Locus 03-05 "aggredio istas,eo fiducia et resolutio"





「もう・・・立ち止まらない――!」





「・・・まずは名雪達だな」
 呟きながら、名雪と香里のいる教室――2年C組を目指す。
「・・・何だか妙な気分だな」
 祐一は苦笑。
 それもそうだろう。
 もとの世界でなら、自分がいた教室だ。
「・・・感慨に浸っていてもしょうがないよな。俺は・・・俺に出来ることをやらなきゃ」
 覚悟を決める。
 そして、踏み出す。
 第一歩を。
 目のあった女生徒に頼む。
「・・・水瀬と美坂はいるか?」
 その言葉。
 その言葉と同時に、どこか遠くで――
 理解できないほどと置くで。
 あるいは、理解できないほど近くで。
 澄んだ音が響いた。
「あ・・・」
 女生徒は、一瞬戸惑ったあと、名雪達を呼びに行った。
 何の気無しに教室を覗き込む。
「あ。何だか俺の知っている光景」
 北川が馬鹿なことを言い。
 名雪がそれに素で乗って。
 香里が冷たく突っ込みを入れる。
「はは・・・相変わらずか」
 安堵。 
「俺が、いなくても・・・」
 そして、苦笑。
 そんな3人に先ほどの女生徒が話しかけ。
 付いてこようとした北川が香里に殴り倒され。
 そして、名雪と香里がやってきた。
「あ・・・やっぱり相沢くんだったのね。どうしたの・・・?」
 少し、機嫌が悪いらしい。
 香里の口調には棘がある。
 祐一は。
「いや、一弥から聞いてな。何か様子がおかしいって」
 名雪と、香里の眼を見て。
「それで、ちょっとな」
 微笑う。
「心配、してくれたんだ」
 名雪は嬉しそうに。
「・・・・・・」
 香里は照れたように、怒ったようにそっぽを向いて。
 そんな香里に、祐一は苦笑。
「そりゃするさ」
 その祐一の言葉に、
「嬉しいよ」
 名雪は先ほどの憂鬱を忘れて笑顔に戻り、
「・・・・・・ありがと」
 香里は照れながらようやくそれだけを言葉にした。
「んで、だ。お前らが嫌じゃなかったらだけど・・・」
 前置きして、提案。
「今日の昼も一緒していいか?あ、静希に千早も一緒なんだけどな」
 まぁ、迷惑じゃなかったらだけど」
 千早と静希の名前に反応を示したものの、
「迷惑なんかじゃないよ。ね、香里?」
「そうね。迷惑だったら話していないわ」
 名雪も香里も提案を受け入れた。
 祐一は、微笑って――
「ありがとな」
 と。
「じゃぁ、昼休憩に」
 と告げて、立ち去った。
 残された名雪と香里は――
「・・・香里。やっぱりわたし、相沢君のあの笑顔知ってる様な気がする・・・」
「名雪も・・・?あたしも・・・知ってる・・・」
 困惑の中にいた。


 続いて祐一が向かったのは、2年D組。
 あゆがいる、教室。
「あ・・・祐一くん・・・」
「よ、あゆ」
 教室の入り口で鉢合わせ。
 どうやらどこかに行くつもりだったらしい。
「あ・・・どこかに行くつもりだったか?」
「あ、うん。名雪さんと香里さんに用事があって。でも後でいいよ」
 祐一の問いに、あゆは笑って答えた。
「悪いな、何か」
「気にしちゃ駄目だよ。ボクも気にしないから」
 そう言って、にっこりと笑って――
「それで、今日はどうしたの?」
 ストレートに訊いてくる。
「えーとな。何だか様子がおかしいって聞いてたんだけど」
 頭をかきながら、祐一がそう答えると――
「あ、ボクを心配してくれたんだね!」
 あゆは嬉しそうに跳ねた。
 祐一は思わず苦笑。
「まぁ・・・そう言うことだ」
 祐一は躊躇。
 した後、あゆに訊いた。
「あの、な。今日の昼だけど。また一緒させて貰ってもいいか?」
「うん、ボクはいいよ!」
 あゆ、即答。
「あー、千早と静希も一緒だけど・・・いいか?」
 少し、話しにくそうに祐一は言ったが――
「変なこと訊くんだね。いいに決まってるよ!」
 あゆ、またもや即答。
 祐一は嬉しくなって。
 あの世界と、少しも変わっていないあゆが嬉しくて。
「そっか」
 そう言って。
 あゆの頭を撫でた。
「あ・・・」
 動揺。
 それが、伝わって。 
「わ、悪い!」
 祐一は逃げる様に走り去った。
 と、同時に3時間目開始のチャイム。
 チャイムの音の中、あゆは――
 困惑から抜けきれないでいた。
「ボク・・・あの手の感じ・・・知ってる様な気がする・・・」


 3時限終了と同時に祐一は教室を飛び出した。
 次の目的地は、1年D組。
 そこには真琴と栞と美汐が居る。
「おーい。水瀬と美坂と天野」
 教室のドアを開けて声を掛けかけた途端、彼女は襲ってきた。
「出たわね相沢っ!」
「いきなりかいっ!」
 殴りかかってくる真琴の避け、頭を抑える。
 真琴は何とか拳を届かせようとしているが、リーチの違いで届かない。
 ただ腕を振り回しているだけ。
「あうう、放しなさいようっ!」
「それは却下」
「あううううっ!」
 悔しそうに歯ぎしりをする真琴に苦笑。
 していたら、何事かと栞と美汐が様子を見に来た。
「真琴さん、何をしているんですか?」
「真琴、何を騒いでいるのですか?」
「よぉ」
 左手で真琴の頭を抑えたまま、右手を挙げる。
「相沢、さん・・・」
「相沢、先輩・・・?」
 栞と美汐は困惑した。
 まさか祐一が来るとは思っていなかったからだ。
 そして、祐一の今の体勢。
「相沢のくせにいっ!」
「なかなか態度がでかいなコラ」
 真琴の頭を片手で押さえ、真琴は両手を振り回している。
 そんな、光景に――
「ぷっ・・・」
「な、何ですかそれ?」
 栞と美汐は笑顔を見せた。
 祐一はそんな彼女らを見て。
「一弥からなんだか様子がおかしいって聞いたもんでな。ちょっと見に来たんだが」
 微笑った。
「ま、大丈夫そうだな。良かった」
「あの・・・ええと・・・」
「・・・・・・」
「う・・・」
 その笑顔を見て。
 美汐も。
 栞も。
 真琴も、赤くなった。
 そんな3人には気付かぬ風で、祐一は言葉を重ねていく。
「それと、昼だがな。一緒させてもらってもいいかなって
 ああ、あと千早に静希も一緒だけど・・・いいか?
 2年の連中の承諾は得たけどな」
「ええ、構いませんよ。ねぇ、栞さん?」
「勿論です!」
 二人は快諾。
 ところが。
「何勝手に決めてるのよう!」
 真琴は不満な様子だ。
「真琴は、嫌か?」
 祐一は真琴の目を見つめて、訊いて。
「う・・・仕方ないわねぇ。そこまで言うならいいわよ」
 真琴は照れてそっぽを向きながら、承諾した。
「さんきゅ・・・ところで、だ」
 真琴の頭を抑えたまま、祐一。
「何よ」
 祐一を睨みながら、真琴。
「お前は俺に殴りかかるんだ?」
 その問いに。
「何でかなんて解らないわよう!」
 真琴の目元に、微かに煌めき。
 ――涙。
 祐一はそれを見て溜息。
「・・・・・・」
 祐一の眼が、優しさと寂しさの入り交じった色に変わったのを見て――
 真琴は、困惑した。
「あう・・・相沢?」
「・・・悪いな」
 祐一は呟き、手を放し――
 真琴は隙だらけの祐一に殴りかかろうとして、止めた。
 祐一に対して感じていた感情。
 それは恨みとか、憎しみではないことを自覚した。
 その感情は、悔しさにも似た、何か。
「じゃぁ、な」
 微かに笑い、立ち去った祐一の背中に――
「相沢ぁっ!」
 真琴の声が、届いた。
「?」
 振り向く。
 何事かと。
 すると。
「昼、絶対来なさいよっ!逃げても捕まえに行くからねっ!」
 真琴の、言葉。
 祐一はその言葉に笑みを浮かべ――
「おう、覚悟してろっ!」
 次の教室目指して駆け出した。
 3人は、それを見送って――
「・・・何ででしょうか。あの笑顔、嬉しいけど・・」
「うん。何だか、切ない・・」
「でもでも、真琴は笑って欲しいけど」
 祐一の笑顔に感じた懐かしさに困惑しつつも――
 惹かれていた。


「さて、ここで最後だな」
 祐一が立っているのは、3年A組の前。
 舞と佐祐理の、教室。
「おーい」
 外から、呼ぶ。
 一人の女生徒が反応し、寄ってきた。
「・・・あ、相沢。どしたの?」
 舞だった。
「あ、ちょっと二人に話があってな。佐祐理さん、呼んでもらえるか?」
 祐一の言葉に舞は少し考え込み、
「ん、いいけど。・・・佐祐理、ちょっと来て〜」
 佐祐理を呼んだ。
「舞、何ですか〜」
 ぱたぱたと走ってきた佐祐理は、祐一の姿を認めて少し驚き、
「あ、相沢さんだ〜」
 そのままの言葉を口にした。
「ああ、相沢さんだぞ」
 答えた祐一が嬉しかったのか、佐祐理は祐一の両手をとってわーいと喜んで見せた。
「あ、あの・・・手・・・」
 照れる祐一だったが。
「ふぇ、嫌でしたか?」
「あの・・・何でもないです」
 涙を滲ませた佐祐理に罪悪感を覚え、何も言えなくなった。
 のだが、救いの手は差し伸べられた。
「佐祐理佐祐理、相沢は用事があって来たんだよ」
 苦笑混じりの舞の言葉に、
「あ・・・すみませんでした相沢さん」
 佐祐理は照れながら手を放した。
 手に残る、温もり。
 微かな未練を感じながらも祐一は言うべき事を口にした。
「ああ。一弥から何だか様子がおかしいって聞いてな。で」
 祐一の次の言葉を待たずに舞は悪戯っぽい笑みを浮かべ。
「心配、したんだ?」
 祐一は、その舞の笑顔――
 前の世界では、見ることが出来なかった笑顔。
 この世界になったからこそ見ることが出来る笑顔。
 そんな笑顔に困惑と、喜びを感じながら短く答えた。
「した」
 素直に認めるとは思っていなかったのだろう。
「・・・・・・ば、馬鹿」
 舞は赤面して祐一にチョップし。
「あはは〜。とてもとっても嬉しいです〜」
 佐祐理は照れながらも素直に喜んだ。
「痛いって・・・ま、少しは元気戻った様で安心したよ」
 そして、笑う。
 笑って、次の言葉を紡いでいく。
「でな。今日の昼だけど、一緒させてもらってもいいか?あ、残りの面子には了承もらってるんだけどな」
 困惑を覚えながらも、
「あ・・・うん。いいけど」
 舞も。
「ええ、いいですよ〜。大勢で食べた方が美味しいですからね〜」
 佐祐理も、快諾した。
「良かったよ。・・・あ、千早と静希も一緒なんだけど・・・構わないか?」
 千早と静希。
 その名前に、微かな戸惑いを感じたのだが――
「断る理由、無いと思うけど」
 舞も。
「勿論ですよ〜」
 佐祐理も、了解。
 祐一は安堵し――
「じゃ、昼にまたな」
 立ち去っていく。
 そして、振り向いて――
「ありがと、な」
 微笑った。
 その笑顔に、舞と佐祐理は眼を奪われた。
 知らないはずの笑顔。
 なのに知っている笑顔。
「暖かい、笑顔だね・・」
「でも、哀しい笑顔です」
 呟きを洩らし。
「知っている笑顔だね」
「でも、知っているはずがない笑顔でもあります」
 困惑を洩らし。
「でも・・・さ。あの笑顔、もっと見たいよね・・・」
「ええ。佐祐理も、もっと・・・見たいです」
 願いを洩らした。
 やがて4時限目開始のチャイムが鳴り響き――
 その時が、近付く。
 戸惑うことも。
 澱むこともなく。
 近付いてくる――





「ひとまずは安心・・・と言えるのか?」





―continuitus―

solvo Locus 03-06 "illius affecta,declaro istum"

moveo Locus 03-04 "et iste facio"