台風さん、いらっしゃ〜い

     稲の穂が出る頃から、だんだんと台風の発生が多くなってくる。 中国地方のにゃお地域は、
     どちらかと言えば台風の直撃を受けにくい地域だ。 南から発達して北上する台風は、大抵は
     九州を通過して来る。 その間に、勢力は段々と落ちて風速も弱めになってくるんだね。
     ところが、何年かに一度は大きな台風に見舞われる。 ちょうど九州をすり抜けてどこにも
     上陸しないままやってきた台風は、勢力も大きく風速も強い。 こうなるともう稲の運命は天に
     任せるしかない。 だから農家はそれなりにある程度工夫する。 例えば、東北の方などは、
     早めに植えて台風がよく発生する時期よりも前に稲刈りをしてしまうんだそうな。 
     こうすると、台風が直撃したって全く心配する必要ないもんね。 もっともそれって8月とかの
     稲刈りになるわけだから、ものすごく暑い中の作業で、それはそれでとっても大変な仕事なんだな。
     だけどにゃお地域ではそうもいかない。 第一ににゃお地域は当たり前だけど、東北地方よりも
     暑いのだ。  夜も気温が下がらない熱帯夜も多い。 早くに植えて早くに刈り取ろうにも、
     この暑さの中では虫や病気が発生しやすくてとても世話が大変。 兼業農家で一日中田んぼに
     ついていられないんだからそれは無理と言うもの。 ということは台風を避けるってことはできない
     わけだね。 だったらどうしたらいいか。 一つは植える稲を工夫する。 全国的に作られている
     コシヒカリ。 これは美味しいけど、穂の丈が高いのだ。 丈が高いってことはそれだけ穂が
     実ったり、風にあおられたり、大雨が降った時に倒れやすいっていうデメリットを抱える。
     そこで、いろいろ品種改良をして、コシヒカリの美味さを残しつつ、倒れにくい(茎が丈夫)稲を作った。 
     それが全国生産量第二位と言われてるヒノヒカリ。 もともとにゃお地域では中性新千本っていう
     品種を作る農家が多かった。 だけどこれ、あんまり美味しくないらしい。 にゃおの実家は
     農家じゃないけど(父母共に農家の子ではある)、近所の農家を営む伯母にお米をもらって食べて
     育った。 他のお米を買って食べたことがなかったから、美味しくないのかどうかよくわからない
     んだよね。 ところが年々、稲を斡旋する農協がこの新千本を奨励米(みなさんこのお米を
     つくりましょ〜ってアピールする米のこと)から外す方向へ動き、ついには苗の供給までストップ
     されちゃったのだ。 そしてその代わりに奨励米となったのがこのヒノヒカリってわけだね。 
     にゃお家では1999年(平成11年)からこのお米を作り始めたんだけど確かに、新千本に
     比べて、もちもちっとした食感や粘りははるかに上だった。 このヒノヒカリ、丈は新千本よりも高い
     けど倒れにくい。 なるほど農業の世界も日進月歩なわけね。

     それからもう一つ、他の農家の人はどうか知らないけど、にゃお家では、稲の実らせ方を
     少し工夫したりするんだ。 どういうことかっていうとね、稲の花がたくさん咲けばそれだけ実りも
     多いよね。 花をたくさん実らせるためにはしっかりと水をやったり肥料を与えてあげると良い。
     この水と肥料を微妙に調節することで、実り過ぎない穂を作るわけだ。 だって稲が実って穂が
     重ければ重いほど、倒れやすいんだもん。 逆を言えば穂が軽ければ倒れる可能性は低くなるでしょ?

     それでも運が悪ければ、ちょっとした雨でも、風でも倒れてしまう。 場所もおおいに関係あるから、
     自分ちの田んぼの稲はみんな倒れてるのにすぐ隣りの田んぼの稲はまったく被害がない・・・
     なんてこともある。 まったくギャンブルだよねぇ(苦笑)

     こうしてなんとか台風シーズンを乗り切った稲たちは黄金に輝く穂を風に揺らせながらその時が
     来るのを待っている。

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