大穴事件

     8月に入り、稲もだいぶ成長してきた。 そろそろウンカなどの害虫も出始めて
     粉剤による農薬散布をしなくちゃいけない頃になっていた。

     その日、にゃおはいつものように、朝、5時半に主人を送り出すと、田んぼに水を入れ始めた。
     7時くらいまでは用水路の水も比較的綺麗だから、水門を大きく開けて、できるだけ短時間に
     大量の水が入るようにしておく。 そのあと7時頃からは一度、水門を閉めて、各家庭からの
     生活廃水が流れ込まないようにしておく。 さらに、9時過ぎ、洗濯や朝食の後片付けが
     済んだ頃、また水が綺麗になってくるので、再び水門を開ける。
     田んぼが自分の家から遠い人はこんなこと出来ないのだけど、にゃお家の田んぼは家の
     目の前にあるから、こういう細かな調節ができるんだね。

     子供を保育所へ送って行ってから再び水門を開け、水を入れながら、にゃおは庭の草取りを
     していた。 さて、そろそろ水の見回りに行こうかな・・・と、田んぼの畦(あぜ)を歩き始めた。

     ドドドドド・・・・

     ? なんだ、この音。 と、思った瞬間に、にゃおは早足になった。
     これは水の音。 こんな音がするってことは、どこか田んぼに大穴が開いていて、大量の
     水が流れ出しているから。 しかもこの音からすると、高い位置から噴出している様子だ。 
     ちくしょー モグラのヤツめ。 最初に見回りをした時には異常なかったのに。
     にゃおが畦(あぜ)を覗き込んでみると、コンクリート畦(あぜ)の部分から、水が勢いよく
     噴き出しているのが見えた。 まるで消防車の放水を見ているみたい。 
     どこ? 穴はどこ? 
     たいていはこれだけの水が漏れ出していると、どこかに穴が開いているのがわかるのだけど
     どこをどう探してみても、穴が見つからない。 まだ地面がかろうじて水の重みに耐えて
     陥没していないせいで逆に穴が特定できないのだ。
     水が噴き出している位置と、いままでのモグラの穴の位置関係を考えたら、石垣の際(きわ・・・
     端っこって感じの意味)が怪しいと思えた。 にゃおは家に取って返すと、バールを持ち出した。 
     主人から、水が漏れているのに穴が特定できない時は、怪しい個所をバールのような
     もので突き刺して見るといいと教えられていた。 バールが簡単に突き刺さった場所、そこに
     空洞な部分があるということになる。 バールでわざと土を突き崩して穴を開け、それから
     修理にかかるのだ。
     穴はどこだ? どこなんだ? 
     コンクリートの畦(あぜ)際にバールをざくざくと突き刺しながら、穴を特定しようとするけど
     なかなかヒットしない。 そのうち、ぐっとバールが深く入り込む場所があった。
     ここか!! そこを集中的にバールで刺し続けると、ガボッという音がして、土が崩れ
     大きな空洞が現れた。 ぬお〜〜〜 これか?! 
     穴はかなり深く開いている。 小さな子供ならすっぽりと入ってしまうくらいの大きさだ。
     これは普通の修理じゃ直らない。 

     まずは水が穴に流れ込むのを止めなくちゃいけない。 水が流れ込めばそれだけ侵食作用で
     穴が広がってしまう。 今度はクワを取りに家に戻る。 始めから用意しておけばいいような
     ものだけど、にゃおも動転しちゃってて、そこまで気が回らなかったんだよね。

     クワで穴の回りに土の土手を築く。 水よりも土手の位置が高ければ水は流れ込まない。
     これで、一応、噴き出した水も止まるから、それから修理を・・・
     え? うそ・・・ 水、止まらないよ?!

     大きな穴に流れ込む水をせき止めても、噴出する水の勢いは止まらない。
     それって、水漏れしてる穴はこれじゃないってことなんだね? にゃお、関係ない穴を
     開けちゃったんだ。 いや、関係ないって事はないか。 これだけの大穴ならやがては
     パックリと開いちゃうもん。 じゃ、本物はどこよ? どこなの〜〜〜
     相当パニクったにゃおの目に、ふとした場所が飛び込んできた。 水の流れが速い。
     なんで? それは穴に水が流れ込んでいるから。 場所はそこか!!

     もう股下近くまで伸びている稲をかき分けるようにして、田んぼの中を覗くと、そこにポッカリと
     穴が開いていて、水が勢いよく流れ込んでいる。 普通は畦(あぜ)の際に穴が開きやすいけど
     時々、モグラは田んぼの中の方にも穴を開けるんだよね。
     その穴に、持っていたボロ布を突っ込み、さらに回りの土をどろどろにして穴の中へ
     詰め込むようにしていると、さっきまで激しく響いていた水音が収まった。 ビンゴ!!
     ひとまず、水漏れしていた穴は修理完了となった。

     問題は、にゃおが開けちゃった大穴。 これはボロ布や土を詰めたくらいでは
     直るしろものじゃない。 こういう時はまず、一番下に大きめの石を敷きこむのがいい。
     にゃおはまた家に帰って、手ごろな大きさの石を選ぶと、えっちら、おっちら、穴の場所まで
     運んだ。 こういうこともあるから、普段から、手ごろな大きさの石を見つけた時には
     回収してとってあるんだよ。 でも重いから一度に2つくらいしか運べない。 何往復もして
     石が10個近くなったところで、今度は詰めていく。 できたら綺麗に敷き詰めるのが
     理想だけど、穴の中に入ることはできないから上から慎重に石を落とす。 それが済んだら
     ボロ布や草を入れ込む。 それから土(泥)を入れていく。 大きな穴だから、かなりの
     量が要る。 土を取っても差し障りのないあたりから、スコップでバケツに入れて運び、
     穴へ入れ込む。 かさが上がってきたら、今度は穴の回りに作った土手を崩して
     水を入れてみるのだ。 これで水漏れしないようなら、どんどんドロドロの土を入れちゃって
     いいんだよ。 穴は無事に塞がった。C= ( ̄ー ̄;;) ふぅ〜

     そう言えば、結婚して2年目の頃、しろかきを終えた主人は出張しなくてはいけなかったので
     その晩のうちに出発したのよ。 にゃおは主人を最寄の駅まで送ったのだけど
     家に帰って、しばらくしてから田んぼの見回りに行くと、しろかきして水がいっぱい入ってる
     はずの田んぼの水が少ない。 今回と同じような場所にバックリと大きな穴が開いていたのよ。
     その時はブタのにゃおが入れるくらいの大穴だったんだから\(◎o◎)/!
     どうしていいかわからなくて、慌てて、主人の宿泊先に電話して対処法を聞いて・・・
     ねこ車(一輪車)に、休耕田に積まれたたくさんの石を積んでは穴に運び入れ、
     また積んでは運び入れ、そのあとで、土を運び入れて塞いだっけなぁ。 夜の9時頃から
     始めて、やっとなんとか終わったのはもう11時半を過ぎてたね。 5月の終わり頃だから
     もう暑いの。 汗がしたたって、全身、汗と泥とで文字通りドロドロ。 緊張と興奮とで
     いつまでも体の震えが止まらなかったなぁ。 あの頃は田んぼの「た」の字がほんの少し
     わかってきた頃。 今思えばよくやったよ。 あの時、まだお腹に子供はいなかったけど
     もしもいたら流産してたかもしれないよねぇ。

     今、同じような穴が開いてしまっても、ある程度、落ち着いて1人で対処できるようになったにゃお。
     いい意味で成長したってことだけど、それって、農家のオバチャンに確実に染まってるっちゅう
     ことなのかしらね。 ふ・・・ 嬉しくな〜い。 ヽ (´ー`)┌ アハ

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