花いちもんめ

     ♪ かって うれしい はないちもんめ
        まけて くやしい はないちもんめ
        あのこが ほしい
        あのこじゃ わからん
        このこが ほしい
        このこじゃ わからん
        そうだんしましょ そうしましょ ♪
  (地域によって多少、歌詞に違いがあるようです)

     誰もが遊んだことがあるか、遊んだことはなくても知ってるはずの『花いちもんめ』。
     2チームに分かれて、この唄を歌いながら、相手チームから一人を指名する。
     指名された人はジャンケンをしたり、ひっぱりっこをしたりして(これも地域で違うらしい)
     勝ち負けを決め、負けると相手チームの一員になる。 最終的に1人になったチームの負け。

     こんな遊び、誰が考えたんだか・・・
     誰か一人を指名するなんてさ。 どうしたって心理的に『要らない子』は指名されにくくなる。
     そうして最後まで指名されなかった人の気持ちを考えたことあるのかな。


     小学校1年生の冬、にゃおはわけあって、埼玉県から父の郷里である広島県に引っ越してきた。
     (この辺の詳しいことは 帰郷 をご覧ください。 リンクで飛べます)
     引っ越して何日も経たないうちに地元の小学校へ編入した。
     誰一人、知る人のない場所。 父親に連れられて学校に着くと、職員室の前に
     たくさんの子供が群がっていた。 1年生の子たち。 にゃおの同級生となる子たちが、
     やってくる転校生を見ようと集まっていたのだった。 もう職員室にいるのかと思った
     転校生が背後から現れたことに対する驚きと好奇の目。 彼らの視線が痛かった。

     1時間目の授業は算数だった。
     先生に紹介されたあと、始まった算数の勉強は『数の数え方』。 今じゃ信じられないかも
     しれないけど、その頃は小学校に上がって初めて、100までの数の数え方を習うのだった。
     転校した経験のある人はわかるだろうけど、早くクラスに馴染んで欲しい、緊張を少しでも
     ほぐして欲しいという思いからか、先生の指名が妙に多くなる。 この時も、にゃおに
     91から100までを数える役が当てられた。 

     やめてよ。 なんで誰も知らない人たちの前で発表しなくちゃいけないの?
     にゃおはじっと息を潜めて化石でいたいのに。
     それに91から100までって、その頃の自分には、ちょうど、まだ覚えきってない部分。
     わざわざ恥をかかせなくてもいいじゃないのぉ。


     みんなが見てる。 自分を見てる。 
     顔が赤くなる。 きっと耳まで赤い。

     なんとか100までを数えると、意外にも、クラスのみんなからは「すごい」という声が漏れた。
     こんなの、すごくもなんともない。 きっと転校生だからってヨイショしてるんだ。
     7歳の子供のくせに、妙に冷めた自分がいたっけ。

     休み時間になると、これまたお決まりのように、クラスのみんなが回りに集まってきて
     あれこれと尋ねてくる。 

     ドコカラキタノ? 
     イマドコニスンデルノ?
     マエノガッコウデハドンナコトヲシテタノ?

     自分がなんて答えたのか覚えていない。
     何か言ったのかもしれないし、押し黙ってたのかもしれない。

     次の休み時間になると、誰かが、「『花いちもんめ』をやろう」と誘ってくれた。
     古い木製の講堂に唄が響く。

     ♪ かって うれしい はないちもんめ・・・ ♪

     そして、相手チームから1人指名する時には、必ず、にゃおが指名された。
     何度やっても指名された。

     あれは幼い子供ながら転校生に気をつかってくれたんだろうな。
     もしも、自分が逆の立場だったら、あんな風に転校生を気づかって遊んであげられただろうか。
     もうすぐ、小学生になる、にゃおの子が、そんな風に転校生を気づかってやれるだろうか。

     当時、田舎だったせいもあるのか、子供たちはみな、『仲良し』が決まっていた
     それは主に、自分たちが住んでいる地域でのグループだった。 学校でも家に帰ってからも
     一緒に遊ぶから、その子たちのグループ意識は強く、結束も固かった。 別のグループと
     反目することも多かったようだ。
     にゃおが住む地域には同級生がたった一人しかいなかった。 先生は、その子に、にゃおを託した。 
     彼女は嫌がることもなく、にゃおと手をつないで家までの5キロ近い道のりを歩いてくれた。
     (にゃおの家は彼女の家からさらに1キロ近く遠かったけどね)
     幼馴染のような彼女とは、中学校、高校も一緒に通い、オバサンになった今でも仲がいい友達だ。

     小学校の6年間で、にゃおには彼女以外の友達と呼べる人ができなかった。
     どこのグループにも入れなかった。 班を組む時など、いつも最後まで残った。
     皮肉なことに、たった2クラスしかないのに、3年生からずっと、唯一の友達とはクラスが分かれた。
     いつもどこか浮いている感じだった。 だから、転校直後の『花いちもんめ』以来、
     その遊びに加わったことはない。 自分が最後まで指名されなくて残ることがわかっていたから。
     あの時、みんなが指名してくれたのは、転校生を気づかってのことだけだから。
     (みんなでわいわい遊ぶものには加わったけどね)

     2003年11月現在、子供の通う保育所で『花いちもんめ』が流行っている。
     だけど、子供は一緒になって『花いちもんめ』をしようとはしないようだ。
     もしかして、にゃおと同じような気持ちを抱いてるのかな?
     だとしたら、それって、とっても切ない・・・

                        目次へ     HOME