『奇跡狂想曲』movement 03





「がふッ!」
 ――祐一・回避技能・発動・回避・失敗!
 久瀬の一撃を、祐一は避けることが出来なかった。
「な・・・」
 なんで、と問いたげな祐一に久瀬は苦笑。
「この街で神器と技能を使える者が居るのならば、言実詞と技能を使える者が居ても――不思議じゃないだろう?」
 苦笑しながら、
<その腕に宿すは氷結>
 言実詞を放つ。
「ちぃ!火神!」
 対抗し、祐一は火神を宿し、氷結を消し去るが。
「そう、その調子だよ」
 久瀬は、笑みを崩していない。
 それどころか、更に嬉しそうな顔だ。
「・・・余裕かよ!」
 舌打ちし、駆け抜ける。
 ――祐一・体術/腕術/脚術技能・重複発動・神速・成功!
 しかし。
 久瀬はただ、呟いた。 
<障壁は生じ、汝を阻む>
 その声に応えて生じた障壁を砕くため、祐一が喚んだのは砕神。
「砕神ぃぃぃぃ!」
『砕く』という掛詞を込められた流体が祐一に拳に絡みつき、その輝きを強くしていく。
 祐一はその掛詞に自身の身体が耐えきれなくなる前に、
 ――祐一・砕神技能・発動・砕神蓄積・成功。
「砕け散れ!」
 ――祐一・腕術/砕神技能・重複発動・砕神強撃・成功!
 解き放ち、障壁を打ち砕き、
 ――祐一・体術/腕術/脚術技能・重複発動・連撃・成功!
 久瀬に拳を叩き込んだ。
「やった・・・か?」
 久瀬が吹き飛ばされた方を見ながら、祐一。
 しかし。
「・・・く。さすがは・・・天狼。
 神典無しでここまで戦えるとはね」
 頭を振りつつ、久瀬は立ち上がった。
 額から血を滴らせながらも、その足取りは確かなものだ。
「そこらへんはさすがだと思うよ・・・」
 でも、と前置きして。 
「――――」
 何かを呟きながら、久瀬が傷に左手をかざし、そしてぬぐえば。
「なんだと?」
 傷口は残ってはいない。
「・・・神典」
 祐一の呻きに、答えて。
「そう。これが僕の神典の能力」
 笑う。
「その一つだ」
 そして祐一を見据え、問い質した。
「そうそう、神典で思い出したけど。
 何で君は神典を使わないんだ?
 君だけに赦された神典・・・『破神』を」
 そして、浮かべた表情は――
「それとも、使いたくても使えない、とか?」
 嘲笑ではなく、苦笑。
 そう、苦笑だ。
「何を、知ってる?」
 呻く様に訊く祐一に、苦笑を崩さないまま答える。
「君が知らないことの幾つかは、ね」
 そして唐突に苦笑を覆い隠し、鋭い目で祐一を見据えて。
「しかし・・・それももうどうでもいい事」
 目を閉じ、久瀬は技能を開始。
 駆けた。
 ――正登・体術/腕術/脚術技能・重複発動・強撃・成功!
 だが、祐一も予期していたのだろう、技能を発動した。
「ちぃ!」
 ――祐一・回避技能・対抗発動・回避・成功!
  ――正登・体術/腕術/脚術技能・重複発動・強撃・成功!
  ――祐一・回避技能・対抗発動・回避・成功!
   ――正登・体術/腕術/脚術技能・重複発動・強撃・成功!
   ――祐一・回避技能・対抗発動・回避・成功!
    ――正登・体術/腕術/脚術技能・重複発動・強撃・成功!
    ――祐一・回避技能・対抗発動・回避・成功!
     ――正登・体術/腕術/脚術技能・重複発動・強撃・成功!
     ――祐一・回避技能・対抗発動・回避・成功!
「くっ!」
 防戦一方。
 そう、防戦一方だ。
 しかし、久瀬にはまだ余裕が感じられる。
「・・・・・・」
      ――正登・体術/腕術/脚術技能・重複発動・強撃・成功!
      ――祐一・回避技能・対抗発動・回避・成功!
       ――正登・体術/腕術/脚術技能・重複発動・強撃・成功!
       ――祐一・回避技能・対抗発動・回避・成功!
        ――正登・体術/腕術/脚術技能・重複発動・強撃・成功!
        ――祐一・回避技能・対抗発動・回避・成功!
         ――正登・体術/腕術/脚術技能・重複発動・強撃・成功!
         ――祐一・回避技能・対抗発動・回避・成功!
          ――正登・体術/腕術/脚術技能・重複発動・強撃・成功!
          ――祐一・回避技能・対抗発動・回避・成功!
 終焉を呼び起こしたのは、久瀬が口ずさんだ言葉。
           <大地の鎖は汝を縛り汝に宿りし歌をも奪う>
 言実詞だ。
           「な!」
 足を絡み取られた祐一は動くことも出来ず。
            ――正登・体術/腕術/脚術技能・重複発動・強撃・成功!
 技能も神器も放つことも出来ず。
「――――」
 無言で吹き飛ばされた。
 既に、気絶している。
 だから、久瀬の声は届かない。
「とりあえず――失望したよ。
 君がこの程度だったなんてね」
 溜息混じりの、声も。
 久瀬が神典を起動しようとしているのも。
 祐一には、届かない。

<正登:神域・展開/無尽・祈導/典詞・詠唱開始>

[無限の―――――――
   ――――――ただ――――
  ――と――――――
    ―――――――――詠う
   ――のは――――――
     ――――――――――のみ]

「本当に・・・失望したよ。相沢君」
 哀しそうに呟いて、祐一を見下ろして。
 神典を、放つ。

<正登:降神・
       「駄目!」
 声。
 その一声を発したのは、熾天の少女。
 あゆだ。
「させないよ!」
 そのあゆの声に普段の呑気さはない。
 そして鋭く響くのは雅式首聨。
「空を渡る風、疾く駆け抜けるもの、150万の遺伝詞よ。
 聞こえているかな?ボクの声が」
 そして、放つ。
 風水を為すための一声を。
「――ラ!」
 響きと共に、振り抜かれた槍から解き放たれたのは突風。
 突風の中、あゆは槍を振り抜いた体制のまま、典詞を詠い始めた。

<あゆ:神域・展開/久遠・起動/典詞・詠唱開始>

[望んだのは空翔る翼
   願ったのは暖かい光
  希望と夢の翼広げて
    今飛び立つのは蒼穹の世界]

<あゆ:交神・飛神>

 久瀬ならばその突風など無視して、祐一に自分の神典を叩き込むことが出来たろう。
 だが、久瀬はそれをしなかった。
 その目に映るのは、気絶した祐一を抱え、飛び去っていくあゆ。
「――君は」
 その空を見上げたまま。
「そうか。僕の邪魔をするのか」
 久瀬は確かに、微笑った。
「まあいいさ。
 助けられたところで『破神』を使えない君には何も出来ない。
 そう、僕を止めることなんか出来ないのだから」
 哀しそうに。





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