『奇跡円舞曲』movement 07





 ――祐一・視覚技能・発動・探索・成功。
「あれ?」
 屋上から校庭を見下ろした祐一は見知った姿を見つけた。
 その影は二人――舞と佐祐理だ。
 今から走っていっても多分間に合うだろうが――
「確実に迷うだろうな」
 祐一は呟いて。
 ――祐一・脚術技能・発動・跳躍・成功。
 フェンスを飛び越えた。
 ――祐一・脚術技能・発動・着地・成功。
「でもこうすれば間に合うし迷わない。一石二鳥」
 下の方でフェンスの外に立っている祐一を見つけた生徒たちが騒いでいるが、祐一は無視。
 目標を見据え――跳ぶ。
 ――祐一・体術/腕術/脚術発動・重複発動・大跳躍・大成功!
  ――祐一・体術/腕術/脚術技能・重複発動・大着地・大成功!
 突然降ってきた祐一に、舞は変わらない表情で問い掛けた。
「祐一・・・どこから?」
「屋上から飛んできた」
 そう答えた祐一に舞は左手でチョップ一発。
「そんなこと出来るはず無い」
「でも本当なんだけどなぁ」
 頭をさすりながら、祐一。
「あはは〜」
 そんな二人を見つつ、佐祐理は笑っていた。
「佐祐理さん、見てないで止めてくれ!」
 焦っている祐一に佐祐理は笑いながら。
「舞は祐一さんに逢えたのが嬉しくて照れてるだけですよ〜」
 と。
 祐一は舞のチョップを避けながら悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「そうか、舞は照れているのか」
 それに対する舞の反応は、照れながらのチョップ。
「・・・・・」
 ――彼女の奏神具『不知火』を持った右手で。
「ぐあ!」
 ――祐一・腕術/回避技能・重複発動・無刀取り・成功。
「こらっ!奏神具で人を殴るな!」
「あ」
 今気付いた、と言った風な舞に祐一は溜息一つ。
「あ、じゃないだろうが・・・」
「・・・・・・」
 途端に舞は沈み込んだ。
 祐一は苦笑。
「もういいって。避けたんだし」
 しかし、舞はまだ沈んだまま。
「それより、一緒に帰るんだろ?」
 そう言って微笑ったら――
「・・・」
 舞は黙って肯いた。
「だからもう気にしないでいいんだって。な?」
 舞は黙って肯いた。
「・・・なんてか愛想が無いなぁ」
 せめてうん、とか言えばいいのに。
 祐一はそこまで考えて、閃いた。
「・・・舞」
「何?」
「お前、これからイエスの時ははちみつくまさんって言え。んで、ノーの時はぽんぽこたぬきさんな」
 そして早速提案。
「何で?」
 もっともな問いに、祐一は短く。
「可愛いからだ」
 舞は少しだけ考えて、再度質問。
「祐一は・・・可愛い方がいい?」
 この問いには祐一は瞬時に。
「ああ」
 と大きく肯いた。
「・・・解った。なら、そうする」
 それが効いたのか。
 舞はあっさりと承諾。
「え?嘘だろ?」
 本気にするとは思っていなかったのか。
 祐一は驚愕。
「あはは〜」
 佐祐理は――楽しそうに笑っていた。
 そんな、穏やかな帰途。
 学校から10分ほども歩いた頃だろうか。
「それで、その時舞ったら・・・」
 不意に、空間が軋んで――歪んだ。
 歪んだ空間は門となり、そこから生ずるのは――妖物。
 華音を蝕む存在だ。
 祐一は呻く様に呟いた。
「馬鹿な・・・こんな時間に・・・?」
 妖物がこの時間帯――太陽が空にある時間帯に動くはずがない。
 しかし、目の前にいるのは間違いなく妖物だ。
 佐祐理の鋭い声。
「舞!」
 それに答えて舞は――
「はちみつくまさん!」
 凛々しく、そう言った。
 祐一は自分のしでかしたことを思い、一瞬躊躇。
「・・・俺、何かとんでもないこと言ったかも」
 気を取り直して。
 祐一は拳を握った。
 そして呟く。
「――火神!」
 紅い詞色が祐一の拳を彩った。
 その掛詞は『火』。
 全てを浄化する火だ。
 そして、一撃。
 ――祐一・腕術技能・発動・火神一撃・成功。
 しかし、妖物には利いた風がない。
「ちっ!」
 舌打ちを一つ。
 技能を起動させる。
 ――祐一・火神神器・発動・火神蓄積・成功。
 力を蓄え。
 ――祐一・火神/体術/腕術/脚術技能・重複発動・火神一閃・成功。
 放つ。
 渾身の一撃を。
 浄化の烈火は確かに妖物の体表で踊り――
 ようやく届いた。
「おい・・・」
 明らかに強くなっている。
「まさか・・・!?」
 久瀬の言葉。
『闘争の遺伝詞を強化する』
 その影響が出ている?
 この程度の妖物は、通常は軽い一撃を与えればもと居た世界に戻る。
 しかし、今目の前にいる妖物は――
 闘うことに喜びを見いだしている。
 四肢が散ってもなお牙を剥き出している。
 そして、次々と現れてきている。
「これは――


 疑問符と同時に。

<舞:神域・展開/不知火・祈導/典詞詠唱・開始>

[闘うことを諦めぬ者よ 抗い続けそこにある者よ
    心傷ついてなお立ち上がる者よ
  空に伸ばしたその手には希望の剣
     大地を指したその手には安らぎの盾
   傷はいつか癒えていく 闇はいつか晴れていく
      その時まで強くあれ 意志持ちて闘う者よ]

<舞:降神・武神>

 朗々と響く舞の声が聞こえる。
 それに続き、佐祐理の声も。

<佐祐理:神域・展開/雲英・祈導/典詞詠唱・開始>

[空の高みに煌々と 導く星はなおも輝き
    遙か大地の果てに 暖かい灯火は待ち続ける
  いつかきっと届く あの日の想い
     叶えたいのなら 大切なのは
   願うこと 希望を持つこと 現実から眼を反らさないこと
      信じること 歩き出すこと 決して夢を諦めないこと]

<佐祐理:降神・煌神>

 斬撃が空間を裂き。
 光条が雨の様に降り注ぐ。
 しかし。
 それ以上に妖物が空間から湧いてきている。
 そして、祐一の周りにも。
「舞、佐祐理さん!」
 二人の声は聞こえない。
「俺は――!」
 マタ、マモレナイノカ?
 ウシナッテシマウノカ?
「赦さない・・・!」
 赦せることではない。
 一瞬、紅い光景が浮かぶ。
 7年前。
 見た光景が。
 浮かび。
 消えて。
 叫ぶ。
「――――――!!」
 声にならない咆吼。
 甦る悪夢に、祐一は――。
 腕を伸ばした。
 しかし。
 届かない。
 妖物に阻まれ、動けない。
 焦り。
 絶望。
「退けぇぇぇぇぇぇぇっ!」
 絶望の中から生ずる怒り。
 大切な存在を護り抜くという意志。
 どの様な敵とも闘う意志。
 それが力の有り様を変えた。

<祐一:降神・破神>

 銀の詞色を纏った祐一の拳が触れた瞬間――
 妖物は砕けた。
 否。
 破壊された。
 遺伝詞の残滓すらも残らない、完全な破壊がそこにあった。
 遺伝詞すら破壊する遺伝詞という矛盾した存在。
 ――破壊の遺伝詞。
「俺が・・・やったのか?」
 しかし、それも今はどうでもいいことだ。
 大切なことは一つ。
 この力が有れば、戦える。
 その事実。
 それが解っているからその名前を呼ぶ。
 大切な人を助けるための力の名を。
「破神!」
 ――祐一・体術/腕術/脚術技能・重複発動・神速・成功!
 そして駆ける。
 身体に破壊の力を纏わせて。
 踊る様に。
 破壊の力を振るう。
 シヴァ・ナタラージャ。
 舞踏の王の如く。
 残されるものは何もない。
 遺伝詞ごと破壊されていくだけ。
 祐一が舞と佐祐理の元に辿り着いた時には、祐一の背後には妖物は姿すら残していなかった。
 対照に、二人の周りには妖物の成れの果てが転がっている。
 ――生きている妖物が居ないのは共通していたが。
「舞、佐祐理さん・・・無事か?」
 必死で問う。
 舞の答えは。
「ちょっとだけぽんぽこたぬきさん」
 見れば、腕から血が流れている。
「あはは、佐祐理もちょっとだけやられちゃいました〜」
 佐祐理は――足から。
 本人達は大丈夫と言っているが、血の気がない。
 一刻も早い手当が必要なことは明白だ。
「どうすればいい・・・?」
 焦る。
 祐一の耳に、その声は届いた。
「どうなさいました、相沢さん?」





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