それでもミシンを買いました 12  検証

     それから2日くらい経った日のこと、夕食が済んで、くつろいでいる時に、主人が出し抜けに
     ミシンのことを聞いてきた。

     「ミシン、買ったん?」
     「ううん、見せてもらったやつってね・・・」
     にゃおは、1万円足らずのミシンが、おもちゃのようにちゃちくて、扱いづらい商品だったと
     いうことを告げた。
     「じゃろ? わしもそう思うたよ。 やっぱり4〜5万出さんとダメじゃろう」
     まだミシンをクーリングオフしようかどうしようかと悩んでいたにゃおは、とりあえず、その日は
     ミシンを持って帰ってもらったと嘘をついた。 2階にデンと「それ」はあるのだけど・・・

     ヤバイな・・・ 主人はそのくらいの値段で十分なミシンが買えると思ってるようだ。 たとえ買った
     ことをきちんと告げたとしても、本当の値段は口が裂けても言えないや。

     さらに翌日の朝、朝刊を受け取り、中の広告チラシに目を通していたにゃおは、一枚のチラシに
     目を奪われた。 それは、とあるミシン取り扱い業者のミシン広告だった。 名前は聞いたことがない。
     今まで興味がなかったから、気にならなかっただけかもしれないが。
     そこには、先のにゃお家に来た業者が出していたような1万円未満の品物は載っていなかった。
     最低でも数万円のミシンがいくつか並んでいた。 店は、にゃおの家から、そんなに遠くない。
     営業実績も40年くらいだと謳っている。 さらには、「安いミシンで消費者の気を引いて
     高額のミシンを売りつけるおとり販売に気をつけましょう。 ミシンは信頼できる当店で」なんて
     書いてある。 にゃおのことを言ってるの? そんなことを書いてるあんたの店はどうなの?
     だけど、チラシには確かに10万円前後で自動糸調節機能のついたミシンが出ている。
     やっぱり? やっぱり?

     にゃおの中にクーリングオフをしようという気持ちが大きくなってきた。 だけど、どうやって
     その理由をつけようか? のちに見た「ミシンの迷信」の中で、どこか不具合品であるなどの
     ちゃんとした理由がなくてもクーリングオフは受け付けてもらえなければおかしい・・・という
     内容の管理人さんの書き込みがあったけれど、実際には、なにかしらの理由がないと
     連絡しにくい。

     だったら、試し縫いしてみよう。
     あの時、兄ちゃんは、にゃおの目の前でミシンを操作して見せてくれた。 あれはただの直線縫い。
     他の縫い方も試してみて、何かおかしいとか、どうも扱いづらいなんて理由をつけたら連絡が
     しやすいかもしれない。 そうだ。 同じ返品するとしても、使ってからにしてやろう。
     ちょっと、卑しい根性も手伝って、にゃおは、とうとうミシンを開けることにした。 
     試し縫いの時に使った黒糸がそのままかかっていたので、にゃおは前から、やろうと思いつつ
     投げてあったスカートの裾上げをしてみることにした。 スカートは黒地なので、ちょうどこのまま
     糸が使える。

     説明書にもう一度目を通す。 ジグザグ縫いにも数種類あるようなので、スカートの布質に
     あったものを選んでみた。 裾上げの位置をチャコで印をつけてから切り落とす。 そして
     「かがり縫い」という切り口がほつれず、伸縮性のあるジグザグ縫いをセットする。「押さえ」と
     呼ばれる板を取り替えなければならなかったが、簡単に付け替えることが出来た。 切り落とした
     布で試し縫いをしてみる。 糸はツレず、綺麗に縫えた。 縫い幅などを調節するのに少し
     手間取ったものの、いざ、縫ってみると、とても楽に縫える。 あっという間にぐるりと裾かがりが
     終わって、今度は折りあげて端ミシンをかける。 この時、伸縮性のある布地だから
     くるくると折れ込んでしまうかと思ったが、かがり縫いのせいなのか、まくれることもなくて
     楽だった。 布をはぎ合わせて分厚くなった部分も難なく縫っていく。 いいじゃない・・・

     1時間もしないうちにスカートは綺麗に裾上げが終わった。 これが手縫いだったら、
     切り落として、アイロンで三つ折りにして、マチ針でしつけてから、まつり縫いをする。 
     それは、とてもじゃないけど1時間やそこらじゃ終わらないし、こっちも疲れてしまう。

     どうしよう・・・ 何か調子が悪かったり、扱いづらかったら難癖をつけて返品しようかと思ったのに
     使ってみて、ますます気に入ってしまった感じ。

     クーリングオフ期限まで、あと3日と迫っていた。

            目次へ     次へ     HOME