ロックとの想い出で、強烈な印象に残っているものがひとつある。
夏の暑い日、彼女は玄関のたたきに入れてもらって、ひんやりとしたタイルの上で昼寝を
していた。 にゃおはそんなロックをなでなでしてやった。 気持ちよさそうになでられるがままに
していたロック。 そのロックがいきなり、歯を剥き出してにゃおに、うぉん!!
吠えたのだ。 ただならぬ声に母が飛び出してくる。 その時、母の証言によれば、
にゃおはロックの傍らで、身を固まらせて真っ青になっていたそうだ。
「何をしたの?」と問う母に、にゃおは「何もしてない」と答えるのがやっとだった。
何もしないのにロックがそんな風に吠えるわけがない。 にゃおは、ロックをなでているうちに
ふと、その黒くて長くピンピンとしたヒゲに興味が湧いて、引っ張ったのだった。
それもかなり思いっきり。
人間だって髪の毛を一本だけ引っ張られると猛烈に痛い。 ロックも相当痛かったのだろう。
そして、「痛い! なにすんの! やめてよ!」と抗議の意味を含めて吠えたに違いない。
吠えられた瞬間に、その行為がものすごく悪いことだったのだと悟ったにゃおは
母に真実を告げたら、怒られると思い、かたくなに「何もない」と主張したのだ。
もちろん、母はそんなことはお見通しだったのだろうけど(苦笑)



こうして、平和な日々が続くはずだったのだけど、とある事情で父のふるさとである
広島に引っ越さなければならなくなった。 新しい家には1年ちょっとしか
住むことが出来なかった。 その年の7月に生まれたばかりの妹と母と3人で
11月の30日の寝台夜行列車で、その地を離れた。 ロックは父が自動車で運んだ。
 彼女にとっては、それが短く不幸な生活になることなんて思いもよらないで・・・



広島に帰ったにゃおたち一家は、新しい家が建つまでの間、父の長兄の家に
居候させてもらう形になった。 伯父と伯母と2人のイトコにあたる男の子。
弟の方は、にゃおと4歳違いだったせいなのか、突然4人も増えた家族に、
いい顔をしなかった。 ことあるごとにいじめられた。 もっともそれは
今の世の中で言われるような陰湿なものではなかったけれど。

その家には当時、コリー犬が飼われていて、ロックも一緒に居候させてもらうことに
なったが、そのコリー犬とソリが合わず、ケンカばかりした。 つないである鎖を
引きちぎってまで、コリー犬がロックにケンカをしかけた。 そして、その度に
激しく組み合ってケンカする2匹の犬を引き離そうと、弟の方のイトコが
野球のバットでロックを殴った。 何度も何度も殴った。 けっしてコリー犬の方は
殴ることはしなかった。 それを見て、心の中でやめてと叫んでも口に
することは出来なかった。 ただ、ただ、早くケンカが収まってくれることを祈った。


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