2002年 師走の乱 1

     ことの発端は洗面所の水道の水が止まらなくなったことだった・・・

     にゃおんちの洗面所はお湯と水と2つの蛇口がついた『混合水栓』と呼ばれるものだった。
     その水側の蛇口が以前からしっかり止まりにくくなっていた。 普通に栓を締めただけだと
     ポチ・・・ポチ・・・と水が落ちるのだ。 少しギュッと強めに締めれば止まっていたけど、5歳の
     子供が蛇口に触れるためには少し背伸びをしなくてはならず、なかなか上手に止めることが
     出来ない。 子供が使ったあとは決まって水がポタポタと落ちた。 にゃお家の水は井戸水を
     電動ポンプでくみ上げているので、水が落ちるとモーターが始動する。 普通に使っているなら
     モーターは回りっぱなしだけど、ポタポタ程度だと、2〜3分間ごとにモーターがちょっこと
     回るというような状態になる。 こんな風に、ひんぱんにモーターが回るとヘタをしたら機械が
     焼き切れてしまってポンプが使えなくなってしまう。 ポンプを取り替えるとなると10万円以上の
     出費になるので、子供が使ったあとは必ず、洗面所の水をチェックして締めなおすということを
     繰り返していた。

     11月頃になると、それまで少し強めに締めておけば止まっていた水が、さらに止まりにくくなった。
     もう少し強めに締めれば止まったけど、水栓がねじ切れてしまうのではないかという不安が
     常に付きまとうようになった。 子供が使ったあとは水がポタポタどころか、チョロチョロと
     流れるようになり、うっかりチェックを忘れると、モーターがいつまでも回る始末だった。

     これはいけないと、主人と蛇口を取り替える話していた。 主人は普通の水道なら
     なんなく自分で取り替えることができる人だけど、洗面所の蛇口は取替えの経験がなく
     どういう仕組みになっているのかわからない。 中に使ってあるパッキンなどの小部品を
     取り替えなくてはならない場合などは厄介だ。 これはちゃんと水道屋さんに頼まなくては
     ならないだろうというのが主人の意見だった。


     12月。 そろそろ年末ということで、ホームセンターなどの折込チラシには、軒並み、年末の
     大掃除用品などのセールが載るようになった。 その日、近所のホームセンターのチラシを
     眺めていたにゃおは台所の換気扇の売り出し商品に目を留めた。

     にゃお:「ああ、これ、いいなぁ」

     にゃおの独り言に主人が「どれ?」とチラシを覗き込む。
     にゃお家の換気扇は家を建てた時につけたものだから、かれこれ18年選手だ。
     機能そのものは何の問題もなく使えるのだけど、羽根の回りに取り付けるプラスチック製の
     フードが壊れて、きちんとはめ込めなくなっていた。 上側が浮いたようになっていて
     ちょっとしたはすみでフードが落っこちてくる。 料理中などは危なくて、できたら取り替えたいなと
     思っていたのだけど、換気扇を買い換えるということが、どれくらいの費用を必要とするのか
     見当がつかず、しかもフードだけの問題だったために、思うだけになっていた。

     チラシに載っている商品は有名メーカーのもので、5980円。 しかも羽根に直接、油煙が
     つかないようにフィルター付きのものだった。 想像してたよりもはるかに安い値段だ。

     主人:「ふーん・・・ 安いじゃ(安いじゃないか)。 買えばいいよ」

     主人はあっさりとO,Kを出した。 え? ホント? いや〜ん、嬉ちぃ〜♪(*^-^*)
     すると、主人は別の所を指差した。

     主人:「どうせ(洗面所の)水道も取り替えんといけんじゃろ?  それでならついでに、
          これも、つけようや(つけようよ)」

     指差した先は『ウォシュレット』だった。
     にゃお家のトイレには便座暖房しかついていない。
     前々から主人、ウォシュレットがあったらいいなって言ってたっけ。
     見ると、チラシには3種類のウォシュレットが載っていて、一番安いものは4万円弱。 一番
     高いもので7万弱。 しかも12月23日までなら工事費8000円が無料になるという。

     主人:「もうさ、まとまったボーナスをもらえるのも最後かもしれんから・・・」

     そう、主人はわけあって、翌年早々に今の職場を退職することになっていた。
     この時期はまだ再就職先も決まっておらず、収入の当てがない。 当面の生活には困らないように
     準備はしてあるけど、こんな贅沢をすることは、もう出来なくなるかもしれない。

     にゃお:「うん、そうだね。 思い切ってやってもらおうか」

     2人の話はまとまった。

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