原寸線形座標は、ある意味、空想の座標です。
これらの平面線形、縦断勾配、横断勾配を、設計者の意図に忠実な形で設定する作業が線形補間です。
こうして作られた座標は、図面に忠実なものとなりますが、このまま橋を造ると必ず失敗します。
さて、設計者の意図に忠実な座標に、設計者が予想する(?)キャンバー値も付加しました。
メーカーによっては、これら施工延ばしを、原寸線形に折りこむ場合が有ります。
実際の原寸線形は、桁高変化や支点上の回転、架設方法等、まだ考慮すべき項目が多々有ります。
架設された橋が、図面通りになるよう作られるのが、原寸線形座標です。
製作時の問題や架設時の条件を全て考慮した座標の作成・・・とも言えます。
ここでは、原寸線形座標の作り方について考えてみましょう。
まず、信頼のおける、完成時の線形座標を入手します。
俗に”ライナー”と呼ばれるシステムに、道路の線形(直線とか曲線とか)を認識させます。
出力したい座標点を設定すると、道路線形上の任意の座標が得られる・・・というシステムです。
(正直なところ、”ライナー”を使ったことがないので、それ以上のことは分かりません。)
原寸線形座標の計算はここからです。
通常、”橋”と名が付けば、その全長は数十mから数百m(まれに数km)になります。
完成時の線形座標のピッチを、仮に数ミリ単位で出力すると、その数は膨大のものとなります。
そのため、通常であれば、3mとか5mとかいうピッチで線形座標は作成されます。
しかし、実際に橋を造るための鉄板を切る・・・作業は数ミリ単位のデータが必要です。
そのギャップを埋めるために、まず、線形座標の補間を行います。
平面線形が、明らかにまっすぐな橋であれば、さほど神経質にはなりませんが・・・。
逆に、それで失敗する事も有ります。
まっすぐな橋でも、何故か、橋の始点から終点が見えにくい・・・ことが多いはずです。
俗に、”橋の勾配”は、真ん中あたりが盛り上がっていることが多いのです。
通常の橋は、わずかでも曲線状の縦断勾配を持っています。
(理由の1つは、橋の上が車で一杯にになっても、橋が落ちないように持ち上げている。)
道幅の方向にも、勾配が付いているのが一般的です。(雨が降っても、水が溜まらないように。)
まっすぐなのは、上空から見た橋の形だけ・・・”だった”・・・では済まないわけです。
(ミリ単位・・・場合によっては、100分の1ミリ単位で・・・。)
3次元自由曲線は、その性質上、蛇行しやすいために、容易ではないのですが・・・。
橋には、それ自体何千トンもの重量が有ります。
何千トンもの重量は、橋自体に、”たわみ”を生じさせる。
(まるで、中年太りのお父さんの、お腹のように・・・。)
橋が、その重さで、たわんだ時、図面通りの形にする・・・そのためにキャンバーを付加します。
キャンバーは、あらかじめ、橋全体を持ち上げる処理・・・(”腹巻”とはちょっと違うけど。)
キャンバー量は、通常、設計者が計算します・・・10分の1ミリ単位で設定されています。
勿論、計算のプロが算出した数値だから、正しいのです。
この座標通り、橋を造ると、予定より小さい橋が出来る・・・事が一般に知られています。
鋼橋製作の宿命なのですが、”鉄”は高熱に対して、案外敏感です。
溶接という作業に”熱”が伴う限り、溶接した箇所は必ず縮みます。
10mで4ミリ、5ミリは当たり前、ブロックを溶接でつなぐと、それだけで5ミリも縮みます。
一つのブロックが、約10mとすると、100mの橋で、100ミリ・・・縮む可能性が有ります。
バイブル”道路教示方書”に、"100ミリの許容値"・・・は無かった、では済まないのです。
もっとも、原寸検査で、検査官に施工延ばしの説明が困難な場合(?)は、対象外です。
変な説明をしていると、問題ないのに”図面通り造って下さい。”と言われそうです。
見栄えのいい橋ほど、線形が難しかったりして・・・まあ、これも時代の流れでしょう。
でも、難しいから”システムが出力している数値が正しい”というのは錯覚です。
何故って、システムに設定を行うのは、他でもない、人間なのですから・・・。