未知との遭遇

     短大生の頃、サークルに入っていた関係もあって、「コンパ」というものに何度か出席したことがある。
     今では「合コン」と言って、男女の出会いの場的なものになっているけど、その当時は単に
     みんなで集まって飲んで騒ぐというような意味だったように思う。当時、コンパの場所と言えば
     ディスコに決まっていた。 これもイマドキの言葉で言えば「クラブ」(最後を上げ調子に読むのが
     ミソらしい)になるのだろうか。 ジュリアナブームの頃のような、お立ち台もなく、ただフロアが
     あるだけというシンプルなディスコが多かった。

     にゃおの短大が主催するイベントの打ち上げをするということで、初めて先輩に連れられて
     ディスコへ行った時のことだ。
     にゃおは田舎に住んでいたので、バスの最終便も早く、ディスコなんちゅう、夜遊びに参加することは
     不可能だった。 だからほとんど誘いを断っていたのだけど、友人のSのお姉さんのアパートが
     市内中心部にあり、そこへ泊めてもらえるというので初体験をすることになったのだった。
     (この辺の事情は「桃色ナイト」を参照ください)

     映画館が入っている大きなビルの6階にそれはあった。 入り口を開けると同時に激しい音楽が
     耳をつんざいて、とたんに人の声が聞き取れなくなる。 口元に耳をくっつけるようにしなければ
     何を言ってるのかわからない。 席につくと先輩陣は慣れた様子で、ウェイターにあれこれ
     注文する。 1年生のにゃおたちは先輩に言われるまま、初めての体験に緊張して座っていた。

     イベントの成功をねぎらう乾杯が済むと、先輩たちは好き勝手にフロアへ出て踊ったり
     お酒をあおった。 普段、見かけたこともないのにタバコをふかす先輩もいて驚いたものだ。
     そうこうしているうちに緊張もほぐれてきて、踊ってみようか・・・と1年坊主もフロアへ恐る々足を
     踏み入れる。

     しばらくして、にゃおはトイレに行きたくなった。 先輩に場所を聞いて、ほとんど暗闇の中を
     歩いて行く。 トイレの中はけたたましい音楽もあまり聞こえなくて、心底ほっとした。
     さて、用を足そうとトイレの中をのぞいたにゃおは、そのまま固まった。
     そこには洋式トイレがあった。
     もちろん、洋式トイレは知っている。 が、にゃお家は田舎。 その当時、家庭に洋式トイレが
     ある家もまばらだったし、短大のトイレすらすべてが和式だった時代。 当然、洋式トイレで
     用を足したことなんかなかったし、和洋折衷のトイレでは迷わず和式を使っていた。
     ど・・・ どうやって使うんじゃ???
     ハテナマークが飛び交う。 そこにはトイレはそれひとつだけ。
     入ってドアを閉めたものの、にゃおはしばらく便器とにらめっこをしていた。 
     ふたを開けてみる。 座るってのはわかる。 でもどうやって?  もう一枚ふたがあるけどこれも
     開けるのかな?  オマルのようにまたがるのかしら? でもなんだか難しそうだ。
     それになんか便器、汚いしなぁ・・・

     しばらく考えた末に、にゃおはトイレを断念した。 どうしても、どうしても使えなかったのだ。
     その後は、もうトイレのことばかりが頭にあって、ちっとも楽しめなかった(爆)  店から出て
     しばらくしてから、どこかのトイレに駆け込んだような気がする。  

     洋式トイレが一般化して、少しも珍しくない今となっては、まさに笑い話。
     だけど、あの時は本当に困ったんだよね。 

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