無駄な努力

     何度も書いているけど、にゃおんちの田んぼを挟んで上と下の田んぼは休耕田になっている。
     上の田んぼは、田んぼの世話をするおばあちゃんが高齢になってきて、他に田んぼが
     あるから世話が見きれないのと、減反政策に従うという理由で3年前から放置されている。
     下の田んぼは、にゃお家の田んぼの向こうにある家のものだけど、別の人が借りてお米を
     作っていた。 それも高齢による理由から5年近く前からやめてしまっているわけだ。
     自分の周りの田んぼが休耕田だと困るのは、とにかくモグラが寄ってくること。
     そりゃそうでしょう? 上も下も水の入った田んぼならモグラが穴を掘ってやってくる確率は
     低くなるけど、休耕田だと、雑草が生える。 草が育って地面が日陰になる。 そのせいで
     ミミズが発生しやすくなる。 そのミミズを求めてモグラがやってくる。 にゃお家の場合、
     上も下も休耕田だもの。 それってモグラ天国じゃん? 当然、そこからにゃお家の田んぼにも
     モグラが侵入してくるわけだ。

     上の田んぼが休耕田の場合、雑草が生えて雑草の種が田んぼに入って生えたり、その雑草に
     ついた虫が稲に寄生したりするという問題があるけれど、モグラの被害ってのは顕著には
     出てこない。 それに上の田んぼの持ち主には、普段は会社勤めをしている息子さんがいて、
     時々、耕運機で田んぼを耕してくれたり、畦(あぜ)の草を刈ってくれるから、まだ、ちょっとはいい。 

     下の田んぼの持ち主は、一度も自分では田んぼを作ったことのない人。 ずっと会社勤めで
     田んぼは人に貸していたらしい。 田んぼの持ち主本人は独身で自分の実の妹と2人暮らし。
     だんだん年老いていく自分の代わりをしてくれる息子も娘もいない。 だから借りていた人が
     田んぼを作るのをやめてしまってからは荒れ放題になっている。 夏なんか、にゃおの背丈
     くらいまで雑草が伸びちゃったりして、子供が入り込んだら、ちょっとした迷路になってしまうほど。
     ただ、その田んぼの持ち主はお金持ちなので草が伸び放題になる時期は2度くらい、人を雇って
     草刈りをする。 5人くらいの男性がほぼ一日をかけて1反5畝はあろうかという田んぼの
     草刈りを汗びっしょりになってするのだ。 でも、刈って2週間もすれば新しい雑草が芽を出し、
     1ヶ月もすれば青々とした雑草野原に返ってしまうのだけど・・・

     下の田んぼの雑草が、にゃおんちの石垣の際までビッシリ生えちゃうと、田んぼの水漏れを
     発見するのが、とっても難しくなる。 草がなかったら見回る時にすぐに水溜まりが見えるから
     水漏れを発見することができるけど、草が生い茂っていたら水が流れ出していることもわかり
     づらいし、水が漏れている場所を特定することも難しい。
     そこで、田んぼの時期はにゃおが定期的に除草剤を撒くことにしている。
     除草剤には『根枯らし』と『葉枯らし』という2種類がある。 『根枯らし』は、撒けば薬剤が
     根まで浸透して、根から殺してしまうというもの。 これは撒いてから効果が出るまで
     時間がかかるけど、一度しっかり枯れたら当分、生えてこない利点がある。 一方の
     『葉枯らし』はとりあえず葉っぱを枯らすだけ。 だから根は生きていて、すぐに葉っぱが
     枯れる代わりに再生しやすい。 この2種類を状況に応じて使い分ける。 雑草が勢いを増す
     4月頃から始めるから、平均して農繁期には3回くらいは除草剤を撒く。

     本当はね、除草剤なんて使うべきじゃない。 土を汚染してるだけだもんね。 わかってるの。
     ちゃんと手で刈った方がいいんだってわかってる。 でもね、でもね、それってすごく
     労力が要るのだ。 石垣がでこぼこしてるから草刈り機で刈るのは難しい。 石に刃が
     当たって刃こぼれしたり、逆に欠けた刃や石が飛んできて怪我をすることがあるから。
     それに、ただ石垣の際を刈ればいいってもんじゃない。 水漏れがわかる程度に、
     人が歩ける程度にって幅1メートルくらいで刈っていかなくちゃならない。 これを100メートル
     近く刈るのって大変。 何より、その田んぼはにゃおんちのじゃなくて他人の田んぼ。 本来なら
     にゃおたちがすべき仕事じゃないんだもの。 それを持ち主がやってくれないから、仕方なく
     にゃおたちがしてるだけ(人を雇って一夏に2回程度刈ったくらいじゃ意味ないんだよね)。
     だから、やらない方がいいってわかってるけど除草剤を撒く。 最近は土に優しいなんていう
     品物も出てきてるから、それを言い訳にして使ってるわけだ。

     除草剤を撒くのも決して簡単じゃない。 普通の『じょうろ』に薬剤を水で薄めて散布する。
     しかし100メートル近くを1メートル幅に散布するとしたら、『じょうろ』に何倍もの薬が要る。
     だから、あらかじめバケツに水を一杯くんで田んぼへ持って行く。 もちろん、『じょうろ』にも
     最初は薬を作って持って行く。 せっかくの除草剤も適当に散布したら、薬がうまくかからな
     かった部分だけ雑草が残って意味がないから丁寧に撒く。 そうすると何杯も薬を作らなくては
     いけなくて、最初にくんだ水だけでは足りなくなる。 途中でもう一度、家まで戻り、水を満たして
     重いバケツを田んぼに運ばなくてはならない。 暑い陽射しの中、この作業は結構キツイ。
     除草剤は天気が良い日でないと効果がしっかり出ないから仕方ないんだけど。

     こうして汗水たらして散布した除草剤が上手く効いてくれると、2ヶ月くらいは水漏れの見回りも
     実際に水漏れがした時の修理もちょっとは楽になるわけだ。
     そんなこっちの苦労を知ってか知らずか、田んぼの持ち主が雇った人が草刈りにやってくる
     時期ってのが、どういうわけか、にゃおが除草剤を散布して3〜4日頃のことが多いのだ。
     その頃には薬は雑草の葉から浸透してるハズだけど、見た目は青々と茂ったまま。
     当然、草刈りは、除草剤を散布した部分にも行われる。 
     夕方には雑草が根こそぎ刈り取られてスッキリ。 そんな光景を見ると、にゃおがやった事は
     何だったのだろうという虚しさで一杯になってしまう。 こんなことならクソ暑い中、汗まみれに
     なって除草剤を撒く必要なんてなかったのに。 無駄に土を汚染する必要なんてなかったのに。

     そんな割り切れない思いを抱きながら、今年も、にゃおの仕事は続く・・・

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