仁義なき戦い2

     モグラってのは地面の下に縦横無尽に通路を作っている。 にゃおたちが穴が開いたと
     言って修理するのは、その通路の出口をふさいでいるにすぎない。 穴掘りのプロである
     モグラにとったら 「あれ? 出口がふさがってらぁ」ってなくらいの感じしかないのだろう。
     しばらくすると、ちゃんとまた同じ場所に穴が開くのだ。 それでも、しつこくしつこく修理して
     行くと、ある程度、向こうもあきらめるのか、しばらく穴を開けなかったりする。

     にゃお家の田んぼにはモグラ出現率の異常に高い場所が4箇所ある。 多少、場所がズレたり
     するものの、長い間、田んぼを見ているとだいたい決まった場所に出現することがわかる。
     だからこっちも、その場所にあらかじめ、モグラ風車(風車のカラカラ回る振動を地面に伝えて
     モグラが寄ってこないようにする道具)を立てたり、そこには入念に畦(あぜ)つけをしたりする。
     大抵は、そんな人間の努力をあざ笑うかのように、モグラたちが派手に穴を開けてくれたり
     するんだけど・・・(苦笑)

     さて、2002年は、このモグラ出現率の高い4箇所のうち、1箇所はとうとう最後まで一度も
     穴を開けられることがなかった。 別に特別な修理を施したわけでもないのだけど、なぜか
     水が漏ることはもちろん、モコモコすらしなかった。 逆にこっちが、何かあるのか?と勘ぐるほど。
     その代わりと言っちゃあなんだけど、別の1箇所が集中的にやられた。 仁義なき戦い1
     書いた、『にゃお家から一番遠い側にあるコンクリート畦(あぜ)の角あたり』である。
     石垣の中ほどから噴水のように噴き出す元がなかなか特定できなくて、水を止めるのに
     苦労したのだけど、ある時、水を入れ始めてしばらくしてから見回りに出かけた時、諸悪の根源
     たる穴を発見した。 田んぼの畦(あぜ)からちょっと中に入った場所に開けられた穴だった。
     前にも書いた通り、田んぼに水が入っていたり、土が十分に湿っている時は、いかに穴掘りの
     プロのモグラと言えども、なかなか土が掘りにくいはずなのだ。 ねとねとした泥をかき出すなんて
     労力が要るし、それだったらあっさりと迂回して掘りやすいところを進んだ方がモグラも楽ってもんだ。
     それがこうも何度も開くってことは、相当、穴が縦に深く開いているということが考えられる。
     横方向から掘ってきて上に穴を開けた場合は、そこを踏んだりすることで泥が穴に入り込み
     詰まったような形になるから、同じ場所にすぐ穴が開くってことは少ない。 だけど、下のほうから
     ずんずん上に向かって穴が伸びている場合は、そこに泥が入り込んだとしても、一番底まで
     泥が流れ込むことができず、途中で詰まった形になることが多いから、その上の土や水の重さで
     穴が再び開いてしまうわけだ。 モグラが毎日、堀りに来てるわけじゃあないのだ。 こっちの
     修理が中途半端ってこと。 だけどそれをしっかり修理しようと思ったら、その部分を深く深く
     掘っていかなくてはいけないし、こんなこと、田んぼの途中でできることじゃない。 応急処置に
     しかならないとわかっていても、とりあえず『ふたをする』しかないのだ。 この前は、どこに穴が
     開いているのかよくわからなかったけど、今回はしっかりと穴が開いているのが見えたから
     もう少し、ましな修理をしておく必要がある。

     こんな時、どうするかっていうと、とにかく『物を詰める』のだ。 そりゃあ、田んぼをしている人
     それぞれやり方も主義も違うから、この方法が正解っていうのはないのだけど、にゃお家の
     場合はそう。  泥を詰めるのが一番、田んぼに取っては優しい方法だけど、それじゃ、また
     水に少しづつ押し流されたりモグラに掘られたりしてしまう。 物だと異物だから水で
     流されることも少ないし、モグラも掘ることはできない。 ここで登場するのが古布なのだ。
     ヨレヨレになった古い下着とか靴下とか。 そういう綿100%の古布は捨てずに取っておく。
     適当な大きさに切って袋に入れておく。 田んぼを見回る時は常にいくつかポケットに布を
     突っ込んでおいて、穴を見つけるとそこに押し込んで水漏れを止めたり、水が漏るのを
     仮止めしておいて、改めて家に戻って道具を取ってきて本格的に修理したりする。 綿100%の
     ものなら時間がかかってもやがては朽ちて土に還るからあまり問題ない。

     その時も、にゃおはポケットに古布を突っ込んで畦(あぜ)を歩いていた。 ふと見た先の
     石垣から水が噴き出しているのに気がついて小走りに現場に急行し、穴を発見したわけだ
     (刑事みたいだな)
     ものすごい勢いで水が穴に流れ込んでいる。 本当は穴の周りに泥で関を築いて水が入り込むのを
     止めてから修理するべきなんだけど、あいにく、道具を持ってきていなかった。 手でかき寄せて
     関を築くには流れ込む水の勢いが激しすぎて間に合わない。 家まで取りに帰って取って
     きてもいいけど、ちょっと距離があるからその間にも相当量の水が流れ出るだろう。 とりあえず、
     水の勢いを少しでも緩めないと!!  にゃおはポケットの古布を取り出すと穴に入れた。

     んがっ!! 布は水の勢いとともにヒュッ!ってな感じで穴に吸い込まれてしまった。 むむ!!
     2枚目投入!!  ヒュッ! 
     3枚目投入!!  ヒュッ!
     こ・・・こいつは相当、穴が深くてデカイみたい。 だって3枚も入れたのに噴き出る水の勢いは
     一向に変わらないんだもの。
     4枚目投入!!  ヒュッ!
     ちぃっ!  もう布がないよ。 どうする? まだ水の勢いは少しも衰えてない。
     こうなったら奥の手だ!!

     にゃおは畦(あぜ)際に植えてあった稲を一株引っこ抜くと二つ折りにして穴に突っ込んだ。
     にゃお家の場合、よくモグラが穴を開けるあたりには畦(あぜ)際ギリギリにまで苗を植えておく。
     これは少しでもお米を収穫したいってことよりも、今みたいに何かあった時、とりあえず
     引っこ抜いて詰め物にするためのもの。 主人も常々、いざって時はためらわずに株を
     引っこ抜いて穴に入れるようにと言っている。 今が『いざ』って時なんだ!!
     稲の株は布みたいに吸い込まれることはない。 だから手で押し込んで行く。 でもまだまだ奥に
     入るみたい。 二株目を引っこ抜いて同じように突っ込む。 それでも、まだ簡単に奥に
     入っていく。 くぅ〜 どこまで穴が開いてるんだ!!  三株目を突っ込んだ。 ぐいぐい穴に
     押し込めると、今度は抵抗感がある。 お、少し詰まってきたのかな? 石垣をのぞくと
     水の勢いが半分くらいになっている。 穴に水の入る勢いも少なくなって、穴の周りの水かさが
     増してきた。 ここまで来たら、あとは泥を入れて、足で踏んで、今入れた詰め物の隙間に
     泥が入り込むようにする。 こうして穴を固めるようにするわけだ。 
     やがて、とうとう石垣からの水漏れは止まった。

     (´Д`) =3 ハァ〜  汗びっしょりだよ。
     ったくもぉ・・・

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