田植え(午後の部)

   午後からは「植え継ぎ」っていう作業をする。 機械で植えてもどうしても、ちゃんと植えられてなかったり
   する場所や機械では植えられないデッドゾーンがあるからそこを手作業で植えていくんだね。 
   テレビのニュースなんかで早乙女が田植えをするシーンを見たことある人もいるでしょう? 
   あんな感じで腰をかがめて植えて行く重労働だよ。 ほとんどの人は「植え継ぎ」は別の日にやるらしいけど、
   平日は仕事をしている主人。 別の日にっていうのは無理な話。 だから田植えをしたその日にやって
   しまうんだって。 本人は「これって邪道なんだけどね」って言うけどさ、そりゃあ、しょうがないよねぇ。
   この「植え継ぎ」にも主人曰くのコツがあるらしく「素人のにゃお」には無理なんだって。 素人バンザイ。
   それでにゃおは主人が手植えをするそばで苗を渡してあげる役目。 田んぼの真中あたりにいたら、
   いちいち苗を取りに戻るのは大変。 だから主人の手元へ手植え用の苗の束をぽおんと放ってあげるのね。
   でもこれもノーコンピッチャーのにゃおのこと、 とんでもないところへ投げちゃったり、主人の顔面直撃に
   なっちゃったりで、ブーイングの嵐。 さらにブーイングが高まるのは直線部分を手植えする時なの。
   機械で植えられないデッドゾーンを機械が植えたラインの延長上に手植えして行くのだけど、
   中腰で植えてる主人にはちゃんとまっすぐに植えられてるかわからないらしい。 だからにゃおが
   軌道修正の指示を出すんだけど、これが曲者なんだな。 にゃおは主人の前方に位置して右にぶれてる
   とか左に寄れとか言うわけだけど主人が言うにはその指示を出すの遅いんだって。 主人の植える速度は
   結構速いんだよね。 だからにゃおの指示が間に合わなくなるわけだ。 当然主人としては機嫌が悪くなる。
   それににゃおと主人は対面してるからにゃおの右は主人の左。 右に軌道修正する時は「左に寄って」って
   言わなきゃいけないのをうっかりそのまんま伝えちゃうと、ラインはぐちゃぐちゃ。 主人も長時間の中腰と
   午前中からの疲労とでイライラ。 でもね、にゃおにもちょびっとだけ言い分があるんだよ。 主人は
   今まで植えてきたラインを背にして前進するんだよね。 当然自分の目の前には何もないから
   まっすぐに植えてるのかわからないよ。 でもなんで前進なの?
   植えてきたラインを見ながら後退して植えればいいじゃんって思うわけ。 
   もちろん、後ずさりしながら植えるのって前進しながらよりも数倍疲れるのはわかるよ。 でもそんなに
   文句を言うくらいならやり方変えたらって思っちゃうわけ。 にゃおはにゃおなりに一生懸命なんだよ。 
   日が落ちるまであとわずか。 少しでも役に立ちたいって健気にがんばってんだよ。
   それをそんなふうに「ちっ」とか舌打ちされると、かっちいぃぃぃぃ〜んとくるわけ。 
   「そんなに文句ばっかり言うなら、私にまっすぐか見ろって言わないで自分でやってよ」
   険悪な無言の時がしばらく流れる。 あほ、バカ、まぬけ・・・ 心の中であっかんべ〜
   そのうち主人が「ちょっと、ちゃんと真っ直ぐか見てよ」と言ってくる。
   じゃあ、文句言うなよな。 しょうがないからまた右だの左にずれてるだのと教える。 しばらくすると再び、
   「遅い」「ちゃんと指示しろ」・・・ でケンカの繰り返し。 あ〜 なんでこんなくだらないことで
   ケンカせないかんのだ。 お日様がにゃおたちをせせら笑いながら山の向こうへと落ちて行く。 
   あたりは薄暗くなり始める。 時計は6時半を回ってる。 もういや〜〜
   「もうや〜めた」
   主人が田んぼから上がってくる。 これが田植え終了の合図。 ひゃあ〜 やっと終われるのかぁ・・・
   一面に植えられた緑色の苗たちが風に揺れてる。 今は頼りないけれど、これがやがては大きく成長して
   風が吹くとざわざわって音を立てるようになるんだね。 ふぁ〜
   「見てよ、あそこなんかラインぐちゃぐちゃ。 ま、いっか。 終わった終わった」
   主人の言葉に「ま、いいんじゃないのぉ〜」と相づちを打っておく。
   あ〜 これから夕飯の支度してお風呂の準備して・・・ にゃおはまだまだ終わらない。

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