お静かに!!

     にゃおの実家にはビデオデッキがなかった。 にゃおが大人になって自分のお金でテレビと
     ビデオデッキを買うまで、見たい番組を録画するってことは出来なかった。
     どうしても見たい番組は、それが深夜の時間帯であっても起きて見るしかなかった。
     でも、それじゃ、『見ること』は出来るけど『記録すること』はできないんだよね。

     にゃおが子供の頃、『宇宙戦艦ヤマト』というアニメにハマった。
     特に佐々木功の歌う、オープニング曲が大好きだった。 その唄を何度でも聞きたかった。
     そこで、登場するのが、先の「睡眠学習枕」にも登場した小型のカセットテープレコーダーなのだ。
     ちょっと良いテープレコーダーなら、テレビとテープレコーダーを直接、コードでつなぐジャックが
     ついてるけど、にゃおの持っているやつには、そんなシャレたものなんてついてない。
     んじゃあ、どうするかっていうと、テレビのスピーカー部分にテープレコーダーを押し当てて
     録音ボタンを押すのだ。 なんちゅう、アナログ!! でも、こうするしか方法がなかったんだよね。

     問題なのは、この方法で録音すると周りの雑音も拾ってしまうってこと。
     うっかり誰かがしゃべろうものなら、その声が入っちゃう。 だから、録音する前には、
     しつこいくらいに、みんなに黙ってるように指示する。 

     しゃべったらダメだよ、音を立ててもダメ。 いいって言うまで動かないで!!

     ところがね、人間ってやつはダメって言われると、やりたくなっちゃう生き物らしい。
     にゃおが、お願いだからって言ってるのに、つい、咳をしたり、ちょっと動いてイスがキィなんて
     鳴ったりするんだよ。 ああ、もう、動かないでって言ってるのにさぁ!!  どうして、ほんの
     1〜2分、じっとしていられないかな(恕)

     それに、みんなが協力して、じっとしてくれてて、いいぞぉ♪なんて思ってると、電話が鳴ったり
     外の道路を通るトラックがファン!!なんてクラクションを鳴らしたりするんだよね。
     アンタたち、にゃおに何か恨みでもあるっての? チャンスを逃したら1週間待たないと
     いけないんだぞぉ凸(ーーメ

     こうして涙ぐましい努力の結果、やっと録音した音楽は、ザーザーとノイズが入りまくりだったけど
     嬉しくて嬉しくて、何度も聞いたもんだ。 

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     短大の頃、NHKの番組で、にゃおの大好きな『オフコース』の特番があった。 『オフコース』は
     どんなテレビ番組にも出ないってことで有名で、にゃおは動いている彼らを見たことがなかった。
     それなのに、特番があるなんて!! 唄もあるし、小田さんのインタビューもあるなんて!!
     ああ、録画したいけど機械がない。 だったらせめて音声だけでも!!
     またも、にゃおはテープレコーダーを使って『直録(直接テレビの音を撮る)』をすることにした。
     番組は夜の9時とか9時半とかだったような気がする。 当時、店をしていた母は仕事の
     疲れで、だいたい9時に寝室に入ることが多かった。 だから、その日は寝室に入ったら
     絶対出てこないように頼み込んだ。 だって、テレビのある部屋の隣が寝室で、トイレにでも
     起きて来られたらアウトだもん。

     でも、問題がひとつあった。 そのテレビから音を拾うためには、スピーカーの位置に
     テープレコーダーをくっつけておかないといけないんだけど(出来るだけ雑音を拾わないため)
     スピーカーの位置の関係で、テープレコーダーを自分で持っておかないといけないのだ。
     音楽の1曲、2曲なら持ってても問題ないけど、特番の時間は確か、45分くらいはあった。
     その間中、ずっと手でテレビのスピーカーにテープレコーダーをあてがっておかないといけない。
     テレビはちょっとした棚の上に置いてあったから、スピーカーの高さまで何かを積んで
     テープレコーダーを置くっていうことも難しい。 どう考えても自分で持ってなくちゃいけないのだ。
     とすると、にゃおも、その番組の途中、一切、音を立てることができないばかりか、
     テープレコーダーを持ったまま、テレビの前に立っていないといけないのだ。
     ぬぉぉぉ〜〜〜 そんなこと出来るのかな? トイレに行きたくなったら? クシャミが出そうに
     なったら? 足がだるくなりそうだよ。 でも、やるしかないんだ!!

     放送日に合わせて、にゃおは新品のカセットテープを買い、テープレコーダーの録音ヘッドを
     何度もクリーナーで掃除したり、磁気を取り除いて雑音を少なくするっていう機械を使ったりして
     準備を整えた。 当日は朝から水分を控えて途中でトイレに行きたくならないようにした。
     こうして、とうとう番組が始まり、にゃおは動いて話している小田さんに静かに興奮しながら
     じっと、息を殺してテレビのスピーカーにテープレコーダーを押し当てたのだった(笑)

     今、思うと、すんごい、くだらないようなことだけど、あの時は熱かったもんねぇ。
     命賭けてますってくらいだったもんねぇ。 自由が利くのなら追っかけしたかったもん。

     あのテープ、永久保存版としてあるはずだけど、どこへやったかな?
     まだ実家にあるはず。 その後、何度か番組も再放送されたけど、その間に、にゃおが
     ビデオデッキや、コードで直接つなぐタイプのジャック付きテープレコーダーを手に入れる
     ことができなかった。 今でも、あの番組はプレミアもので、ファンクラブ会報誌などでは
     度々「録画した方はいませんか? ダビングさせてください」という記事が出たりする。

     今は、ビデオデッキがあって、いつでも録画することができて、雑音も何の苦労もなく
     スイッチポンで映像と一緒に音声が保存できる。
     でもさ、でもさ・・・

     今度は、肝心の番組が、地方のにゃお局じゃ放送しなかったりするんだよね。 あう(ノд-。)

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