『奇跡円舞曲』movement 02





 祐一達は校門に滑り込んだ。
 と同時に。
 ――祐一・心理技能・自動発動・殺気感知・成功。
「・・・おいおい」
「祐一、覚悟っ!」
 ツインテールの髪の毛を舞い踊らせ、その影は祐一に飛びかかった。
 連撃。しかし。
 ――祐一・回避技能・発動・回避・成功。
  ――祐一・回避技能・発動・回避・成功。
   ――祐一・回避技能・発動・回避・成功。
    ――祐一・回避技能・発動・回避・成功。
     ――祐一・回避技能・発動・回避・成功。
 祐一は全ての攻撃を回避。
「――破神!」
 そして破神を起動し――牙神を粉砕した。
「ちぇ。やっぱり駄目か」
 聞こえてきた声の響き自体はさほど残念そうではない。
 どちららかといえば嬉しそうだと言っても良いだろう。
 祐一は溜息を一つつき、真琴の方を向いた。
「コラ真琴。いきなり何しやがるっ!」
「なによう、遊んでくれてもいいじゃないのよう!」
「お前の遊びはおっかないんだっての!ほら牙神をとっとと引っ込めろ」
 言いながら真琴の頭を軽く叩く。
 叩く、と言うよりは――そう、撫でると言った方が良いだろう。
「なによう、子供扱いなんかして・・・」
 文句を言いながらも、真琴は目を細めていた。
「・・・・・・」
 ――祐一・視覚技能・自動発動・視線察知・成功。
 視線を感じて振り向けば、舞と佐祐理が驚いた様な顔をしている。
 特に舞は羨ましそうな顔だ。
「どうしたんだ、舞?」
「・・・・・・」
 しかし舞は無言。
「・・・・・・」
 無言。
「・・・・・・」
 無言。
 ――祐一・心理技能・発動・威圧反射・失敗。
「・・・仕方ないなぁ。」
 そのまま舞の頭を撫でる。
 撫でる。
 撫でている、と。
「・・・羨ましいです」
 佐祐理が羨ましそうな目で見ている。
「佐祐理さん・・・勘弁してください」
 祐一が心底困った声で言うと、
「ふぇ。駄目、ですか・・・?」
 と、佐祐理は泣きそうな顔だ。
「・・・解りましたよっ!」
 撫でる。
「・・・・・・♪」
「祐一・・・真琴もっ!」
「はいはい」
 撫でる。
「・・・・・・狡い」
「はいはいはいはい・・・佐祐理さん、ごめん!」
 撫でる。
「ふえ・・・」
「真琴、すまない!」
 ひたすらに撫でていると――
 ――祐一・視覚技能・自動発動・視線察知・成功
 ――祐一・心理技能・発動・威圧反射・成功。
 ――祐一・心理技能・発動・威圧・成功。
 ――祐一・心理技能・自動発動・殺気感知・成功。
 ――祐一・心理技能・発動・殺気放出・成功。
 先ほどから、敵意と殺気の籠もった視線が突き刺さっている。
 その視線を察知し、威圧を跳ね返し、殺気を放った者に殺気を投げかける。
 すると殺気は雲散霧消するのだが、すぐに新たな殺気が噴出する。
「しかし。この街の連中は何だってこんなに喧嘩っ早いんだ?」
 ごちる様に祐一は呟いた。
 喧嘩っ早い、と言うよりは戦いたがっていると言った方が良いだろう。この街の地脈には闘争の遺伝詞が流れている。それも、住人に影響を及ぼす程にだ。 
「ったく・・・どういうことだ一体・・・?」
 微かな焦燥感を感じながらも、祐一は真琴と舞、佐祐理の頭を撫で続けた。
 ――祐一・視覚技能・自動発動・視線察知・成功。
 視線。
 敵意のある視線ではない。
 嫉妬でもなく、ただ見ているだけだ。
「はい、お開き。続きはまた後でな」
「ええっ!でも・・・仕方ないわね。約束破ったら酷いんだからねっ!」
「・・・解った。佐祐理、教室に行く」
「はい、解りました。ではー!」
 それぞれの言葉を残し、教室に入っていく3人を見送った後、祐一は視線の主に近付いていった。
「仲が良いわね」
 視線の主の第一声はそんなものだった。抑揚のない声。無理に感情を抑えた様な声だ。
「香里か・・・」
「あたしだったら何か不都合がある?」
 棘を含んでいる香里の言葉に、祐一は笑って返答。
「不都合は無いぞ、全く」
 その笑顔に不振なものを感じたのか、香里は半眼で更に質問した。
「何か言いたそうね」
「お前も撫でて欲しいのか?」
「!」
 ――祐一・回避技能・発動・回避・成功。
 祐一が立っていた空間。
 そこを大鎌――氷雨が刈り取っていった。
「照れるなよ」
「照れてないわよっ!」
「顔真っ赤だぞ」
「調子が狂うわね・・・」
 ややげんなりしている香里に、祐一はにこやかに話しかけた。
「はっはっは。香里、もっと心に余裕を持たなきゃいけないぞ」
 そんな祐一の言葉に、香里は苦笑。
 しかしどこか陰のある苦笑だ。
「そりゃそうと香里。俺に何か用なんだろ?」
 笑顔のまま、祐一。
 意外だったのだろう。香里は反射的に問いかけていた。
「分かるの?」
「そりゃぁな。あんな顔されてたら嫌でも気付く」
 侮れない。
 気に掛けてくれている。
 油断が出来ない。
 気を許せそうだ。
 そんな感情が複雑に絡み合い、渦を巻いている。
 香里は技能を発動させようとしたが、不可能なことにを思い出し、止めた。
 その代わりに深呼吸を一回。
「付いてきて。すぐに」
 そう言った香里の表情は、真面目な――冗談の入り込む隙間がないほどの真面目なものだ。
 しかし、祐一は、敢えて香里をからかった。
「愛の告白か?それにしちゃ妙にぴりぴりしているが」
 香里は氷雨を一閃。
 しかし。
 ――祐一・回避技能・発動・回避・成功。
 祐一は危なげもなく回避。
「・・・そんなに怒らないでもいいじゃないか」
「・・・・・・」
 祐一の声に対する香里の答えは無言。
「俺が悪かったって」
「・・・・・・」
「おーい」
「・・・・・・」
「香里ちゃーん」
「・・・・・・」
「かーおりーん♪」
「・・・・・・」
「そ、そこはかとなく悔しいぞ・・・!」
 悔し涙を滲ませる祐一には目もくれず、香里は廊下を進み――やがて立ち止まった。
「付いたわ」
「え?」
 立ち止まり、ドアの上のプレートを読む。
 生徒会室。
 プレートにはそう書かれていた。
「ここは・・・」
「総長が待ってるわ」
 祐一はドアノブに手を伸ばしかけて、動きを止めた。
 ――祐一・心理技能・自動発動・殺気感知・成功。
「どういうつもりだ、香里?」
 祐一の声はいつもの飄々としたものではない。
『天狼』の字名を持つ男としての声だ。
「試させて。貴方が信頼に足るかどうか。貴方の力が必要かどうか。貴方に私の願いを託して良いかどうか」

<香里:神域・展開/氷雨・起動/典詞・詠唱開始>

[Dies, nox et omnia me fay planszer,
    dum spiro spero,
  petite et accipietis, pulsate et aperietur vobis.
      forsan et haec olim meminisse iuvabit.]

<香里:魔神・交神>

 ただ一撃。
 無音の衝撃が走った。
 ――祐一・回避技能・発動・回避・成功。
「香里・・・!」
「余所見していていいの?あたしの神典――魔神は・・・貴方を追い続けるわよ」
「うわ、正気かよっ!」
 ――祐一・脚術技能・発動・疾走・成功。
 香里の言葉通り、香里の神典――魔神は祐一をどこまでも追い続けていた。
「うわ、なんて厄介な」
 ――祐一・回避技能・発動・回避・成功。
 ごちながら、回避。
 ――祐一・砕神神器・発動・砕神蓄積・成功。
 そして振り向きざまに一撃。
 ――祐一・砕神/体術/腕術技能・重複発動・砕神一撃・成功。
 魔神は霧散。
 しかし。
「まだよ・・・!」
 香里は氷雨を一閃。

<香里:神域・展開/氷雨・祈導/典詞・詠唱開始>

[Fortes fortuna juva,calamitas virtutis occasio est
      nunquam periculum sine periculo vincemus.
  omnia eunt more modoque fluentis aquae,
        novo mundo reserat,cedant tristia
    vive hodie,et per aspera ad astra.
          jucunda memoria est praeteritorum malorum]

<香里:魔神・降神>

 更に無音の衝撃が走り――分裂した。
 放たれた槍が空中で割れ、無数の矢になった、と言うのが近いだろう。
 しかもその矢の1本1本が元の槍と同等な破壊力を備えている。
「うわ。冗談じゃねぇぞ!」
 ――祐一・回避技能・発動・回避・成功。
  ――祐一・回避技能・発動・回避・成功。
   ――祐一・回避技能・発動・回避・成功。
    ――祐一・回避技能・発動・回避・成功。
     ――祐一・回避技能・発動・回避・成功。
      ――祐一・回避技能・発動・回避・成功。
       ――祐一・回避技能・発動・回避・成功。
        ――祐一・回避技能・発動・回避・成功。
         ――祐一・回避技能・発動・回避・成功。
          ――祐一・回避技能・発動・回避・成功。
 避けながら呟く。
「――破神!」
 力の名を。
 それだけで良かった。
 さらに。
 ――祐一・砕神神器・発動・砕神蓄積・成功。
 四肢に砕神の力を乗せていく。
 そして。
 ――祐一・体術/腕術/脚術技能・重複発動・神速・成功。
 祐一の姿が滲む様に消えた。
 否。
 消えた様に見えた。
 神速の世界の中、祐一は構え、繰り出す。
 力を。
 ――祐一・砕神/体術/腕術/脚術技能・重複発動・砕神連撃・成功。
 香里は感じていた。
 自分の放った神典が砕けていくのを。
 実際には5秒と経っていないだろう。
 全ての衝撃は霧散していた。
 それと同時に祐一の姿が不意に現れた。
「・・・結構疲れたぞ。昼飯一週間くらい奢ってもらわないと割りにあわん」
 祐一は憮然とした表情だ。
「やっぱり敵わないわね」
 それに対して香里はどこか吹っ切れた様な笑顔を見せている。
「決めたわ。あたしは、相沢くんを信じる」
「?いきなり変な奴だな」
「いいのよ・・・相沢くんはこの街の敵にはならないでしょ?」
「そりゃな。敵になる理由もないし」
「それだけでいいわ」
 深呼吸一つ。
 香里は祐一に背中を向け、話しかけた。
「総長はね・・・止めておきましょう。総長から直接聞いて」
 振り返る。
 祐一の眼を見つめ、一語一語紡ぐ様に。
「そして、決めて」
 真摯な表情で。
「相沢くん自信の答えを出して。あたしは――」
 香里は言葉を一度切った。
 話すべきか。黙っておくべきか、逡巡。そして決心。
「あたしはまだ、迷ってるけど・・・」
 苦しみ。
 痛み。
 傷。
 そんな掛詞が見え隠れしている。
「相沢くんは答えを出してね」
 その言葉を残し、香里は立ち去った。
 何とか解る程度の笑顔を祐一に見せて。
「俺の、答えか。まだ迷っている俺が・・・後悔し続けてる俺が、一体どんなことが出来るって言うんだろうな。でも、な・・・」
 苦笑を洩らしながら、祐一はドアノブに手を伸ばした。
「気に入らなきゃ・・・断るだけ。それだけのことさ」





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