それでもミシンを買いました 9  疑惑

     兄ちゃんが帰った後、にゃおは急にお腹が空いていたことを思い出して、遅い昼食の
     続きを食べた。

     へへへ・・・ 買っちゃったもんね、ミシン。 買っちゃったんだもんねぇ♪

     兄ちゃんのアヤシゲな言動にはびっくらこいたけど、にゃおは残された高級ミシンににやけた。

     ところが同時に、妙な疑問が湧いてきた。 このミシン、定価っていくらなんだろう?
     そこで、にゃおはネット検索で、ジャノメ製品を扱ってるサイトを探した。 いくつかの候補が
     出て、その中でジャノメの会社のHPというのをクリックしてみることにした。 
     中には企業説明などのほかに、当社で扱っている製品というコーナーがあった。 そこで
     自分が買ったミシンを調べたら定価がいくらなのか、にゃおが買った値段は妥当だったのかが
     わかるだろう。 
     クリックしたページに写真つきでミシンが紹介されている。 簡単な機能説明や定価が書いてあった。
     ざっと見たけど、その中には、にゃおが買った製品は載ってなかった。 次々といろんな型が出るから
     全部を全部載せるわけにもいかないのだろう。 にゃおは、そのページにある製品を眺めてみた。

     『自動糸調節機能つき・11種類の実用縫いが出来ます。 価格:29800円』
     ん?(-_-;)
     『自動糸調節つき・水平がまで調節は一切不要。 14種類の実用縫い。 価格:48000円』
     あ?( ̄_ ̄♭)

     だんだん、にゃおの指先が冷たくなって、かすかに震えているような気がした。
     そこに載っているものは、みんな数万円の低価格ながらダイヤル式で糸調節するつまみがある。
     自動糸調節機能がついたものは、そのページに限れば7万円台からあるという。 
     うそ・・・ うそよね? きっと、にゃおの顔は青ざめていたに違いない。 

     にゃおはさらに「シンガー」や「ブラザー」などのミシン製品を販売しているページを検索して
     訪れた。 だけど、結果は大体同じだった。 数万円のミシンにはすべてダイヤル式の糸調節
     機能がついていて、10万円前後から自動糸調節機能がついているミシンが登場する。
     にゃおが買ったミシンとほぼ同じ機能を持ったミシンは、さすがに値段が張るものだったけど
     それでも17万円台のものがあった。 

もしかして・・・
にゃおは・・・
とんでもない失敗をしたのではないだろうか・・・?

     唇が乾いた。 
     ドキドキと心臓の音が大きく聞こえた。
     さらに、ミシンの検索項目で、あるひとつのHPがにゃおの目に止まった。 
     「ミシンの迷信」というサイトだ。 そこへ飛んでみる。 そこにはHPの管理人の奥さんが
     ミシンを買いたいということから広告で見た激安ミシンを購入しようとした顛末が事細かに
     書いてあった。 その人の場合はミシン業者側が妙にうさんくさくて、結局は買わなかったらしい。
     にゃおと展開が似てる。 似すぎてる!!  にゃおはふと、思い出した。

     あの時、なぜ、兄ちゃんは高価なこのミシンを車に積んでいたのか?

     来週、あるお宅に届ける予定のミシンだと言った。 なぜ来週届ければよいものが車に
     積んであったんだろう? もしかして、始めから、こうなる展開を読んで持ってきていたのでは
     ないだろうか?  いやいや、兄ちゃんは、そのお宅のミシン代支払いの細かな内容のメモを
     持っていたではないか。  だけど、もしも、それすら用意周到に計画された偽装メモだったら?
     兄ちゃんは、まんまと、その手に乗って、高いミシンを買ったにゃおのことをあざ笑っている
     かもしれない。 なんてチョロイ仕事だったことかと、店に帰って仲間と笑っているかもしれない。
     あの不可解な言葉も、こっちをビビらせて、二度とかかわりを持ちたくないと思わせるための
     ものだったのか?  疑えばキリがない。 なにもかもが仕組まれた罠のように思えてしまう。

     ああ、待って。 落ち着いて。 落ち着かなきゃ。 いざって時はクーリングオフ制度もあるんだし。
     にゃおは、異常な速さで鳴り続ける胸を押さえるようにして、ミシンのアドバイスをしてくれた
     人のHPに駆け込んだ。

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