Locus 03-01 "et istae sequor eum"





「俺は・・・一体・・・」





 水瀬名雪は寝ぼけながら相沢祐一の事を考えていた。
 珍しく自然に目が覚めたのだが、まだ本調子ではない。
 まだ本調子ではないが、軽く欠伸をしながら、目覚まし時計を止めていく。
「ん・・・・・・」
 もう一回、軽く欠伸。
 しながら、カーテンを開ける。
 清浄な朝の日差しが差し込んでくる。
「ん〜」
 伸び。
「相沢、祐一君・・・か」
 昨日はじめて逢った転校生。
 はじめて逢ったはずなのに、名雪は奇妙な懐かしさを覚えていた。
 そして、微かな痛み。
「わたしは・・・知らないはずなのに。なんで痛いんだろ?」
 そのまま迷っていても答えは出ないだろう。ならば。
「よし、相沢くんと話そう!」


 水瀬あゆは牛乳を温めながら相沢祐一の事を考えていた。
 暖めた牛乳を一口。
「祐一くん・・・絶対に男の子だとか、小学生だとか言わせないよっ!」
 自分で言って、気付く。
 なぜ、自分は祐一がそんな事を言うと思ったのか。
「うーん・・・」
 悩みつつ、牛乳をもう一口。
「なんでなんだろ?」
 もう一つの疑問。
 なぜか、名前を素直に呼べたこと。
「祐一くん・・・」
 呟いてみる。
 湧き上がる、微かな――そう。微かな、懐かしさ。
 そして――痛み。
 気付かないほどの、微かな痛み。
 あゆは、その痛みに気付かないまま呟いた。
「うん、祐一くんと話してみようっと!」


 水瀬真琴は顔を洗いながら相沢祐一の事を考えていた。
「うー」
 頭を振る。
「なんか・・・むかつく」
 なぜか、祐一の事が頭から離れない。
 それが気に障った。
「むかつくけどやっぱり気になる・・・」
 気に障っているのは事実だが、気になっているのも事実だった。
 それはあるいは気になる異性をからかう心理にも似ていた。
「全く・・・何でここまで気になるのよう!」
 壁を蹴り付け――
「イタタタタタタタ!」
 転がり回る。
「あーもうっ!相沢めぇっ!」
 闘志の炎を瞳に宿しながら真琴は立ち上がった。
「絶対絶対問いつめてやるんだからあっ!」


 天野美汐は卵焼きの味見をしながら相沢祐一の事を考えていた。
「ん、いい味です」
 相沢祐一がこの卵焼きを食べたらどんな感想を言うのだろうか。
『天野はおばさんくさいなぁ』
 などと言うのだろうか。
 そこまで考え、気付く。
 なぜ自分はそんな事を思いついたのか。
 昨日逢ったばかりの相沢祐一の台詞がなぜ想像出来るのか。
 そしてなぜ相沢祐一の事が気になるのか。
「不思議、ですね・・・」
 卵焼きをもう一口。
 やはり美味しい。
 うん、と頷き、美汐は呟いた。
「話してみましょうか・・・相沢先輩と」


 美坂香里は髪をとかしながら相沢祐一の事を考えていた。
「・・・昨日はじめて逢ったはずなのに」
 どうしてこんなにも気を許してしまうのだろうか。
 答えは解らない。解るはずがない。
 昨日はじめて逢ったのだから。
 その筈だから。
 しかし、身近に感じているのは事実だ。
 そして。
 相沢祐一と話しているのが楽しいのだろうか。
 イエスかも知れない。ノーかも知れない。
 相沢祐一の事を考えるのが切ないのだろうか。
 イエスかも知れない。ノーかも知れない。
 ただ、確かな事は――
「あたしは――相沢くんの事が・・・気になっている?」
 呟いた後、香里は微かに首を振った。
「転校生だから・・・珍しいだけよ」
 そう、思った。
 そう思おうとした。
 しかし――そう言いきれない。
 それだけじゃない。
「とにかくもう一度・・・相沢君と話す必要があるようね」


 美坂栞は弁当を作りながら相沢祐一の事を考えていた。
「会心の出来です!」
 卵焼きはふっくらとしているし、カニさんウインナーも可愛く出来たし、リンゴのうさぎさんも良い出来だ。
「誰も驚くだろうな」
 くす、と笑い、呟く。
「相沢先輩も、きっと」
 驚くに違いない。
 ここまで思考し、栞は微かな疑問点を覚えた。
「あれ?」
 今までこんな事はなかった。
 こんなにも気になる理由・・・
 解らない。
 解らないならば――
「相沢さんと話したら少しは解るでしょうか?」


 川澄舞は走りながら相沢祐一の事を考えていた。
 公園に入り、うん、と伸び。
「相沢・・・か」
 呟くと、自覚する。
 祐一を意識している事に。
「・・・解らないなぁ。なんで相沢の事が気になるんだろう」
 考える。
 考える。
 考える。
「うー、解らないっ!」
 頭を思い切り振り、ダッシュ。
「考えても解らないなら・・・」
 ダッシュしながら舞は呟いた。
「相沢と話してみようかな・・・」


 倉田佐祐理は紅茶を淹れながら相沢祐一の事を考えていた。
「お茶はこれで良し、と・・・。相沢さんは今日も来られるんでしょうか?」
 呟き、気付く。
 自分が相沢祐一と出会うのを楽しみにしている事に。
「うーん、なんででしょう?」
 ここまで異性の事が気になった事があるだろうか、と佐祐理は自問。
「ない、ですね・・・」
 どうして気になるのか解らない。
 どこが気になるのかも解らない。
「うーん・・・」
 悩む。
 ひとしきり悩んだ後、佐祐理はぽんと手を叩いた。
「相沢さんと話せば良いんです!」


 御巫千早はご飯を炊きながら相沢祐一の事を考えていた。
「おっけ!これで朝ご飯は万全!」
 ガッツポーズを取ってみる。
「昨日、喜んでくれたな・・・」
 昨日の事を思い出すと、顔が思わず綻んでくる。
「えへへへへ〜」
 にま、と笑いながらも朝ご飯の支度を着々と進めていく。
「でも・・・」
 祐一が洩らしていた言葉。
「途中って・・・どういう事なんだろ?」
 解らない。
 考えても考えても解らない。
 ならば。
「祐一に訊かなきゃ、だね・・・!」


 斎笹静希は鞄に教科書を入れながら相沢祐一の事を考えていた。
「祐一さん、か・・・」
 呟くと、なぜか笑みが零れた。
「うふふふふ〜」
 そのままベッドで横にこてんと倒れる。
「やっと逢えた・・・人間として・・・」
 鞄を抱きしめてみる。
「でも・・・」
 微かに、不安がよぎった。
 まだ変わりきっていない。
 その言葉の意味を、静希は考えた。
「解らないです・・・」
 うーん、と悩んだ後、結論。
「祐一さんに訊いてみますか・・・」


 そして――
 相沢祐一はまだ、夢の中にいた。
 夢の中で、呟く。
 自分で何を言っているか理解出来ないままに。
「間に・・・合うのか・・・?」
 うなされながら。
「間に合ってくれ・・・」
 泣きながら。
「まだ駄目なんだ・・・まだ、終わっちゃいけないんだ・・・!」
 切望。
「駄目だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





「・・・・・・ゆ・・・め・・・?」





―continuitus―

solvo Locus 03-02 "iste molito,exsultatio et tribulatio"

moveo Locus 02-05 "illa cocuo,ex cor isti"