チッチ(スズメ)

にゃお家では、よく巣から落ちたスズメやツバメの雛を保護することがあった。
野生の鳥というのはなかなか育てることが難しくて、たいていは死なせてしまう。

死亡原因
 第一位:ふんづまり
第二位:寒さ
第三位:食べさせ過ぎ

もともと虫を主に食べる鳥たち。 成鳥になったら穀物も食べるかもしれないけど
雛の間は虫しか食べないのが通例なはず。
だけど、人間の手で保護した場合にはどうしても、ヒエやアワという穀物を多用してしまう。
 雛のお腹が満たされるほどの虫を取るなんて大変だもの。
この時期をなんとか生き延びると、よっぽどの事がないかぎり、死ぬことはなかった。
もっとも、ツバメはどうしても巣立ちできるほどまで育ててやることができなかったけど。


にゃおが中学2年生か3年生の頃、1羽のスズメの雛がにゃお家に持ち込まれた。
当時、母が自営業の雑貨店をしていたこともあって、近所の中学生が
拾っては母に助けを求めるのだった。
保護されたスズメは「チッチ」と名づけられた。
にゃお家ではスズメやツバメはどれもみんな「チッチ」という名前になるのだった。
チッチは元気のいい雛だったけど、致命傷を背負っていた。

目が見えないのだ。

両目とも、まぶたがくっついて離れない。 
野生の生き物にとって、目が見えないということは即、「死」を意味する。
目が見えなくちゃ、どうすることもできないからだ。
ましてや野生の鳥。 一人で生きてはいけない。
人間の手で保護されていても生きて行くことは難しい。 一人でエサを
ついばむことができないんだから。 人間がずっと付き添ってエサをやるって
ことは物理的に厳しい。 さらにチッチの場合、目が見えないから方向感覚が悪い。
 それなのにやたら元気に走り回るから、あっちにゴン!こっちにガン!ってな具合に
ぶつかりまくる。 それだけでも怪我をして死に至ってしまいそうだ。


「困ったねぇ、どうしようか?」
母がチッチをティッシュに包んでエプロンのポケットに入れて暖めながら言った。
実は、にゃおの妹が脱腸の手術を受けることになっていて、
母はその付き添いで1週間ほど病院に泊まりこみをしなくてはならなかったのだ。
生活の糧である店を1週間も閉めておくわけにはいかない。
入院は夏休みに入ってからだったので、その間はにゃおが店を切り盛りすることになっていた。

「にゃおが面倒見るよ」
どうしようかって言われたって、死なせるわけにいかないでしょ。
チチチッって呼べば、口を大きく開けてエサをねだるチッチ。
羽根を小刻みに震わせて甘えるチッチ。 にゃおがひと肌脱ごうじゃないの!!

こうして、夏休みが始まり、にゃおとチッチの1週間に渡る「二人暮らし」が始まったのだった。


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