の姿は
ヘンテコなものでしかなかったのだ。
「この犬は奇形じゃね(奇形という言葉が差別用語かどうかはわからない)」
「変な病気なんじゃないじゃろうか」
「どう見ても不細工な犬じゃねぇ」
それが誰もが思ったこと。 父も、あまりにもの異様な姿にどこか病気をかかえているのでは
ないかと思ったらしかった。 ただ、にゃおの熱いお願い攻撃に負けて、
「それじゃ、鎖を買って来い」と、ひとこと言った。 にゃおは父の気が変わらないうちにと
急いで自転車に飛び乗り、数キロ離れた雑貨店へ鎖を買いに走ったのだった。

 

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