4つの別れ、3つの邂逅(斉藤ストーリー)第6章


俺が自分の中に壁を作ってから、1年が過ぎた。
相変わらず北川は話し掛けてくるし、
水瀬さんはこの頃には幼なじみの美坂さんを連れてくるようになった。
そして俺は、いまだ「ほっといてくれ」としか言わなかった。
そして、春。俺は2年生になり、1年生が入学してくる。
入学式。上級生である俺たちが先に講堂に集まる。
そして10分後、式は開始された。
そして新入生が入場してきたとき、俺は奇妙な感覚にとらわれた。

この新入生の中に、俺と同じ悲しみを抱いている奴がいる。
そいつが誰なのか、それは夏に分かることとなる。

「よう斉藤。また会いに来たぜー。」
北川が隣でふざけている。
俺は聞こえないふりをした。
俺にかまうな。ほっといてくれ。
俺は毎日こんな風に北川を避けていた。
しかし、その日はもう2人、俺の知っている人が現れた。
「斉藤君、少しは何か反応してよー。」
その声に目線を上げる。と、そこには水瀬さんと美坂さんがいた。
すぐに辺りが騒がしくなる。
この2人、男子には人気があるようなので、すぐに周りに男子がつき始める。
俺はその日ばかりはもう教室にいられないと思い、外に逃げ出した。

照りつける太陽。もうすっかり夏だった。
さすがに太陽の下では辛いので、木陰の方に足を向ける。
すると、そこには先客がいた。
憂いの目を帯びているその少女を見たとき、入学式のあの感覚が戻ってきた。
きっとこいつだ。俺と同じ悲しみに明け暮れているのは。
ふと目が会う。
憂いを帯びた目と、憂いを帯びた目が。
しかしそれも一瞬。
彼女は一言も言わず、目を伏せた。
その日はそこでチャイムが鳴った。

次の日から、俺は同じ時刻にそこを訪れた。
大抵彼女はそこにいた。
そのうち挨拶を交わすようにはなったが、それ以上話が続かない。
相手も俺が同じような過去を背負っていると知っているのかもしれない。
何も話さずとも、それだけは分かっていた。

そして、俺がその木陰に来るようになって1ヶ月。
遂に彼女は口を開いた。
「名前・・・。」
喧騒の中では聞こえないだろうほどの小さな声。
「なんていうんですか。」
俺は答える。
「斉藤。斉藤武士(たけし)だ。ところで、君は?」
久しぶりに人の言葉に反応する。
彼女は答えた。
「天野美汐です。」
その日はそれ以上会話が続かなかった。

そんな時間が流れ、次第に会話も増えていく。
しかし2人とも、もっとも気になっていることはいわなかった。
妖狐のこと。自分と妖狐との間に何があったのか。
聞くにも聞けれない。
当然だ。それを聞くことは、相手に辛い思い出を思い出させることになる。
しかし、聞かなければいけないような気がする。

ある秋の日、俺と美汐はもののみのおかに来ていた。
多くの人が妖狐と会った場所。
俺が妖狐と会った場所。
そして、美汐が妖狐と会ったであろう場所。
そこで、俺は昔のことを美汐に話した。
父さんの死。狐に会ったこと。そして、その狐の死。
淡々と話していく俺の言葉に、美汐はずっと耳を傾けつづけた。
そして俺の話が終わる。
少しして、美汐が口を開いた。
「私も、ここで1匹の狐と会いました。その狐は後右足に怪我をしていました。
私はその怪我が痛々しく感じて、その狐を手当てしてあげました。
それから、私はその狐が心配で、何度も何度もここにきました。
その狐が生きて出てくるのを見るたび、私はほっとしました。
ある日、私は狐にこういったんです。
『私、弟が欲しいの。私の弟、小さいときに病気で死んじゃったの。
遊んだ思い出もあるけど、もっと一緒に遊びたかった。
弟が死んだ日、私は病院に行けなくて・・・。
だからもう一度、弟に会いたい。また一緒に遊んで、いっぱい思い出作って、
きちんとさよならがしたい。』って。
それから少しして、弟が家に戻ってきました。
私は本当にうれしかったんです。
一緒に遊んで、たくさんの思い出を作りました。
でも、だんだんと弟は不器用になっていきました。
苦しそうでした。私は助ける方法を探しつづけました。」
もうその頃には、美汐は涙声になっていた。
「年配の方に話を聞きました。伝説について書いてある本を読み漁りました。
でもそれで分かったことは、一つだけでした。
『妖狐を助ける方法は、一つも無い。』
私は愕然としました。弟を助けてあげられないことに。
もうこのときには、弟はろくに走ることすらできなかったんです。
元々消極的だった私はさらに影の薄い存在になっていきました。
誰も話し掛けてくれませんでしたし、誰とも話したくありませんでした。
そして、私は弟にお別れを言わなければならないときに直面しました。
弟の体は、眠った後、すぐに消えてしまったんです・・・。」
そこまでいうと美汐は泣き崩れた。
いつもの美汐からは考えられないほどの声をあげて泣く美汐。
俺は寄り添ってやることしかできなかった。

時が経ち、美汐も落ち着いたようだった。
そこで、俺は美汐に語り掛けた。
「俺は父さんをなくしてから、自分を殻に閉じ込めていた。
実際、それまでにもいろいろあったし。
でも、もうそれも止めようと思う。
こんなに悲しんでたら、狐達も浮かばれないと思うし。
いきなり最初から心を開くのは無理だろうけど、
まずは周りの人たちだけにでも心を開こうと思う。
俺の場合は、まずは友人に心を開こうと思うよ。」
すると美汐は言った。
「私には、友達がいないから・・・。」
「目の前にいるだろ。俺は美汐のことが好きだから、お前に一番先に心を開いた。
お前に心を開く人がいないなら、まずは俺に心を開いてくれ。
心を開くことを知れば、自然に友達も増えていくと思うぜ。」
「そうですね。頑張ってみようと思います。
だって、私も斉藤さん、すきですから。」

帰り際、俺は言った。
「あ、そうだ・・・。これはずっと思ってとことなんだけど・・・。」
「何ですか?」美汐が答える。
俺は透き通った星空を見ながら言った。
「案外この街にいる人間の半分が、妖狐なのかもな。」

その時、頭の中で声がした。
『ほら、後で奇跡が起こったでしょ。』
確かに奇跡だ。自分が悲しみから立ち直るだけでなく、
ほかの人の傷も癒せるなんて。
そして今度は美汐が言う。
「心を開いてみれば、きっと見えなかったいろんな物が見えるんでしょう。」


次の日、北川はいつものように俺に話し掛けてきた。
「よう、斉藤。今日は元気か?」
俺は言葉を返した。
「お前はいつも馬鹿元気だよな。」
「おいおい、いきなり何てこと言うんだよ。」
そういった北川は、内心嬉しそうだった。
そこへ水瀬さんがやってくる。
いつもと違って北川と楽しそうに話している俺を見て、
「おはようっ、斉藤君っ。」
と、いつもよりも楽しそうに話しかける。
「そういや水瀬さん、何でここにいるんだ?」
俺の疑問。北川は幼なじみだから分かるとして・・・。
「2年とも、同じクラスだよー。」
「え、そうなの?」
「斉藤君、ひどいよー。」
そう言ってる水瀬さんも、楽しそうだった。
心を閉ざして3年。遠回りをして、俺はやっと昔の俺に戻り始めた。

______________________________________

いかがでしたか?最後の方失敗ですね。
さて、次で最後になると思います。
ずいぶん長くやってたと思うんですが、かいてみれば直ぐですね。
では、感想を待っています。

 

次へ