展開の本質


ここでは、”立体を開いて、一平面上に表現する”際の基礎知識を説明します。
対象とする加工材料は、”鉄”に限定して説明します。

展開の定義でも触れたように、鉄は様々な加工が出来ます。
切る、つなぐ、曲げる、折る、延ばす、縮める、溶かす、固める…。
そのための手段も、”切断”だけで、ガス、プラズマ、レーザー、ノコ、プレスと様々です。
”立体を開いて、一平面上に表現する”際は、一平面のものを立体化する手段が重要になります。
では、具体的に展開が必要とされる、”曲げる・折る”について説明しましょう。


 1、中立軸について

 一般に ”曲げ”はロール、”折れ”はナックルという表現が使われています。
 だからと言って ”曲げ”はロール機で加工するだけでは有りません。
 プレス機のポンチ部分を曲面にしてプレスすれば、曲げた事になります。
 同様にポンチ部分を鋭角にしてプレスすれば、折った事になります。

 いずれにしても、加工後の鉄板の表面は、表と裏で面積が異なる事が知れれています。
 しかし、鉄板の板厚のどこかに、加工前と加工後に面積の変化しない軸が有ります。
 加工による鉄の延びと縮みの影響を受けない軸…中立軸と呼ばれています。

 一般に、曲げの中立軸は板厚の1/2、折れの中立軸は板厚の1/3とされています。
 しかしこれは、曲げを”ロール”に限定して、拡大解釈していると考えられます。
 (曲げも折れも板厚の1/2という考え方も有ります。)
 これらの解釈がまちまちなのは、業種によって加工の精度基準が異なるためです。

 中立軸を板厚の1/3で設定する際は、曲げ・折れの内側からが常識です。
 それを何かの時に間違うくらいならば、板厚の1/2で統一した方が良いのももっともです。
 ですが、超極厚の鉄板の加工時は、1/2と1/3では、かなりの誤差が発生します。
 最低限、本来の中立軸の理屈だけは理解して、展開を行うことが肝要です。




 2、最小Rについて

 曲げでも折れでもそうですが、折れの内側のRをゼロにする事は出来ません。
 仮に、折れ内側をゼロRにすると、折れの外面側は破断します。(一般に割れと呼ばれる)
 見た目では割れていなくても、外面側の状態はこれ以上延びない状態になってしまいます。
 これは、取りも直さず、鉄の強度に問題が出ている状態なのです。

 一般に軟鋼に分類される橋梁用鋼板は、板厚の0.5〜1.5倍のRを最小Rとします。
 (これより小さいRで加工すると、強度が保てない。)
 そのため、最小Rより幾分大きめのR(例えば2.5tR)を最小Rと規定するようです。

 勿論、これもまちまちなのは、やはり精度基準の解釈によります。
 曲げの指示なら中立軸上にRを加味して実長計算をしますが、折れはその限りでは有りません。
 折れの深さと板厚を確認して、中立軸上のRが必要かを判断するのが肝要です。




 3、鉄板の延び

 鉄を曲げたり折ったりすると、外面側の面積が増加します。
 また、極薄の鋼板は、ハンマーで叩くと、鉄板の中央がへこみます。
 これが鉄が延びたという状態なのですが、鉄の延び方には法則があります。

 例えば、一枚の紙を破るように、鉄板の一辺を引っ張ると鉄は延びるでしょうか?
 私の知る限り、鉄と言えども延びる前にちぎれると考えられます。
 何故ならば、鉄が延びても体積の変化がない以上、板厚の変化が必要だからです。
 引っ張る力で板厚が変化する前には、引っ張られた辺に亀裂が入ると考えられます。

 一般に、鉄を曲げると、外面側が延びて内面側が縮むことで板厚が維持されます。
 (外面・内面での延び・縮みが発生しても、中立軸上では変化しない。)
 板厚の変化が発生するとしたら、ハンマーで叩き続けたり、ひねったりする事が必要です。
 鉄板を中立軸上でも延ばすことは、それなりに大変なことなのです。
 逆説を言うならば、一般的な曲げ、折れの加工では、中立軸上の”辺”の長さは変化しない。
 この事は、複雑な曲面を展開する場合に非常に重要なことなのです。

 例えば、船の先っぽは、球形をしています。
 あの半球面も一枚の鉄板から作るのですが、鉄板の外形長は変化しないのが原則です。
 線状加熱を行っても、外形の”辺”の実長は変化しないから、展開が出来るのです。

 もっとも、変化する部分の計算(読み)が万全かと言うと、これは疑問です。
 そのために、余程複雑な展開物は、余長を加味して展開します。
 実際に出来たものを組み立てる時、それなりの長さで切って欲しいという事です。
 展開のプロと呼ばれる人は、人との付き合いも上手な人だったりします。
 実際の加工が、自分の考えている通りに進むかどうか、誰も分からないのです。

 加工するのが人間ならば、展開計算するのも人間なので、誰が良い悪いは難しい問題です。
 でも、だからと言って、”曲げれば外形長が変化する”とは考えないで欲しいのです。
 出来れば、あなたに本当の理屈を考えて欲しいのです。
 私の理屈は、経験値…いくら油にまみれても、外形は変化しないのです。




 曲げ、折れに関する経験的なお話をしました。
 鉄が生きていると感じる顕著な例を説明しました。
 本当の合理的な理屈は、多分、学術的な話になると思います。
 でも、 ”展開において不変なもの” だけは、分かって欲しいのです。


皆様のご意見お待ちします。^^;


理屈の倉庫に戻る メニューに戻る