| はな(雑種・メス) |
『はな』は、どこからともなく流れて、にゃお家(実家)近くの山に住み付いた野良犬だった。 野良犬にしては眼が優しく穏やかで、気だてがよかった。 おっとりとして人間を 怖がらないところを見て、誰もが以前は人間に飼われていたのだろうとうわさした。 当時、にゃおんちは雑貨店を営んでおり、すぐ近くには中学校があったこともあって 『はな』はいつも、にゃおんちの周辺にいた。 動物好きの中学生が『はな』を触る。 大人しく優しい『はな』に、わざわざ店でパンを買って与える子もいた。 『はな』もそれを 目的に出没していたのだった。 その頃、『はな』は山の中で子犬を出産したらしく お乳が張っていた。 山の中で待つ子犬たちにお乳をやるためにも、『はな』は 自分が食べる必要があったに違いない。 にゃおんちには、その頃、猫がいたので(この猫の話はまた別の時に)、にゃおは あまり『はな』に接することはしなかった。 ただ、大の動物好きの母は 情が移ってしまうといけないと思いながらも、だんだんと『はな』との距離を せばめていったようだった。 ★ 『はな』が流れてきた時、どこかで犬取りにでも遭いそうになったのか、 首には太いロープが巻きついていた。 それが成長するにともなって首に 食い込み、『はな』のノドを圧迫していた。 ある日、中学生の女の子が見かねて 母に『はな』のロープを取ることはできないだろうかと相談したと言う。 母はいくら優しいとは言え、野良犬だから、首に食い込んだロープを外すのは 危険ではないかとためらった。 が、よくよく見れば、食い込んだロープのせいで 回りの肉が硬く盛り上がって、とても可哀想な状態だったという。 母は意を決して 『はな』のロープを取り除こうとしたのだった。 そんな母の恐怖は杞憂に終わった。 ロープを取る間、『はな』はじっと大人しく 座っていた。 イヤイヤをするそぶりはあったものの、だからといって威嚇することも 気色ばむこともなかった。 そればかりかロープを無事に取り除いてやり 「これで大丈夫だからね」と母が頭をなでると、しっぽを振って、母の手を なめたのだという。 この一件で、母は『はな』をなでたり、賞味期限の切れたパンをやったりと 急速にお互いの距離を縮めていった。 『はな』も母の優しさがわかるのか 自分からお腹を見せて、なでてくれるようにと催促するまでになった。 ★ ★ やがて、冬が来た。 にゃおたちが住んでいる場所は、そこそこ標高もある山の中の田舎。 温暖化が進んでいたけれど、当時はまだまだ雪も積もるくらい寒かった。 店番をしている母。 外は吹雪。 そして店の前には『はな』。 母に背を向けて座っている『はな』が、時々、グラリと揺れて倒れそうになる。 飢えと寒さで眠気を誘われているのだ。 おっとっと・・・というように 体勢を立て直す『はな』。 それでもいくらもしないうちに、またグラリとする。 その後姿を見て、母は決心した。 母から『はな』をうちの子にしてもいいだろうか・・・と相談を受けた時、 にゃおは反対しなかった。 それまでの母を見ていて、この話がいつ出ても おかしくないと思っていたし、『はな』の気性はよくわかっていたので 反対する理由もなかった。 『はな』の子供たちは大きくなり、それぞれが 独立するような形で野良犬化していた。 子供たちは決して人間になつこうと しなかったので、『はな』だけしか受け入れることはできなかった。 ★ こうして、薄汚い茶色の野良犬は、『はな』という名前をもらい、 にゃお家の一員となったのだった。 |
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