ロックとの想い出で、強烈な印象に残っているものがひとつある。 夏の暑い日、彼女は玄関のたたきに入れてもらって、ひんやりとしたタイルの上で昼寝を していた。 にゃおはそんなロックをなでなでしてやった。 気持ちよさそうになでられるがままに していたロック。 そのロックがいきなり、歯を剥き出してにゃおに、うぉん!!と 吠えたのだ。 ただならぬ声に母が飛び出してくる。 その時、母の証言によれば、 にゃおはロックの傍らで、身を固まらせて真っ青になっていたそうだ。 「何をしたの?」と問う母に、にゃおは「何もしてない」と答えるのがやっとだった。 何もしないのにロックがそんな風に吠えるわけがない。 にゃおは、ロックをなでているうちに ふと、その黒くて長くピンピンとしたヒゲに興味が湧いて、引っ張ったのだった。 それもかなり思いっきり。 人間だって髪の毛を一本だけ引っ張られると猛烈に痛い。 ロックも相当痛かったのだろう。 そして、「痛い! なにすんの! やめてよ!」と抗議の意味を含めて吠えたに違いない。 吠えられた瞬間に、その行為がものすごく悪いことだったのだと悟ったにゃおは 母に真実を告げたら、怒られると思い、かたくなに「何もない」と主張したのだ。 もちろん、母はそんなことはお見通しだったのだろうけど(苦笑) ★ ★ ★ こうして、平和な日々が続くはずだったのだけど、とある事情で父のふるさとである 広島に引っ越さなければならなくなった。 新しい家には1年ちょっとしか 住むことが出来なかった。 その年の7月に生まれたばかりの妹と母と3人で 11月の30日の寝台夜行列車で、その地を離れた。 ロックは父が自動車で運んだ。 彼女にとっては、それが短く不幸な生活になることなんて思いもよらないで・・・ ★ ★ ★ 広島に帰ったにゃおたち一家は、新しい家が建つまでの間、父の長兄の家に 居候させてもらう形になった。 伯父と伯母と2人のイトコにあたる男の子。 弟の方は、にゃおと4歳違いだったせいなのか、突然4人も増えた家族に、 いい顔をしなかった。 ことあるごとにいじめられた。 もっともそれは 今の世の中で言われるような陰湿なものではなかったけれど。 ★ その家には当時、コリー犬が飼われていて、ロックも一緒に居候させてもらうことに なったが、そのコリー犬とソリが合わず、ケンカばかりした。 つないである鎖を 引きちぎってまで、コリー犬がロックにケンカをしかけた。 そして、その度に 激しく組み合ってケンカする2匹の犬を引き離そうと、弟の方のイトコが 野球のバットでロックを殴った。 何度も何度も殴った。 けっしてコリー犬の方は 殴ることはしなかった。 それを見て、心の中でやめてと叫んでも口に することは出来なかった。 ただ、ただ、早くケンカが収まってくれることを祈った。 |
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