不思議なことに、にゃおは、その家でロックと触れ合った想い出がひとつもない
母が散歩に連れて行ったに違いないのに、一緒に歩いた記憶もない。 なでて可愛がったり、
エサをやったりしたことすらも覚えてないのはなぜなのだろう。 子犬だけれど、当時4歳か5歳のにゃおから見たら、大きくて恐かったのだろうか? それまで犬や猫といったものに
触れたことがなかったから、近寄りがたかったのだろうか。 母に聞いてみても、
にゃおとロックの当時の関係を思い出せないのだという。


やがて、にゃお一家は、一戸建ての新築の家を購入し、引っ越すことになる。
それまでの借家は木造の古びた家。 新しい家は鉄筋コンクリートで、間取りは3LDK。
2階建てで、なにもかもが近代的で新しく、広い芝生の庭までついていた。 
その頃にはロックもかなり体が大きくなっていて、鎖でつながれているだけでは運動量が
絶対的に不足していた。 角地で道路に面する部分だけがブロック塀で囲まれていたので
父がその部分に手を加えて、ロックの運動場を作った。 ほぼ家の半周を自由に動ける
ことになる。 ロックは嬉しくて仕方なかったのか、何度も端から端までを走り回った。 
朝晩の散歩に加えて、これだけ走り回れるスペースがあれば、とりあえずはストレスも
溜まりにくいだろうと思われた。

この頃から、彼女との想い出が鮮明になってくる。
運動場の端っこで、名前を呼ぶ。 走ってくるロック。 よーい、どん!! の要領で
走り出すマネをすると、ロックは慌てて、家の裏へと走り出す。 そっちへ向かってにゃおが
走って行ったと勘違いするらしい。 そして裏へ行ってもいないとわかると、また戻って来る。
こちらもそれが面白くて、何度もマネをする。 長い舌を出して、よだれをたらしながら
荒い息をして嬉々と走るロックの頭を、囲いの間から手を入れて、叩くようにしてなでた。
大きな体を抱きしめると、プンと独特の犬臭い匂いがして、心地よかった。 ドックン、ドックンと
心臓の脈打つ音がして、生きてるんだな・・・と当たり前のことを思った。

ロックは暑さに弱かったので、玄関のたたき部分に寝そべることを許された。
滅多に入れない家の中。 見たこともない空間が玄関の向こうに広がっている。
まだまだ2歳になるかならないかの、やんちゃざかり。 ここだけよ、はいわかりましたで
済むはずがない。 ロックはいつも家族の目がないと、こっそりと中へ忍び込んでは
居間のテレビの前に寝そべるのだ。 やがて、うつらうつらと眠り始め、最後には
本格的に寝入ってしまう。 こちらは居るはずの犬の姿が見えないものだから、どこへ
行ったのかとキョロキョロする。 どこからか、ガオ〜、グオ〜、ガガガ・・・という音が
聞こえてきて、その音をたどると、その先にはいつも、ヨダレであたりをしみだらけにして
大いびきをかいているロックがいた。 多少の知恵もつくと、今度は家族の気配がすると
急いで玄関に戻って、いかにも、そこでずっと寝ていました・・・というフリをする。
そんなことをしても、テレビの前のカーペットが、ほんわかと暖かく、毛がベッタリと
ついているのだから、バレバレなのだ。 家族は、またぁ・・・と言いながらも、
一生懸命、寝たフリをしているロックに免じて、しかることはなかった。


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