本音が聞きたい

     にゃお家の田んぼは、一番下にある。 
     だから、水が来るのも一番最後。
     言うなれば、そうめん流しの一番下で待ってる状態。
     せっかく水が来たって、途中で入れられたら、にゃおの所にはちょっとしか来ないのだ。

     『水取り合戦』でも書いたように、毎年、田んぼに水を入れるのには苦労させられる。
     今年は、用水路の水量としては多い方だ。 つまり、水不足の心配は少ないって事。
     ただ、それを上手く利用できるかどうかの問題だ。
     梅雨時期に入っても最初の頃は、雨が降らなかったり、降ってもちょっとだったりした。
     植えたばかりの田は水を欲しがる。
     雨が降れば、水入れの心配はないけど、こうも降らないと田んぼが干上がってしまう。
     どこの田も条件は同じ。 みんな水を入れようと水取り合戦が始まるわけだ。

     その日は、6月なのか?と疑いたくなるようなギンギンの晴れだった。
     田んぼはあちこちで土が顔を出してしまっている。 当分は農薬の関係もあって水が常に
     土全体を覆っているくらい入れてなくてはいけないのだ。
     用水路の水はちょろちょろとしか流れてこない。
     どこかの田んぼが水を入れているのだろう。
     こういう時は待つしかない。 他所の田んぼはにゃお家ほど広くない田ばかりだから
     そんなに長時間、水を入れる必要はないはず。

     ところが、いつまで経っても水が流れてくる様子がない。
     『かけ流し(水を入れっぱなしにして、溢れた分はそのまま流し捨てる水の入れ方)』をして
     いるのだろうか? 
     このままでは困るので、にゃおはチェックに出かけた。

     用水路を逆にたどっていけば、どこで水がどうなっているのかがわかる。
     用水路の水を利用しているのは、今現在、にゃお家を入れて5枚。 にゃおが結婚して来た
     頃には7枚あったけど、2枚がやめてしまっている。 その分、水取り合戦の激しさも減った。

     にゃお家より少し上にある田は、今日は水を入れていないようだ。
     もう1枚の田は、朝、水を入れていたけど、止めに来たのを目撃している。
     となると、残りは2枚。
     にゃお家方向と、その2枚の田んぼへ流れる分岐点に行くと、案の定、ぴっちりと水路が
     塞がれている。 にゃお家方向へは水路を塞ぐために使っている土嚢(どのう)の脇から
     こぼれた水がちろちろとしているばかり。 これじゃあ、水は来ないぞ。
     念のために、2枚の田の方の水路へ行ってみると、水を入れている田んぼは、ほんのわずか
     ずつ水を入れているではないか!!
     残りの水は勢いよく田んぼを通り過ぎている。 この水は、にゃお家の田んぼの一番遠い側の
     用水路を通って、大川へ流れていく。 この用水路からは水を引くことはできない造りなので
     にゃお家が欲しくてたまらない水が、田んぼのすぐ脇を通って無駄に流れていくのだ。
     わずかずつ入れるのは、一気に水を入れて止めると、夕方までにまた水が減ってしまうけど
     こうしておけば、ほぼ1日満水状態を保てて、夕方に水を止めれば、次の朝までたっぷりと
     水を確保しておけるからだ。

     それって、人の事は考えてない。

     よく見ると、大川から流れてくる水量が少ないようだ。
     なるほど、だから余計に、ぴっちりと水をせき止めたんだな。
     でも、どうして水量が少ないんだろう? 普通に流れてくるならば、このあたりはもっと量が多いのに。
     これは大川方面に異常がある証拠だぞ。

     にゃおはさらに用水路をさかのぼる。
     途中にゴミがひっかかっていて水の流れが悪くなっている。 葉っぱがゴミ避けの柵にからみ
     ついてせき止める形になっている。 元の状態が悪いんじゃないか。
     ゴミを拾い、葉っぱを取り除いて用水路の流れをスムーズにして戻ってみると、土嚢(どのう)の
     脇から溢れる水の量も増えて、にゃお家の方へ流れている。 ほんの少し、土嚢の位置をずらして
     みたら、かなりの量が流れ出した。 
     このくらいの量があったら、にゃおんちにだって十分水が入れられる。

     やっとの思いで田んぼに水を入れ、一安心のにゃお。
     そして、考える。
     毎年のように繰り返される水取り合戦。
     今日のように水量が減ってるのは上流で何か異変があるからだって、素人同然のにゃおに
     だって察知できる。 それを農業歴、何十年と言うベテランの人たちがわからないはずがない。
     じゃあ、どうして、水の流れをチェックしてみようと思わないのだろう?
     それは、あの程度の水量でも、自分の田へ水を入れる分には問題ないからだ。
     だから、その先がどうなっていようと関係なのだ。
     そして、自分がぴっちり水をせき止めてしまったら、その下の田んぼはどうなるか・・・なんて事も
     ちっとも頭にないのだ。 自分ちさえ良ければいいのだから。

     もしも立場が逆で、にゃおんちの田んぼが上にあったら、にゃおも、そうやって自分勝手な
     水の入れ方をしてしまうんだろうか?

     あの人たちに、本当の所を聞いてみたい。
     聞いてみたところでガッカリするのがオチだろうけど・・・

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