苗にお水をあげましょう

    にゃおの家には5月の中旬に苗がやってくる。 人によっては自分の家で苗床を作って「もみ」から
         苗を育てるけど、そんなことをやるほどの敷地も設備も時間もお金もない。 ないない尽くしの
         にゃおの家は農協から苗を買うんだね。 苗箱って全国的に規格があるのかわからないけど、
         約32箱くらいの苗がやってくる。 とたんに駐車場は苗箱に占領され、にゃおの軽自動車は庭の隅へ
         追いやられる。 そしてこの日から田植えまでの約2週間、地獄の水やりが始まるのであった。

    5月の日差しはすでに殺人的な暑さを伴っている。 当然、苗箱はカラカラに乾いちゃう。 
         だから朝と夕方の2回、水をやるわけだけど、朝は日が昇らないうちに水をやらないといけない。 
         日が射し始めてからでは蒸発してしまう方が多く、苗が十分に給水できないらしい。 さらに夕方は
         日が落ちてしばらくしてから水をやる。 これも理屈は朝と同じで日があるうちに水をやっても苗が十分に
         水を吸収しないうちに蒸発してしまうからなんだって。 この計算でいくと、朝は7時頃、夕方は6時半すぎが
     ベストの時刻になる。 2週間の間はこの時間をベースに逆算して行動することになる。 
          初めてにゃおが水やりを体験した年のこと。 最初の仕事は苗箱の移動だった。 ずらりと隙間なく
          並べられた箱。 水道からバケツに水をくんでは苗箱へかける・・・というやり方をしてたんだけど、
          それだと奥の方に並べられた苗箱に十分に水をかけてやれない。 そこで自分の足が入る程度の隙間を
      空けながら並べ替える。 よく考えて効率よく楽に水をやれるように配置換えをするんだね。 
          それでもバケツでの水やりはものすごく時間がかかる。 水の量だって半端じゃないんだから、
          もったいない。 ということで、すぐそばを流れてる農業用水から水をくむことにした。 けれどこれだと
          苗箱までの距離があるし、1箱につき2杯は必要だったので32×2の64回の往復は、あっという間に
          にゃおの腰を痛めた。 そうでなくてもこんなことしたことのないにゃおなんだもの。 長く続かないのは
          目に見えてたよね。 

     そこで登場したのがちまたのご家庭でも見かける「巻き取り式ホース」。 これなら水道につないで
          ジャ〜とすればいい。 おお〜 快適じゃ〜 鼻歌でも歌ってりゃ、水やりが終わるんだもんねぇ。
     ところが誤算があった。 
     その1、バケツの時と違って、じっと立ってるから蚊の格好の餌食となるんだね。 田舎だから
          蚊だけじゃなくて「やぶ蚊(ぶと)」っていう蚊よりもパワーアップしたヤツらがワンワンいる。 
          ヤツらに刺される(にゃおたちは食われるって言うけど)とそのあとはツベルクリン反応のように
     赤く腫れあがって熱を持ち、猛烈なかゆみを伴うんだよね。 そして何日も熱を持った腫れとかゆみが
          収まらない。 しかもにゃおのように血色よく肉付きのいい餌が、さも食ってくださいと言わんばかり
          にスカートからはみ出てたんじゃ、蚊も黙ってるわけにはいかないでしょ? だから必ず水やりの前は
          ズボンに履き替えて、その上からかるく虫避けスプレーをするの。 上も半そでのまんまなんて
          とんでもない。 どんなに暑くても長袖の上着を羽織る。 この準備だけでも時間を取られちゃうよね。
     その2、苗ってよぉ〜く見ると葉が平べったいのだけど、いつの間にかそれがクルリと巻いたように
          なってきちゃったんだわ。 どうしてかな〜?って主人に聞いたら、「水が足らん」のだそうな。 
          ホースで水をやってると自分が思ったほど、苗箱に水が行きわたってなかったんだね。 
          それで苗がSOSのサインを出してたわけだ。 このサインを見逃してしまうと苗はやがて黄色に変色して
          枯れてしまう。 さっそく次の日から時間をかけて水をやるようにしたけど、そうすると時間はかかるわ、
          その分,、蚊の執拗な攻撃にさらされるわ(なんてったってズボンの上からでも刺すんだよ)で
     どうにも我慢できない。  結局はホースで全体に水をやってからあとからバケツでかけ足すという始末。
         やっぱり腰は痛かった・・・ 唯一ほっとするのは雨の時。 この時ばかりは水をやる必要はないもんね。
         農家の人は雨が降るとほっとするっていう話はよく聞いてたけど、これほど実感することはなかったよ。
         そうして長いようで短い水やりの時期は過ぎて、いよいよ田植えですぞ。

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