それでもミシンを買いました 4  来訪

     約束したのは、お昼から3時までの間。 
     午前中は買い物に行き、帰ってからしばらくした12時過ぎに電話が鳴った。

     「これから伺いたいんですけど、よろしいですか?」
     中年っぽい男性の声。 これから? まだお昼を過ぎたばっかりだ。 にゃおはちょうどお昼を
     食べかけてたところだったのに・・・

     「どれくらいで来れますか?」
     「だいたい20分ぐらいですね」
     それなら、一応お昼ご飯が終われるかな? でも、簡単な準備も要るから、あとで食べよう。
     にゃおは、簡単な家の位置を述べて(にゃお家は初めての人にはちょっとわかりづらい場所に
     ある)電話を切った。

     それから約20分後、約束通り、玄関のチャイムが鳴った。
     そこに現れたのは確かに電話の主だったけど、思った以上に若い兄ちゃんであった。
     あらかじめ、用意してあった部屋に通す。 早速、兄ちゃんは注文したミシンを出して説明を
     始めた。 ミシンを見るのなんか15年ぶりくらいかもしれない。
     一番初めに教えてもらうことになったのは、糸の調節方法だった。 安いミシンは当然ながら
     糸調節機能なんてついてない。 自分でいちいち下カマのネジを緩めたり締めたりして調節するのだ。
     「ここのネジを外してもらって・・・」
     兄ちゃんはネジ回しでミシンの鉄板ネジを外し、それから鉄板を取り除いた。 次にボビンを
     取り出すと、カマと呼ばれる物体を取り外して見せた。 にゃおは昔の型のミシンしか見たことが
     ないから、その構造は驚きの連続だった。 昔のボビンケースと呼ばれる金属の物体は存在しない。
     カマと呼ばれる昔ならボビンケースを入れていた部分が、すでにボビンケースを兼ねている。
     しかも横から入れていたものが今はほとんどが水平カマになっていて、その中にボビンを入れれば
     いいだけだ。 おまけに、そのカマ本体も簡単に取り外せる。 このカマの横に小さなネジがついて
     いて、これを回して調節するのだという。 
     まずは元に戻してみてくださいと言われて、おそるおそるはめてみる。 じっと見られているって
     のは緊張するものだ。 時々、あ、そこ違います・・・なんて言われると、余計に緊張してしまう。

     今度はあらかじめ、用意しておいてくれと言われた布きれで試し縫いをすることになった。
     上糸の通し方を習って、早速縫ってみる。 手元のスイッチひとつで動くとは楽だなぁ。
     でも、すぐに針がガタガタと不調を訴えた。 糸の調子が合っていないために、「ツレた」のだ。
     下糸が強すぎるらしい。 それじゃ、自分で調節してみてくださいと言われて、さっきと同じように
     ネジ回しでネジを外して鉄板を外して、ボビンを取り出してカマを外して、ネジで調節。 
     あれ? どっちに回せば緩むんだっけ? 
     どういうわけか、にゃおはネジに弱い。 どっちに回したら緩んで、どっちが締まるのかわからなく
     なってしまうのだ。 水道なんかも一緒。 普段、何気なく普段やってるけど、いざ緩める、締めるを
     意識すると、とたんにどっちがどうだか混乱してしまう。

     「あ、それ反対です。 そっちだと締まりますから」
     あちゃ〜 やったよ(~_~;)   顔から火が出る思いで、緩めると、また元に戻す。
     そして試し縫い。 また不調を訴える。 まだ下糸が強いみたいだ。 1ミリくらい緩めて
     みましょうと言われて、にゃおは、またネジを外し始めた。

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