それでもミシンを買いました 11  熟考

     にゃおは、自分と兄ちゃんとのやりとりの一部始終を思い出してみた。
     前出の「ミシンの迷信」の中の『実録!ミシン訪問販売(以下勝手に『実録』と省略)』という
     コーナーでは、訪問してきた業者の人は2人組みだったという。 にゃおの場合は1人だった。
     しかも兄ちゃんは営業ではなくサービス部の技術主任だという。 確かにもらった名刺にも、
     その旨のことが書いてあった。 『実録』の中では訪問してきた業者がロクに名刺も持って
     なかったらしい。

     さらに、『実録』などから、たいていの「おとり広告販売」では、チラシに掲載された安物ミシンを
     注文した客に向かって、説明と称しながら悪口を並べ立てたり、けなしたりして買う気を削ぐ
     ということをするらしい。 この点に限って言えば、兄ちゃんは、にゃおが最初に注文したミシン
     について、一言も自分からけなすようなことを言ったりはしなかった。 にゃおが扱いにくいと
     言ったことから、高級ミシンに話が及んだのだけど、その時でも兄ちゃんは積極的に
     安物ミシンの欠点や悪口をあげつらっていない。 あくまでも、にゃおが聞いたことに対して
     答えていたように思う。 

     次に、にゃおは保証書を引っ張りだして、しげしげと眺めてみた。 
     保証書の中には保証に3段階のランクがあることが記してある。 その業者から買った、いわゆる
     高級ミシンの部類は永久無料保証になっている。 その次は、その業者から買ったものだけど
     永久保証対象商品外のもの。 これは1年間の無料保証だ。 最後はポータブルのものや、
     他店で買った製品の場合。 これは3ヶ月の保障期間になっていた。 出張費も最寄の店から
     20キロ以内は1000円、20キロ以上は2000円を申し受けるとあるけれど、兄ちゃんは
     目の前で、そこに線を引いて0円であると記した。 もちろん、部品交換などの場合は実費が
     要るとの旨も書いてある。 保証書だけに関して言えば、それほど問題ないような気がした。

     今度はチラシを眺めてみた。 「ミシンの迷信」の別のコーナーの中に『ミシンを語る』という
     コーナーがあって、この中の「新聞折り込み広告の読み方」というページで、よく修理費は
     無料とあるけれど、それは現実には調整費であって、部品交換などには実費がかかる。
     そして、こういう大事なことほど、ちっちゃな字で片隅に書いてあることが多くて、見逃しやすいと
     いうことが書いてあった。 そのチラシは確かにその通りだったけど、これは注文の電話を
     かける前に、ちゃんと読んだ部分だ。 この業者は全国ネットのミシン専門店とある。 北は
     北海道から南は沖縄までネットワークがあるという。 兄ちゃんに聞いてみた時に、本社は
     福岡で創業70年くらい。 広島の販売店に限れば、20年くらいの営業実績だという。
     この営業年数を信じるとすれば、そこそこの老舗ということになるのだろうか。 実際にネットで
     調べてみたら、その業者のHPが存在しないのか、検索ではヒットできなかったけど、
     福岡での広告チラシを見つけることができた。 にゃお県以外でも同じ業者が営業をしているのは
     間違いないようだ。

     『実録』の管理人は、不安があるなら実際にその会社を訪れてみるといいとアドバイスしている。
     (架空の住所を騙ったり、会社とは名ばかりのような形態のものだったりする可能性が
     あるのだそうだ)  だけど、よっぽどの執念がある人でないと、実際に訪れてみるなんて事は
     しないだろう。 そんな人はチラシや家までやってきた業者を見て自分で判断するしかないのだ。

     あの時、にゃおなりに、いろんなことを考えた。 いきなり1万程度のミシンから22万もの
     ミシンに話が及ぶのはおかしい。 その間にランクがいくつかあって、その段階の中でも
     十分なミシンは買えるはずだよ・・・ そう教えてくれた人もいた。 それはそうに違いない。
     ネットで検索して、そのこともわかっている。 だけど、今、にゃおが住んでる範囲で
     手に入るミシンが要るのだ。 どんなに数万円で、にゃおが買ったミシンに匹敵するほどの
     機能を備えたミシンを私は買ったと主張されても、それが東京の方や大阪の店では
     意味がない。 

     ここまでのことで、確かに、にゃおは「おとり広告販売」にひっかかったのかもしれないけど
     その業者が必ずしも悪徳であるという感じがしなかった。
     「そこが甘いっていうのよ!! 馬鹿ね!」
     「まだ、わからないの? よっぽどのお人よしね!」
     そんな声が聞こえてきそうだ。 そうかもしれない。 そうかもしれないけど・・・
     自分の中では、まだ半々という気持ちがかなりの部分を占めていた。

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