ロック(秋田犬・メス・血統書付き)

恐らく、にゃおが物心ついて初めて触れた生き物が、この『ロック』だと思う。
彼女は血統書付きの秋田犬だった。 まだ、にゃおが幼稚園の年中くらいの時に
ペットショップで購入したのだった。

彼女は、他の秋田犬の子犬と一緒に、テーブルに置かれたゲージに入れられていた。
にゃおは小さかったから、ちょうど顔がテーブルの上にのぞくぐらい。
母の指先が一匹の子犬を指し、店員らしき人物の手が伸びて、その子犬をつかんだ。
ツーンとしたシンナーの匂いがして、にゃおの視界から消えた子犬が再びゲージに戻された時、
その子犬の後ろ足の裏がマジックで真っ黒に塗りつぶされていた。 この子が、にゃおの
家にやってくるんだ。 真っ黒い鼻ずらをゲージに押し付けて、にゃおの顔を匂う子犬の瞳は
好奇心に満ち溢れていた。


何日かして、その子犬が、にゃお家にやってきた。 当時のにゃお家は一戸建ての平屋の借家。
子犬だったせいなのか、それは玄関を入ってすぐの廊下の片隅に、寝床を与えられた。
名前は『ロック』。 メスなのになんでだろうと長い間、不思議だったにもかかわらず、その名の
由来について親に尋ねたことはなかった。 大人になって、ふと思い出して聞いた時、
「6月に買ったから、『ロック』よ」と言われて、まんまやんけ〜とツッコんだ記憶がある(笑)

にゃお家は玄関を入ってすぐの廊下の右側がトイレ、左側に4畳半の部屋が二つ。 廊下の
突き当たりが台所と風呂場という間取りだった。 実質的に廊下がロックの場所となったのだが
それ以外の場所へは出入り禁止だったらしく、廊下に通じる障子戸はみんな閉じられていた。
家族が食事やくつろぐために部屋にいると、当然、子犬のロックは人恋しくなる。 ふんふん
鳴いてみても、今の時代のように、大型犬を家の中で飼うような風潮は少なく、やがては
外で暮らすことになるのだからと、決して部屋に入れることはなかった。 それでも、ふんふんと
鼻を鳴らして一生懸命障子の外からアピールするロック。 しばらくすると、その濡れた
鼻ずらで障子が破れてしまい、ロックの真っ黒い鼻先だけが障子の穴からのぞいた
大笑いする家族。 でも部屋の中に入れてもらえることはなかった。 そのうち、ロックも
ある程度知恵がついてきて、『鼻先で穴を開ける』ことを習得し、障子は穴だらけになった。
そして、上の方の穴からは鼻先を出して、ふんふんを匂いをかぎ、下の方の穴からは
黒い瞳で覗き込む・・・という毎日だった。


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