不思議なことに、にゃおは、その家でロックと触れ合った想い出がひとつもない。 母が散歩に連れて行ったに違いないのに、一緒に歩いた記憶もない。 なでて可愛がったり、 エサをやったりしたことすらも覚えてないのはなぜなのだろう。 子犬だけれど、当時4歳か5歳のにゃおから見たら、大きくて恐かったのだろうか? それまで犬や猫といったものに 触れたことがなかったから、近寄りがたかったのだろうか。 母に聞いてみても、 にゃおとロックの当時の関係を思い出せないのだという。 ★ ★ やがて、にゃお一家は、一戸建ての新築の家を購入し、引っ越すことになる。 それまでの借家は木造の古びた家。 新しい家は鉄筋コンクリートで、間取りは3LDK。 2階建てで、なにもかもが近代的で新しく、広い芝生の庭までついていた。 その頃にはロックもかなり体が大きくなっていて、鎖でつながれているだけでは運動量が 絶対的に不足していた。 角地で道路に面する部分だけがブロック塀で囲まれていたので 父がその部分に手を加えて、ロックの運動場を作った。 ほぼ家の半周を自由に動ける ことになる。 ロックは嬉しくて仕方なかったのか、何度も端から端までを走り回った。 朝晩の散歩に加えて、これだけ走り回れるスペースがあれば、とりあえずはストレスも 溜まりにくいだろうと思われた。 ★ この頃から、彼女との想い出が鮮明になってくる。 運動場の端っこで、名前を呼ぶ。 走ってくるロック。 よーい、どん!! の要領で 走り出すマネをすると、ロックは慌てて、家の裏へと走り出す。 そっちへ向かってにゃおが 走って行ったと勘違いするらしい。 そして裏へ行ってもいないとわかると、また戻って来る。 こちらもそれが面白くて、何度もマネをする。 長い舌を出して、よだれをたらしながら 荒い息をして嬉々と走るロックの頭を、囲いの間から手を入れて、叩くようにしてなでた。 大きな体を抱きしめると、プンと独特の犬臭い匂いがして、心地よかった。 ドックン、ドックンと 心臓の脈打つ音がして、生きてるんだな・・・と当たり前のことを思った。 ★ ロックは暑さに弱かったので、玄関のたたき部分に寝そべることを許された。 滅多に入れない家の中。 見たこともない空間が玄関の向こうに広がっている。 まだまだ2歳になるかならないかの、やんちゃざかり。 ここだけよ、はいわかりましたで 済むはずがない。 ロックはいつも家族の目がないと、こっそりと中へ忍び込んでは 居間のテレビの前に寝そべるのだ。 やがて、うつらうつらと眠り始め、最後には 本格的に寝入ってしまう。 こちらは居るはずの犬の姿が見えないものだから、どこへ 行ったのかとキョロキョロする。 どこからか、ガオ〜、グオ〜、ガガガ・・・という音が 聞こえてきて、その音をたどると、その先にはいつも、ヨダレであたりをしみだらけにして 大いびきをかいているロックがいた。 多少の知恵もつくと、今度は家族の気配がすると 急いで玄関に戻って、いかにも、そこでずっと寝ていました・・・というフリをする。 そんなことをしても、テレビの前のカーペットが、ほんわかと暖かく、毛がベッタリと ついているのだから、バレバレなのだ。 家族は、またぁ・・・と言いながらも、 一生懸命、寝たフリをしているロックに免じて、しかることはなかった。 |
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