フィラリアの手術痕も癒え、体の中で大量の虫に栄養を奪われることのなくなった『はな』は
だんだんと太り始めた。 骨と皮ばかりでゴツゴツとした体が丸くなり、パサパサの
毛にツヤが出始めた。 どことなくみすぼらしかった雰囲気が消えた。
散歩に連れて歩くと、野良犬時代の『はな』を知っている人が、
「いい犬になってきたね」と声をかけてくれた。

『はな』が野良犬として現れてしばらくしてから、別のオスの野良犬が姿を現していた。
こちらは一目でわかる猟犬。 狩猟にに来た人がはぐれた犬をそのままにして
帰ってしまい、その犬が野犬化してしまうというのはよくある話らしい。
元が猟犬だから、目つきもするどいし、オスということで体も大きく威圧感がある。
どういうわけか『はな』を気に入ってしまい、にゃお家の一員になる前には、
このオス犬との間にも子供をもうけていたようだった。 『飼い犬』になったのだから
野良犬のアンタとはもうオシマイ・・・なんてのは犬に通用しない。
今までと同じようにオス犬は『はな』の元に現れ、一緒に寝そべったりして過ごした。
『はな』がエサをもらうと、どこからか現れて横取りして食べてしまった。
『はな』も優しいから、横取りされても黙ってみているだけ。 それではいけないと
食事の時は『はな』を店の中に入れて食べさせたりと、こちらも気をつけていた。

そろそろ、発情期が近づいていた。
オス犬がやたらと『はな』のおしりを臭う。
まだ交尾するまでには至らなかったけど、猶予はあまりないように思われた。
妊娠してしまっても初期なら一緒に手術して始末してしまえる。 けれど
それではあまりにむごい。 できるなら再び妊娠してしまわないうちに
避妊する方がよかった。 犬でも猫でも避妊や去勢は日帰りできる。
一応、全身麻酔をするから(にゃおたちが通う獣医ではそう)、麻酔を
さまさせる注射をしたあと、しばらくはボ〜っとしていたり、多少の吐き気を
もよおすということもあるけれど、2〜3日、いつもより運動量を控える程度で
大丈夫なのだという。 早く避妊してしまおう。

とある日に、『はな』は避妊手術を受けた。 その日まで、間違ってオス犬が
交尾してしまわないように、できるだけ店の中で過ごさせていた。
無事に手術も済んで一安心。 これで外に出していても大丈夫だろう。
『はな』は術後のけだるさで、暖かな陽射しの中、横になっていた。
と、その時、けたたましい『はな』の悲鳴が聞こえた。 慌てて飛び出た
にゃおと母はそこで信じられない光景を見た。
なんと、避妊手術を終えて何時間も経っていない『はな』に、オス犬が
背後からのしかかり、交尾している
のだった。 
『はな』が救いを求めるような目でにゃおたちを見た。
「なにするんね!!(激怒)」
母が恐怖も忘れて、柄長ほうきでオス犬を『はな』から引き離そうとした。 
けれどオス犬は離れてもすぐに『はな』にのしかかり再び交尾しようとする。
それを邪魔すると怒りの色を目に浮かべてこちらににじり寄ってくる。
なんとか、オス犬を遠ざけて、急いで『はな』を店の中に避難させた。
手術したばかりなのに、無理やり交尾されて、お腹の中は大丈夫なのだろうか?
それよりも避妊したのにどうしてオス犬が交尾しようとするのか?
すぐに獣医に電話をして問い合わせてみると、いくら避妊したとは言え、
しばらくはフェロモンが残っているから、それに誘われてしまったのだろうという。
そして、たとえ交尾してしまっても、縫った傷口が開いてしまうということは
ないはずだから大丈夫だと言われ、安心した。 なんともビックリな事件だった。


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