水取合戦

   田んぼに植えたばかりの苗には水が必要。 いままで狭い苗箱で「み・・・水をくれ〜〜〜」と悲惨な生活を
   強いられてきた苗たち。 さぁ〜 たっぷり水を吸って大きく成長するのよ!!
   でもこのためには当たり前の話だけど水が要るよね。 にゃおの田んぼの前には農業用水というものが
   流れてる。 もともとは田んぼに水を引く(入れる)ための水の道なのだけど、普段はただの小川と化してる。
   この川をせき止めて水位を上げ、田んぼの中へ水を流し込むのだ。 農業用水の深さは70センチ弱。
   板切れを何枚か重ねて積み上げてせき止める。 さて、ここでいろんな問題が出てくるのだ。 
   にゃおの田んぼがあるあたりはちょっとした段々畑状態。 そしてにゃお家の田んぼは一番下に位置する。
   大体みんな田んぼに水を入れるのは同じ時期(時間帯)だ。 さぁ、どんなことが起こると思う?
   夏の風物詩、「流しそうめん」を思い浮かべてみよう。 上から流されるそうめん。 ずらりと並んだ人が
   目の前のそうめんをすくう。 当然そうめんは下へ流れてゆくにつれて少なくなっていくよね? 
   一番下の方の人はほとんどそうめんが流れてこないなんてことになっちゃう。 
  
これと全く同じことが田んぼに水を入れる時に起こるんだよ。 
   どんなに水量があっても上の田んぼを持ってる人が自分の田んぼに水を入れるために水路をせき止めると
   当然、それよりも下に流れてくる水はぐっと減ってしまう。 農業一年目のにゃおはある時、田んぼに水を
   入れるように主人に命ぜられた。 目安を教えてもらって、このへんまで水が入ったら入れるのを止める
   ようにって。 おお〜 それくらいは楽勝よ♪ と、お気楽モードのにゃお。 ところがしばらくしてどのくらい
   水が入ってるかを見に行ったにゃおはぶったまげた。 水が全然入ってない!! せき止めた水が
   あて口(水を入れる水門みたなところをこう呼ぶの)から、ほんのちょろちょろ・・・と入ってるだけ。
   これじゃ、広い田んぼにいつまでたっても水が行き渡るわけがない。 しかもすでに日は高く、どんどん
   水が蒸発して少なくなっていく。 どうして? 何で? 何が起こったの???  パニックになったにゃお。
   ふと見ると流れてくる水量が極端に少ないことに気がついた。 入れ始めた時はたくさん流れていたのに・・・
   不信に思って流れをたどってゆくと・・・ 上の田んぼのあて口で水がせき止められている。
   勢いよく水がその田んぼへと吸い込まれて行く。 そしてせき止めた板のすきまからこぼれ落ちた水が
   申し訳なさそうに、にゃおの田んぼへと向かっていた。 これじゃ、水が入るわけないよね。 
   結局、その日は田んぼに水を十分入れることが出来なかった。
   「我田引水」という言葉がある。 「自分の田んぼに水を引くこと → 自分の利益になるように
   とりはからうこと(by三省堂国語辞典)」  あの言葉はまさにこれから来たんだね。 自分の田んぼに
   水が要るってことは他所の田んぼも水が要るって百も承知のはずなんだよ。 だけどみんな自分が可愛い。
   自分の田んぼさえよければあとは関係ないんだよね。 これは下の田んぼを持つ者の宿命なんだ。
   普段は主人がそういった水をめぐるトラブルを回避するために夜に水を入れるなどの工夫をしている。
   これは本当は危険なことなんだよね。 夜に水を入れると当然のことながら暗いから田んぼが
   どんな風になってるのかわからない。 もしかしたらモグラが穴を掘っていて、そこから水が抜けてる
   かもしれない。 知らずに朝まで放っておくと穴は水の浸食作用で瞬く間に大きくなり修復困難なくらいの
   大惨事(おおげさかな?)になるのだ。 だから夜に水を入れる時は早くに眠ることは出来ない。
   田んぼ全体に水が行き渡った頃を見計らって、田んぼのチェックに出かける。 この時点で異常がなければ
   朝まで放っておいてよし。 もし穴でも開いて水が漏れているようなら即修理するのだ。 
   大体、100%に近い水量で田んぼに水が行き渡るまで約2時間ちょっと。
   農業用水とはいえ、生活廃水も流されちゃってる川だから一般家庭の夕食が終わって
  
後片付けが済んだころからでないと水は入れられない。 (だって、油まみれの水や残飯が流れて
   来るんだよ。 考えただけで、おえ〜〜〜でしょ?) となると時間的には9時頃から入れ始めて
   行き渡るのが11時頃。 それから田んぼのチェックが何事もなくて20分くらい。 眠るのはそれから。
   毎年この時期になると主人は寝不足になるんだよね。(朝は4時50分くらいに起きるし)

   ある時、主人が出張に出かけ、その間一週間くらいをにゃおが田んぼを任された。 朝5時半くらいから
   水を入れ始める。 今日は水量もあるし、いい調子・・・なんて思ってたら、おもむろにすぐ上の田んぼの
   持ち主が現れた。 和やかに朝のご挨拶。 その人も自分の田んぼに水を入れ始める。 
   ん? あれ? ちょっとぉ〜!! なんてことだろう。 その人ったらにゃおがいる目の前で
   きっちり水をせき止めて自分の田んぼに水を入れ、さっさと帰って行った。 これじゃ、にゃおの田んぼに
   水が全然入らないよぉ〜 ちょっとは水をゆるめに止めるとかして水をわけてくれてもいいじゃないのさ!!
   にゃおはキレたね。 その人はちょっと家が遠い人だから水を入れたら昼過ぎまで見に来ないんだ。
   にゃおはその人が完全に帰ったことを見届けてから、こっそりとその人がせき止めた板をずらしちゃった。
   これで時間はかかるけどにゃおの田んぼにも水が入る。 あとはその人がまた田んぼに来る前に
   板を元に戻しちゃえばいいのだ。 目には目を、歯には歯を。 意外とにゃおを怒らせると怖いのだ(爆) 
   次の日からはなんと朝3時に起きて水を入れた。 これなら上の田んぼの持ち主がやってくる時間までには
   水が満杯になる計算。 こうしてにゃおのリベンジ作戦は主人が帰るまで続いたのだった。
   今、その田んぼは減反政策のあおりで荒れている。 一人脱落したことで水取合戦もちょっとは穏やかだ。
   でも油断は禁物。 
   今年もほら、「我田引水」を絵に描いたようなあの人が自分の田んぼに水を入れにやってくる・・・

            目次へ     次へ     HOME